現代中国社会を風刺したショートストーリー「支払いをよろしく」

2016/04/21
更新: 2016/04/21

 3月17日、中国のSNS微信の「華人観察」に転載されたショートストーリー「幇我買個単(支払いをよろしく)」が中国社会で大きな話題となっている。

ストーリーは、同窓会に参加した庶民代表の中年女性の視点から、汚職警察、わいせつ罪で捕まった教育者、裏口入学の希望者、愛人を囲む公安局長が、平気で嘘をついたり職権を乱用したりして、高額な飲食代をなすりつけ合うというもの。「支払い」という当然の責任を誰もが避けて、自分より下の立場に押し付けるという、中国の腐敗社会を表している。

「百度資料」によると、この「支払いをよろしく」は中国のベストフィクションと高く評価されている。作者は中国社会全体の構造を鋭く描き出し、ネットで伝わる2008年の「ベストストーリー賞」を受賞した。


 「支払いをよろしく」

学校を卒業してからうまくやっている多くの同級生たちに比べると、私は映えない生活している。工場で製図の仕事に就き、夫と2人、毎月のささやかな収入で家計を切り盛りしている。

もともと同窓会など来るつもりはなかったのだ。でも、旧友からの誘いを断り切れなかった。

夫はもうすぐ中学生になる息子の宿題を見ている。よい中学に進学させてやれるかどうかが夫の目下の悩みで、そのために毎日かけずり回っている。息子にそっと視線を移すと、私は家をあとにした。

同窓会の会場の天安酒店は高級ホテルだった。すでに宴会場は参加者たちでにぎわっており、私が最後の1人だった。まだ席にもつかないうちに、あちこちから名刺が手渡された。ざっと見ると会社の重役や「長」の付く立派な肩書ばかり。その中の1枚が目に留まった。学生時代、万年最下位の成績だったあの阿軍でさえ、派出所の所長になっていた。

ウェイトレスが運んでくる豪華な料理を眺めつつ、自分がいかに世間知らずか思い知らされた。テーブルに並べられた料理だけで、私の3ケ月分の給料が飛んでいくだろう。

阿軍はまるでこの集まりの主催者のように、絶えず参加者に酒を注いで回り、料理を勧めながら「どんどん食べてくれ!ここは俺のおごりだ」などと鷹揚に声をかけていた。みな、なんのためらいもなく杯を交わし、おしゃべりに興じている。賑やかな宴だった。

食事を十分に堪能し、夜も更けたころ、ようやくお開きとなった。でも、一体だれが支払うのだろう。気前よく金を出すものは、誰もいないように見えた。

阿軍が携帯電話を取り出して、どこかに電話をかけた。「李君、今日のわいせつ物取り締まりで誰か捕まえた? 何、たった今捕まえた?よくやった!俺の支払いをさせるから、適当なやつを1人、天安酒店までよこしてくれ」 

話し終えると、阿軍は得意げに携帯電話をポケットに放り込んだ。同級生たちの間から、笑い声が巻き起こった。

15分後、中年の男がやってきた。男は請求書を見ると眉を寄せた。手持ちの金では足りないのだろう。すぐに携帯電話を取り出すと、どこかに電話を入れた。

「もしもし? 校長の馬です。息子さんをうちの学校に入れたいと言っていましたね。今日、おたくに受け入れ許可を出すことが決まりました。ところで私は今、友人を食事に招待していましてね、こちらにきて支払いをしてもらえませんか。場所は天安飯店の203宴会場…」

20分後、ノックする音がして、宴会場の扉が開いた。私は目の前が真っ暗になった。強度の近眼用メガネをかけた私の夫が、そこに立っていた。

ホテルのスタッフは夫に明細書を渡しながらこう伝えた。「お会計は9888元です。クレジットカードでのお支払いでしたら、一階のフロントまで来ていただけますか」

夫は絶句した。「たかが食事にどれだけ金を使うんだ! カードもないし持ち合わせもない、どうしたらいいんだ…」 頭の中ではそんな思いが渦巻くながら、スタッフに引き付けられるようにふらふらとカウンターのそばまで歩み寄って行った。

その時、誰かが夫の肩を叩いた。ブランドの服に身を包み、きらびやかに着飾った李という女性だった。李女史は思いがけず夫に会えて大変嬉しいようで、興奮した面持ちでしゃべり始めた。

「まあダーリン、あなたもいたなんて! 誘ってくれないなんてひどいじゃない」お金に困らない李女史は、1年前にネットのチャットで偶然、夫と知り合った。シャイでからかい甲斐のある夫を大変気に入り、勝手に夫を友人以上愛人未満の「知己」と見なし、なにかと面倒を見ているようだ。

「こんなところで、いったい何してるの?」「友達にご馳走したんだけど、持ち合わせが足りなくて焦ってたんだ」「いくら?」「9888元」「それっぽっちで?しょうがないわね」

李女史は携帯電話を取り出すと、甘ったれた声でしゃべりだした。「パパ~、今どこにいるの?私ったら同窓会に来たのにお金を忘れてしまって。天安酒店の203宴会場なんだけど、すぐ来てもらえないかしら?たった2万元よ。来れないって言うなら、そっちに乗り込んでやるわよ!」

愛人の李女史からの電話を受けた公安局長の呉は、会議中だった。あわてて部屋を抜け出して、部下に電話をかけた。「今オレは、『忠誠如山、感恩奉献(忠誠をつくし、恩に感謝しこれに報いる』がテーマの会議にかかりきりで手が離せないんだ。天安酒店でおれの客が食事しているから、急いで行って支払っておいてくれ。203宴会場だ、ちゃんと払っておけ」 

電話の相手は、派出所所長の阿軍だった。

(翻訳編集・桜井信一/単馨)