権力の不正を暴き、社会に真実を伝える。それは記者の使命であり、民主社会では守られるべき報道の自由でもある。
しかし中国では、不正を追及した記者が監視や嫌がらせを受け、拘束や尋問を繰り返され、罪をでっち上げられ、国外へ逃れてもなお追われ続けることがある。
中国共産党の高級幹部まで関与したとされる巨額の資金洗浄(マネーロンダリング)や金融詐欺事件を追及してきた調査記者、白兆東(はく・ちょうとう)氏もその一人だ。中国を脱出した白氏は現在、タイで拘束され、中国への送還の危機に直面している。
報道の自由を守る国際NGO「国境なき記者団(RSF)」と、中国共産党の海外活動を明らかにしてきた国際人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」は、「送還されれば秘密拘束や拷問、当局に拘束されたまま行方が分からなくなるなど、深刻な人権侵害を受ける恐れがある」として、タイ政府に送還しないよう強く求めている。
白氏は25年以上にわたり中国で調査報道に携わり、中国を脱出する直前まで北京の有力経済誌「財経」の記者として活動していた。地方政府だけでなく、中国共産党の高級幹部まで関与したとされる大規模な資金洗浄や金融詐欺事件を追及し、中国政財界の深い腐敗を暴いてきた。
当局から監視や脅迫、取り調べを繰り返し受けた白氏は、2023年11月に中国を脱出した。しかし翌2024年9月、中国公安当局は「恐喝」の容疑で逮捕状を出した。人権団体は、この容疑は調査報道への報復として、でっち上げられたものだと指摘している。
白氏はその後、安全な第三国への亡命を希望したが、タイ当局は出国を認めず、2026年1月から入国管理施設に収容されている。現在、中国政府はタイ政府に対し、白氏の身柄引き渡しを求めている。
人権団体が危機感を強める理由の一つは、タイは国際法上、白氏のように迫害を受ける恐れがある人を中国へ送り返してはならない立場にあるにもかかわらず、これまでも中国政府の要請を受け、人権侵害の恐れがある人々を送還してきた前例があるためだ。
2025年には、中国を逃れてタイで10年以上拘束されていたウイグル族の男性40人が中国へ送還され、その後の安否は現在も分かっていない。2015年にも100人以上のウイグル族が中国へ強制送還されており、人権団体は今回も同じ事態が繰り返されることを強く懸念している。
中国では政府に批判的な記者や人権活動家が、「国家安全」や「恐喝」などの名目で拘束されるケースが後を絶たない。秘密拘束や拷問、当局に拘束されたまま行方が分からなくなるケースも国際社会から繰り返し問題視されており、RSFによると、中国は現在も世界で最も多くの記者を拘束している国となっている。
白氏の問題は、一人の記者の身に起きた出来事ではない。権力の不正を伝えようとする記者が、安全に取材し、真実を伝えることができる社会であるか。その根本的な「報道の自由」が、いま改めて問われている。
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