「はっきりとした証人と物的証拠がなければ、私は二度と転んだお年寄りを助けない」。広東省肇慶市に住む華君は、転んだ70代の老女を助けたばかりに、老女に濡れ衣を着せられて危うく高額な損害賠償金をゆすり取られそうになった。
国内ニュースサイト・中新網によると、事件当日の7月15日早朝、華君はバイクで現場を訪れ、朝食を買おうとした。そのとき、数十メートル先で、自転車に乗っていた老女が突然何回かふらふらした後、自転車ごと転倒した。老女はその時「早く起こして!」と叫んだ。
華君は急いで老女から3メートル離れたところにバイクを止めて、老女に駆け寄り手を差し伸べた。そのとき、彼女はとても苦しい表情をみせていた。華君の手が彼女に触れると、彼女は「痛い、痛い」と言葉を発して、ついには「私に触らないで!」と言った。
そのため、華君は現場から立ち去ろうとしたところ、老女が豹変した。華君を指差しながら、「逃げる気?あんたが私にぶつかって転ばせたのに」と言い出した。激怒した華君はこの場で老女と口論になった。
当時、現場付近にいた清掃員と近くのパン屋の店員は事件後、メディアの取材に対して、自転車が転倒する音や、「早く起こして!」という叫び声は聞こえたが、華君が老女を転倒させる場面は見ていない、と証言した。
結局、華君が110番に通報し、交通警官と老女の親族が現場に駆けつけた。そのうちの一人、老女の娘婿はとても凶暴なそぶりをみせ、華君の言い分をまったく聞こうとしなかった。「周りの人がだれも助けに来ないのに、お前だけが手を差し伸べたって?そんなこと、だれが信じるか!お前がぶつかって転倒させたに決まっている。このご時世、善良な人がどこにいる?みんな死んじまったよ」と暴言を吐いた。濡れ衣を着せられて怒り心頭の華君はその場で、老女の娘婿と体当たりしたという。
老女は病院に入院して検査することになった。真相を調べるために、交通警官は華君のバイクを一時押収した。事件発生後の数日間、華君はよく眠れなかった。仕事も休み、毎日現場で目撃者を探して、自分の無実を証明しようとした。「この辛さは一生忘れない」と彼は語った。
結局、老女は損害賠償を求めた。言い分が真っ向から食い違うため、警察当局は現場の監視カメラの映像を調べるとカマをかけた。すると、事態が急展開した。なんと、老女は親族に付き添われて警察に自首してきた。自分で転倒したのであって、華君の責任ではないと認めたのである。
華君のようなケースは、中国では決して珍しいことではないようだ。これまでにも転倒した老人を助けたために、加害者だとの濡れ衣を着せられて、高額の費用をゆすられる事案が多発している。中には法的訴訟にまで発展する例もあった。
湖北日報は9日、次の事案を報道した。「道で転んで助けてもらった場合、助けてくれた人は一切の責任を負わない」。これは武漢市在住の87歳の老女・周さんが書いたメモで、いつも所持しているという。数日前、周さんの88歳の夫が、道端で倒れたがだれも助けてくれなかったため、鼻血が呼吸道を塞いで窒息死してしまったからだ。
同様の事件は四川省でも発生した。成都商報9日の報道によれば、86歳の老女がバスを下車するとき、バス停の路面に倒れ込んだ。初めは、だれ一人助けの手を差し伸べなかった。彼女は「助けてください。ご安心ください。私は絶対にあなたたちをゆすらない。運転手のせいにもしない」と話した。結局、周りの目撃者も証人になると約束したため、2人の青年が彼女を助けた。
中国でもっとも注目された同類の事件は2006年11月、南京市で起きた「彭宇案件」である。南京市の市民・彭宇さんは、路上で倒れた徐という老女を病院まで連れて行った。検査の結果、徐さんの大腿骨は骨折し、手術する必要があった。徐さんはその場で彭宇さんが加害者だとし、治療費を請求すると言い出した。後に、本件は民事訴訟にまで発展した。彼女が転倒する現場を目撃した市民は、彭宇さんの無実を証言したが、裁判所は依然として彭宇さんに4割の治療代の支払いを命じた。
中国衛生部はこのほど、転倒した老人を補助する技術的な指南を公表し、「急いで引き起こすのではなく、状況を把握してから対応すべき」などと記した。この指南について、道徳レベルの問題を解決しなければ、技術レベルで議論しても問題解決にはならない、という疑問の声が多く挙がっている。
(翻訳編集・叶子)
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