【大紀元日本5月1日】「物権法」が全人代を通過して以来、中国各地での(当局による)不動産の接収に伴う強制撤去の問題が国内外の関心となっており、同法が強制撤去の問題を解決できるか否かが注目される。人民の多くが、この法律によって「雪融けが来た」と認識しているものの、中国共産党(中共)建設部城郷計画局の唐凱・局長は、3月28日の定例記者会見で、「個人は集団に服すべきもので、自らを制約し、無限に自己の要求を拡大することはしてはならない」と強調した。
裁判所は党の傀儡
人民の多くが「物権法」に大きな期待を寄せている時に、問題の核心部分を見落としている。すなわち、中共は建国以来、党の方針によって国を治めてきたのであり、判決の事案も党中央の指示に従わなければならないことである。クリーブ・アンスリ弁護士はかつて、中国政府と党は、法治を実施する気など毛頭なく、党が裁判所のすべてを操縦していると指摘した。アンスリ弁護士は、元中国最高裁判所の任健新・所長の言葉を引用し、「法廷は党の決定を執行するだけだ」と裏付けた。
カナダの著名な弁護士であるアンスリ弁護士は、もっとも早く上海に設立された弁護士事務所で活躍した外国人弁護士の一人で、香港、台湾、大陸で19年の実務経験があったが、2002年には業務を停止せざるを得なくなった。なぜなら、上海での14年間の執務経験で、300以上の案件を取り扱ったものの、ほとんど(法廷で)勝てなかったばかりか、僅かに勝訴した案件でもそれが履行されることがなかったからだ。同氏は、「中国には独立した司法と公正さがない。中国の裁判所は、その本来の機能を果たせていない」と指摘している。
強奪は道理があり、権利主張は違法になる
アンスリ弁護士によると、野蛮な強制立ち退きの問題は、中国では深刻な社会問題となっている。ここ数年来、立ち退きを強いられる多くの住民たちが共同で弁護士を雇い、裁判所における公正な解決を試みている。しかし、多くの場合、原告を代表する弁護士たちは、「監獄入り」となるか、「日干し」になるか、「事務所閉鎖」の憂き目に遭う始末だという。中国ではこういった案件が頻発しているという。同氏は現在、「中国人弁護士の権利を見守る会」のカナダでの活動に積極的に参与しており、中国の弁護士たちが直面している現状に強い関心を寄せている。同氏は「中国の弁護士は、法律を通じて当事者の利益を保護する専門の職業に従事している。しかし、結果として、彼らは一部が監獄入りとなったり、当局によって恫喝されたり、または司法当局から、代理する案件は受理されないと警告されたりしている。これらは、中国で毎日のように発生している人権蹂躙問題であり、関心を寄せるべき領域である」と指摘した。
例えば、上海の鄭恩寵・弁護士は、立ち退きを強いられた上海住民のために、上海富豪の周正毅氏の犯罪を告発し、周氏に対して懲役3年の有罪を立証した。しかし同時に、鄭氏自身も同じ判決を言い渡され、政治権利を1年剥奪された。その後、業者と政府関係者の癒着が発覚し、周氏の後ろ盾であった陳良宇・上海市委書記が、社会保険基金の横領で処分された後も、周氏を告発した鄭弁護士に対して、出獄後の監視が厳しく、嫌がらせは以前よりも激しくなったという。その理由は、鄭弁護士がかつて官民の癒着を告発し、それらの背後にある強権勢力に対して勇敢に立ち向かったからだという。
強制立ち退きを強いられた各地で、デモが頻発
「物権法」が可決されてから、中国各地で民衆による私有財産を守る事件が頻発している。広東中山三角鎮の農民100余人は、村内の道路を遮りデモを行った。また、広東従化市沙貝村では3月27日、政府による土地強制収用に伴い、警察と住民が激しく衝突した。一方、香港住民もまた、深圳・広州にある先祖から残された家屋を守ろうとしている。
一方、習近平・上海市委員会書記の着任早々、3月27日午後に上海世界博覧会に伴う強制立ち退きを強いられた住民数十人が、取り壊された家屋に対する賠償や強制収用された集合土地、農地の賠償規定に見合った賠償を受けていないと、抗議デモを起こした。同博覧会に伴って立ち退きを強いられた姜斌氏は中央社の記者に対し、「立ち退きには、正当な法的手続きはなく、浦東新区政府は強行した」と述べた。
重慶「もっとも頑固な釘子戸(しっかりと釘で打ち付けられて動かない喩え)」が連想させるもの
重慶市民で渝州の元「スタンド・アップ・ファイティング(中国の格闘技)」チャンピオンの楊武さんとその妻の呉蘋さんは、二階建ての建物のまわりを掘削機で10メートルもの深さまで掘り返された「陸の孤島」を死守していた。当時の楊武さんは、自らの「カンフー」で、開発業者とそのとり巻きを追い払っていた。
一方、呉さんは、自称「全国至たる所に商売を持っており、少しは法律知識のある商売人」で、自分たちの権利を主張してきたここ3年、開発業者と戦う手段として、二人は多くの法律法規を熟読したという。呉さんは、「開発業者らに、土地を開発する前に、先に法律法規を学びなさいと教育した」というほど法律を熟知していると豪語していた。彼女は後に、父親が重慶市の退職した検察官で、母親もまた検察関係者、子息もまた法律を勉強していることを明かした。
重慶の「もっとも頑固な釘子戸」が話題になっている時に、強制撤去は「公共の利益」の名目の下で進められた。物権法が通過後に戸主が声高に「法律(物権法)」に支えられていると訴えたため、他の釘子戸の住民たちも望みを抱いた。これに対して、中共メディアが突如として、すべての釘子戸を批判し、中国建設部も、立ち退きを強いられた者は思いのままの要求をしてはならないと非難した。また、上海世博局からも、上海の釘子戸の住民たちに対して、思いのまま値段を吊り上げないよう希望すると呼びかけた。そして、新華社ネットもまたこの件について、メディアの報道が集中しすぎ、過熱し誇張していると指摘した。
「陸の孤島」は最終的に和解の上、4月2日に取り壊されたが、楊武さんが当時、物権法を盾にとってメディアの前で五星旗を翻す様は、さながら当時の天安門広場で愛国を出発点に民主化を叫ぶ学生たちを髣髴とさせた。当時学生たちは、中共による天安門での血の粛清が始まるまでずっと、平和的な言論によって自分たちの主張を行ってきたのであるが、「陸の孤島」でも同じく武力などは使わず、平和的に自身の権利が主張されたのである。
「物権法」は誰の利益を保護しているのか
中共当局が公布した「2006年第七次私営企業調査報告」では、中国私営企業主の1/3が党員、2/3が元国家機関の幹部、国営企業の管理職および技術要員だ。この統計が示すように、中国私営企業主は、官民癒着によって生まれたものだ。
中共が武力で政権を奪取して以降、すでに計画的に民衆の土地・財産を接収して国有とした。そして現在、汚職高官らは人民と国庫の財産を強奪しておきながら、「物権法」を担ぎ出したことは、まるで先に他人の財産を略奪しておきながら、私有であることを公に宣言しているのと同じだ。
「物権法」の公布後、「中国天網」の報道によると、四川省自貢市で土地を失った農民の代表・劉正有さんが、2007年3月29日午前8時、自貢当局は、政府職員、警察、開発業者、暴力団関係者など約200人を動員、各種車両13台、パワーショベル1台、10tダンプ・カー2台で、土地収用を強行するために、自貢風鳳郷大湾村へ派遣したと明らかにした。
前出のアンスリ弁護士は、「一般市民に対する野蛮な追いたてや強制的な土地の接収は、往々にして政府当局と開発業者との癒着で行われている。政府の職員が、開発業者のやりたい放題に、住民の家屋を取り壊させるのは、中国公民の土地財産を収奪しているのと同じだ」と譴責した。こういった怒れる民衆の抗議行動は頻発しており、全国に広まっている。類似事件はすでに中国公民の権利に対して、もっとも深刻な人権問題となっている」と指摘した。