内モンゴルの牛乳工場(Cory M. Grenier)
【大紀元日本5月21日】中国科学院所属研究機関の中国現代化研究センターが13日に発表した『中国現代化報告2012:農業現代化研究』との研究報告書において、「2008年時点までの中国農業経済水準は米国と比べて100年も遅れている」と指摘し、「将来40年間に(農業経済水準を上げるために)2.8億人の農民を移転させなければならない」と提案した。
同報告書では、農業増加値の比率、農業労働力の比率および農業労働生産率との3つの指標で分析すると、2008年時点まで、中国の農業経済水準は英国と比べて150年、米国と比べて108年、韓国と比べて36年も遅れているとの結果になったと示された。
また、2008年時点まで、米国の農業労働生産率は中国の90倍以上、日本とフランスは中国の100倍以上ある。さらに、中国の農業労働生産率は国の工業労働生産率より10倍も低く、農業の近代化水準は国家近代化水準と比べて約10%低いという。中国の総合農業近代化指数は38となっており、世界ランキングの65位となっている。
5月15日付「南方日報」によると、中国近代化研究センターの何伝啓・主任は中国農業の近代化は様々な課題を直面していると示した。何氏によると、2008年以来、中国1人当たりの平均耕地面積は世界平均の40%で、1人当たりの淡水資源は世界平均の33%しかない。中国農業経済の低水準は農業制度、農業管理およびその体制などと関係していると、何氏が指摘。
何氏は、中国の農民には土地所有権がなく、土地使用権しか持っておらず、特に土地が農村の人民公社に所有されるようになってから、農民と土地の関係が遠くなり、「もし、その土地があなたの家のものであれば、あなたはきっとその土地を充分に利用しより多くの価値を創出するだろう」と現在の土地所有制度を指摘した。また、何氏は「我が国の農業セクターにおいて、ある一部の農産物が生産過剰になると同時に他の一部の農産物が生産不足になるという矛盾が毎年生じている。これは農業セクターの管理が十分に行き届いていないことを表している」と示した。
また、三農(農民・農村・農業)問題専門家の李昌平氏は、中国農業経済の発展プロセスにおいて、農民の組織化が重視されておらず、農民1人ひとりの力が分散し過ぎていることが最大な問題だと批判した。
「将来40年間において、2.8億人の農民を他のセクターに移転する必要がある」?
同報告書によると、将来40年間において中国は約2.8億人の農民を他のセクターに移転する必要がある。そのため、農業労働力総人口は3.1億人から3100万人までに減少すると予測する。国内専門家は農業労働力の移転を加速化させるには、徐々に戸席制度を廃止し、信用管理制度を構築していかなければならないと提案する。
2.8億人を農業セクターから移転するとの方針について、国内多くの人々は疑問視をしている。浙江省嘉興市に住む「現代風」とのネットユーザーは掲示板で、計画的に農業人口を移転させることは、農業生産効率を向上させることができないばかりか、逆に社会の公平さを害することになると批判した。
「現代風」は、「例えば、10人で10ムー(1ムー=6.667アール、10ムー=66.67アール)の耕地でお米を作っており、1人当たりは年間1000キログラム、10人で10000万キログラムのお米を生産しているとしよう。10人のうち、9人を他の産業に移転させて、残りの1人が10ムーの耕地でお米を作って、もし年間でこれまでと同様に10000万キログラムのお米を生産したとしても、これは生産効率を向上させたと言えないだろう。なぜなら、これは他の9人が農業生産をしないという前提の上で起きたことだ。最も大きな問題となるのは、その9人は他の産業で仕事を見つけられるかどうかという事だ。何も技術や特技を持っていなく、仕事を見つけられない9人は、貧困層の一員になる可能性が非常に大きい。計画的に農業労働人口を他の産業を移転させることで、表面的に農業労働生産率が高まったかもしれないが、しかし新たな雇用問題が生じ、他の産業の生産率が低下することになるので、業界全体の生産率は変わることがないだろう」と分析した。
少なすぎる中国の農業補助金
世界では農業生産者に対して補助金政策を行っている国が多くある。海外の農民の所得水準は都市部住民の所得水準との差が非常に少ない。中国では、2004年から初めて、穀物を生産する農民を限定対象に補助金政策を実施した。
この補助金政策を実施した背景には、収入の増加を期待して数多くの出稼ぎ農民工が都市部に滞留したことで、農民工たちの子供の教育問題、医療問題、労使トラブルなどの問題が多発した実態がある。また、農民工が都市部に滞留したことで、農村部の労働力が減った代わりに、荒れる穀物の耕地がとんとん増えた。このような穀物生産危機と都市部にいる農民工たちの社会的葛藤を緩和するために補助金実施された。
中国の農業補助金制度は、農民への間接補助(生産経営などのコストを低下させる投入補助と、農産物価格への補助である産出補助)と、直接補助(直接農民に補助金を渡し、収入を増加させること)から成り立っている。しかし、この補助金総規模は、世界貿易機関(WTO)が制定した農業協定で定められている「イエローボックス補助金」(相殺関税を課すことが輸入国に許される補助金のこと)が許されている農産物総額の8.5%にも達していない。WTOのイエローボックス補助金制度では、中国の農業補助金規模は毎年480億元を許されている。しかし、現在の補助金規模は毎年276億元しかない。これは政府当局が農業への投資が乏しく、農民全体の収入が全く増えない実態を反映したといえるだろう。