【大紀元日本8月29日】8月中旬、車のライセンスを取るために運転の練習に太湖の側に来た趙(匿名)さんは、濃い緑に覆われた水面に驚いた。「アオコの繁殖はすでに抑えたと報道されたではないか」という。車窓を閉じても入ってくる悪臭、湖岸に油っぽいアオコが溢れている太湖の光景。
太湖は豊かな浙江、江蘇の両省に跨る湖だ。2007年夏、太湖のアオコ発生問題で水質汚染が深刻となり、太湖がある無錫(むしゃく)市では一時的に、水道から出てくる水は悪臭を放ち、市民がパニックになった。この問題に国内外メディアが注目したことを受け、北京上層部は処理に高い関心を寄せ、当局は太湖の水質汚染問題に少なくとも一千億元以上を支出することとなった。中国国内メディアの報道によると、2009年だけでもアオコ消滅に390億元が使用された。
しかし、現地の漁民らは、3年前と比べて今年の状況はよくなっていないと不満を漏らしている。アオコを食べさせるために湖に放った30万匹の魚は、今年大量に死んだと、現地の漁民たちが話している。
政府が緘口令
漁民たちの目に映る深刻なアオコの状況と、メディアの報道は大きく異なる。地元紙では、「市の環境保護会議で発表された情報によると、今年太湖のアオコは、例年のような広範囲の繁殖現象がまだ見られておらず、無錫市の水質は徐々に改善に向かっている状況」と記している。また、衛星の観測データ
8月の太湖のアオコ発生状況(呉立紅さん提供)
から、今年のアオコの繁殖状況は例年より遥かに少ないとの朗報で一色で、政府の2007年からの努力と修復の功績をアピールしている。
太湖の近くの上海では、万博が開催中。上海市は環境保護都市をテーマに掲げながら、近くで深刻な水質汚染が発生したとなると、当局のメンツを潰すことになるからだろう。今回のアオコの大量発生状況について、国内メディアは一切報道していない。
一方、政府が太湖の水質汚染を「力を尽くして修復」しようとしてきたこの3年間は、太湖北側の村に住む呉立紅さん(42)にとって、苦しい試練の日々であった。太湖の汚染問題を暴露したり、環境保護活動をしたりしていた呉さんは、2007年、他人の財産を強制的に奪ったとして3年の判決を言い渡された。2人の精神病患者と同じ部屋に入れられ、刑務所側の態度も荒かったそうだ。また、彼の家族が面会に訪れた時も監守が聞き取れるよう、方言で話すことを許されなかった。
今年4月に釈放された呉さんは、投獄されたことについて、自分に太湖汚染に関する意見を発表させないように、地方政府が故意に罪を着せたと考えている。最近のアオコの大発生について、取材に来た国営CCTVの記者から、政府は報道を規制していると聞かされたと呉さんは話した。
釈放された今も呉さんは監視されている。アオコ汚染について外部に話すことを警察に禁じられているが、もとは美しかった太湖の破壊された様子を想うと、抑えきれず話してしまうという。
奥さんの話によると、地元の人々は呉さんを環境保護の英雄と評価しており、釈放時には村で爆竹を鳴らして祝ったという。
呉さんの家のリビングの壁には、05年北京政府職員との良好な関係を写した写真や、06年に自動車メーカーのフォードから送られた環境保護の賞状が飾られている。また、政府に宛てた太湖汚染に関する提案書300通が保管されているが、これらの書簡に対する政府からの回答はないという。
汚染改善の支出はイメージ改善に
かつて中国で最も美しい「魚米之郷」(水産物や米がよくとれる肥沃で豊かなところ)と呼ばれた地域にある太湖は、30年前、水をそのまま飲むことができた。汚染問題の根本は、付近にある数千もの企業から出る工業廃水だと呉さんはいう。
「これらの企業を全部閉じるのは不可能だが、少なくとも太湖に廃水を流すのは禁じるべきだ。そうしないと根治は不可能だ」と呉さんは話す。
しかし、政府が投入した2千億元の汚染修復費用は、太湖の水質の実質な改善になっていない。呉さんは釈放された後、周りの環境はきれいになったという。「湖の沿岸には木が植えられた。太湖西岸の周鉄鎮の住宅は全部ペンキが塗られて一新した。ペンキのプロジェクトだけで3900万元が支出された」と嘆く。近くの村の地方幹部の新築の家は美しく装飾された。高官が汚染対策措置のために視察に来て際、良い印象を残すためだという。
「地方政府職員は中央政府職員を騙し、地方の民衆のご機嫌をとっている。太湖は以前よりさらに汚染されているというのに誰も気にしていない」と呉さんは話す。