狙われる奄美大島 中国の食指が伸びる

奄美大島、大型クルーズ船寄港で日本初「独占チャイナリゾート計画」浮上 町民は怒りと不信

2019/02/08
更新: 2019/02/08

「奄美の大自然や文化は、先祖が敬い守ってきた宝物。お金で売るなどあり得ない。独占チャイナリゾート計画には断固反対です」

奄美大島南部・瀬戸内町に持ち上がった大型クルーズ船の寄港地開発案が、地域住民や鹿児島県の専門家を動揺させている。中国本土の有力旅行誌で9年連続「最も優れたクルーズビジネス」と評された中国人副社長が運営するロイヤル・カリビアン・インターナショナルは、同社では日本初の独占チャイナリゾート計画を瀬戸内町に2019年2月、提案した。

ことの発端は2017年、国がクルーズ船訪日観光客500万人時代を掲げるなか、国土交通省は島嶼部で海外からの大型クルーズ船寄港地建設を受け入れる行政を募集したことにある。奄美大島南部、人口約9000人の瀬戸内町の町長・鎌田愛人氏は、この寄港地誘致に名乗りを上げた。

しかし、瀬戸内町側は住民30数人程の寄港地予定の西古見(にしこみ)集落と、町の4経済団体にのみ誘致に関する情報を通達し、他の住民には何も知らせることなく鹿児島県に要望書を提出。町議会議員や町民の不信感は募った。

2018年9月、瀬戸内町は、島外からの有識者を交えた「クルーズ船寄港地に関する検討協議会」(委員長・宮廻甫充・鹿児島大学名誉教授、19人構成)を発足させた。

瀬戸内町側からクルーズ船誘致と開発の具体案が示されないまま、12月、町は寄港地開発のクルーズ船企業の公募を始めた。

2019年2月2日、協議は3回目を迎え、ロイヤル・カリビアン・インターナショナル担当者4人(通訳含む)が出席。報道関係者や協議委員らの動画撮影や録音を禁止されたプレゼンテーションが行われた。

瀬戸内町役場企画課長によれば、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルに対して公開プレゼンを要求したが「ライバル社に企業秘密を明かす訳にはいかない」として、非公開となったという。

世界クルーズ市場第2位の同社は、8000人以上が乗船可能な世界最大級クルーズ船「シンフォニー・オブ・ザ・シーズ」(建造費12.5億米ドル、22.8万トン)を所有。同社の中国・北アジア太平洋地区社長は劉淄楠(リュウ・ジナン)氏。

米国企業であるロイヤル・カリビアン・インターナショナルが、中国ビジネスで成功するには、政府および中国共産党の強固な後ろ盾がなければ不可能に近い。劉氏は、中国国内の関係者推薦で決まる中国旅行業界賞を10年連続受賞。上海宝山港整備を支援した同区共産党トップも、劉氏から表彰できるほどの権力がある。劉氏はまた2018年11月、中国習近平主席も出席した中国国際輸出入博にも登壇した。

同年10月下旬に上海で開かれた、アジア太平洋地域クルーズに関する国際カンファレンスでは「中国人のニーズに応じて(寄港地)現地に合わせるのではなく、最適化が我が社の戦略だ。想定さえ超えるサプライズをもたらす」と語り、船内や寄港地におけるアミューズメント性の強化を示唆した。

2019年1月、新華社、環球時報、中国外交部(外務省)中国アジア発展委員会が共催する2018年中国経済フォーラムおよび第16回中国経済人年次総会が北京で開催され、劉氏は「2018新時代中国経済優秀経営者」賞、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルは「2018新時代中国経済革新企業」賞を受賞した。

「奄美を植民地のように扱ったリゾート計画」

ロイヤル・カリビアン・インターナショナルが2019年1月までの計画として発表している日本の福岡、鹿児島、長崎、沖縄などの九州・沖縄に寄港する周遊ツアーは、上海(宝島)および天津出発の便のみ、乗客の大半は中国大陸の観光客と考えられる。日程は4~7日間で、一人当たり平均日割り5000~8000円と中間層が主流。

実は、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルによる独占チャイナリゾート計画は、約2年前、奄美大島中部の龍郷町で初提案された。開発地区に人工の淡水プールほか、展望施設、大型滑り台の建設などを予定する、一日滞在型モデルの巨大なアミューズメント施設構想だった。

奄美大島南部・瀬戸内町の上空写真。中央奥に、大型クルーズ船寄港地案が浮上する集落・西古見(にしこみ)がある(creative commons)

当時は、奄美大島内外の関係者も駆けつけて抗議。龍郷町側も反対し、立ち消えとなった。だが、このたび同じ計画が、奄美大島南部の瀬戸内町で浮上した。

「龍郷町の計画は奄美を植民地のように扱った独占リゾート計画だった。今回も全く同じものに間違いないだろう」と協議会委員の一人は大紀元に述べた。本記事冒頭は、奄美大島のマスツーリズム開発を懸念する、同協議会委員からの言葉。

2月2日のロイヤル・カリビアン・インターナショナルのプレゼンテーションは当初、非公開だったが、同資料は同6日に瀬戸内町役場ホームページにて公開された。

日本初「チャイナリゾート」計画を隠して、中南米をPR

ロイヤル・カリビアン・インターナショナルによる、南太平洋における独占リゾート計画のイメージ写真(注:瀬戸内町でのプレゼンテーションでは提示されていない。出典:Royal Caribbean International)

ロイヤル・カリビアン・インターナショナル米国本社はこれまで、発展途上国である中南米バハマとハイチの2カ所に大規模な独占リゾートアイランド開発を行ってきた。

2018年5月、同社マイケル・ベイレイ最高経営責任者(CEO)はニューヨークで、同社が9兆円を投じて展開する「パーフェクト・デイ・アイランド(中:完美島嶼暇系列、英:Perfect Day Island Collection)」と呼ぶ、独占リゾート計画の詳細を記者会見で発表した。

ベイレイCEOによると、詳細を明らかにしているバハマとハイチにおけるこのリゾート開発は「シリーズ」であり「世界的な構想だ」という。「アジア太平洋地域でも実現を目指す」と同CEOは語っている。

米旅行誌「トラベル・エージェント・セントラル」はCEOの発言を受けて、「アジアやオーストラリアでも同開発が遠くない将来発表されるかもしれない」と書いた。

翻って今回、瀬戸内町および「クルーズ船寄港地に関する検討協議会」に提示された、同社クルーズ船寄港地開発計画の全36ページの資料は、まさに同社が主に米国ニューヨークやロサンゼルスからの顧客向けに手掛けてきた、この「南太平洋の独占リゾート開発」イメージだった。

資料によると、クルーズ船顧客は白人、従業員は褐色の中南米のラテン系。地域貢献のPRでは「安全な飲料水を提供、小学校や公民館の建設・運営」を書き連ねた。途上国支援のコンセプトをそのまま踏襲した色合いがある。

奄美大島瀬戸内町に対する開発については、文書2ページと写真合成1ページのみ。中国人観光客を想定した写真や文章はほとんどない。

この点では、同社が中国国内顧客向けに配布するPR資料と大きく異なる。国内広告には著名人アンジェラベイビー夫妻や映画女優・范冰冰(ファン・ビンビン)を起用しており、小さな子どもを抱える家族、高齢者、中間層家族向けのイメージを強調している。

もし、この奄美大島・瀬戸内町における寄港地開発が実現すれば、日本初の訪日観光客向けクルーズ船寄港地リゾートアイランドとなる。

ロイヤル・カリビアン・インターナショナルによる、南太平洋における独占リゾート計画のイメージ写真(注:瀬戸内町でのプレゼンテーションで提示されたもの。瀬戸内町公式ホームページで確認できる。出典:Royal Caribbean International)

協議会に参加した委員によれば、プレゼンテーションでは、「瀬戸内町(西古見)のリゾート開発区域から乗船客を出さない」「地元の祭りや歌の演出、工芸品の販売をする」「地域住民の暮らしのために、茂み等による緑の『目隠し』を作る」「住民雇用創出を図る」「瀬戸内町に税金が入る」などを主張した。

しかし、開発計画の規模、寄港する場合のクルーズ船規模などについては説明がなかったという。

「ロイヤル・カリビアン・インターナショナルは、2年前の龍郷町の公開プレゼンで住民から噴き出した不安や罵声を経験している。これらを抑え込むために、当日非公開プレゼンにしたり、具体性の欠ける表面だけのものにしたのではないか」

委員によると、同社のプレゼンが行われることは、第3回協議会の開催2日前に知らされたという。

大紀元は、ロイヤル・カリビアン・インターナショナル日本総代理店に、奄美大島における開発計画案についてコメントを求めたが、返答はない。

2月2日の協議会では、町民による組織「奄美の自然を守る会」が、「奄美大島の文化と自然保護のためには、持続可能な観光を目指すべきだ」と主張。「瀬戸内町のみならず奄美大島全体のブランド価値と島民に対する継続的なメリットを考えたうえで、客単価の低廉な大型観光(マスツーリズム)よりも、高級客層をターゲットとした長期滞在や、小型クルーズによる自然探索を楽しめるエコツーリズムが適している」と述べた。

同会はまた、西古見のような過疎地域に、外国人による特定居住区が建設されることは、治安問題や文化摩擦が生じかねないと危惧を示した。

日経新聞は2018年10月、捜査当局の情報として、外国発で日本への入域のクルーズ船の乗船客が日本で失踪した例は、2015~2017年で少なくとも171人いると報じた。

出入国管理センター・クルーズ船担当は大紀元の取材に対して、日本寄港の海外発クルーズ船企業に対して、乗船者の名簿と顔写真、指紋を提出させているという。「外国からのクルーズ船および観光客増加に対応して、迅速かつ厳正な審査に務めている」と述べた。

クルーズ船寄港地として検討されている瀬戸内町出身の衆議院議員・金子万寿夫氏は2019年1月、町内で行われた国政懇談会で寄港地開発について言及している。「(西古見は)私のふるさと。住民に悪影響を及ぼさないことが前提だ。計画は長期的な視点で見たい」と議員は述べた。

政府は2月、奄美・沖縄群島を世界遺産への再推薦を発表した。瀬戸内町の「クルーズ船寄港地に関する検討協議会」委員は、この流れと逆行しているとして、大型クルーズ船問題の深刻さを訴える。

「これは瀬戸内町だけの問題ではないはずだ」

(文・佐渡道世)