台湾総統選まで1か月 蔡英文総統が「香港を見てほしい」と有権者に呼びかけ

2023/12/07
更新: 2024/01/10

来年1月13日に実施される中華民国(台湾)総統選挙まで、残り約1か月余りとなった。

この日は、台湾の立法委員選挙も行われるダブル選挙であるため、総統と国会議員(台湾は一院制)が同日に選出されるという、まことに賑やかな日になる。

現総統である蔡英文氏は、有権者に対して「投票にあたっては、香港を見てほしい」と呼びかけた。中国共産党による強権統治がますます強まる香港の現状に目を向け、台湾が「第二の香港」にならぬよう、未来をしっかりと見据えた投票を訴えたのである。

蔡英文総統は今月3日、台北市で開催された民進党の総統候補・頼清徳氏の選挙本部の設立総会へ、応援に駆けつけた。

蔡総統はその際の演説で、有権者に対し「投票にあたっては、香港を見てほしい(投票時,要想想香港)」と呼びかけた。

蔡総統はさらに「台湾が望んでいるのは『香港式の平和』ではなく、尊厳ある平和だ」と強調するとともに、「平和を確保するために(台湾は)自衛力を強化しなければならない」とも述べている。

 

(SNS投稿。「私は香港人です。私たちは1回しかデモンストレーションを示せない。あなた方の手にある票を大切にしてください」と書かれたプラカードを掲げる女性。この女性は香港の民主化を求めるデモ参加者を思い出させる、黒い服、黄色いヘルメットをかぶっている。投稿者がつけたコメントは「歴史は忘れない。台湾の皆さん(香港で何があったか)忘れないで!」である)

「戦争か、平和か」どちらを選ぶ?

総統選に立候補している候補者は、頼清徳氏(民進党)、侯友宜氏(国民党)、柯文哲氏(民衆党)の3候補。なお、副総統も(総統候補者とペアで出馬することにより)この選挙で選ばれる。

台湾総統選挙が近づくにつれ、対立する候補者同士による熱戦や舌戦が繰り広げられている。

それはまさしく、大陸側から台湾を虎視眈々と狙う中共独裁の中国とは全く異なり、健全な民主選挙が行われる中華民国(台湾)であればこその、実に生き生きとした自由社会の風景であろう。

もちろん、それは日本の選挙においても同じである。

しかしそうであるならば、ここで蔡英文総統が述べた「投票にあたっては、香港を見てほしい」という言葉は、台湾と同様、せまい海を隔てて中国と向き合う日本にとっても、十分に留意すべき提言であるかもしれない。なぜなら中国共産党は、あらゆる手を使って、台湾にも、そして日本にも巧妙な浸透工作を仕掛けてくるからだ。

あってはならないことだが、もしも台湾や日本での選挙結果が「親中」に傾けば、中共にとってそれこそ狙い通りの「思う壺」であり、武力を用いずに国盗りを達成したも同然の結果となる。

ただし、台湾の選挙の場合、なかなか日本では見られないような「興味深い風景」を目にすることがある。

例えば、台湾の街中で撮られた下の写真は、どうであろう。日本人の目には、ずいぶん露骨すぎる表現に見えるのだが、台湾の選挙戦ではこれも許容範囲に入るらしい。

 

台湾・高雄の街中で撮影した、巨大な選挙ポスター。(12月3日撮影、林婕琳さんより提供)

 

台湾・高雄の街中で撮影した巨大な選挙ポスターである。「戦争VS和平」のキャッチコピーが特に目を引く。

つまりこのポスターは、有権者に対して「戦争(反共の民進党)を選ぶのか、それとも平和(親中の党派)を選ぶのか」と問いかけ、強烈にアピールしているのだ。

候補者の名前を拡大してみると「黄柏霖」「侯友宜」とある。両者とも国民党の人物だ。この巨大ポスターは、国民党の候補者を推すものである。

一般論でいえば、戦争よりも平和が良いに決まっている。しかし、ここはよくよく注意しなければならない。このポスターが言う「平和」とは、まさしく蔡英文総統が懸念する、中国共産党に支配され自由を失った「香港式の平和」なのだ。

「台湾は、そうなってはならない」というのが蔡英文総統の主張であり、一国のプレジデントとして当然の責任である。

これに対して国民党側は、きわめて単純な「戦争VS和平」論を持ち出し、民進党の候補者が当選すれば(中国との)戦争になると言わんばかりに、台湾国民の不安をあおり、票をなんとか集めようと苦心していることが伺われる。

ポスターまでが「指さし非難」

以下に紹介するような、なんとも「辛辣なユーモアに富むような」写真は、日本の選挙ではまず見られない。日本であれば、これは違反物品と判断されるだろう。なにしろ、ポスターが相手候補を「指さし非難」しているのだ。

あえて双方の名前は伏せるが、画面にある右下ポスターの候補者は「素晴らしい台湾を信じる(相信美好台湾)」という、まことに結構なキャッチフレーズを用いている。

これに対して、同じビルに掲げられた左上の横長のポスターには、こう書かれていた。

「右下の人物はこう言っている『中国は私を総統にしたいのだ』。だから、この人物に投票したら『中国が近くなっちゃう』よ!」

そう言って、なんと左上ポスターの人物は、右下の相手を警戒すべき人物として「指さした」。

この「指さしポスター」が、あまりに露骨であったからか。その間の経緯は不明だが、同じビルで撮影された別の写真(画像右)は、左上のポスターのセリフが「気をつけて。中共のスパイはあなたのそばにいる(小心匪諜就在你身辺)」に変わっている。

今度は露骨な「指さし」こそしていない。ただ、これもまた「右下の人物」が中共のスパイ(匪諜、共匪間諜)であると暗示、というより明示しているようにしか見えないのだ。

選挙戦におけるネガティブキャンペーンはつきものではあるが、大統領選挙のない日本とはだいぶ異なり、台湾の選挙戦は、なんとも激しいもののようだ。

 

台湾の街中の選挙関連ポスター。

 

中国共産党が、台湾の選挙を妨害

政権与党・民進党の頼清徳候補は、中国共産党に対峙し「台湾の平和と尊厳を守ること」を主張する。

これに対し、国民党の侯友宜氏や民衆党の柯文哲氏は、どちらも「(大陸側との)サービス貿易の再開」を主張している。

頼清徳氏は、侯・柯の両氏を「中国の台湾になることを望んでいる」と批判した上で、「台湾は、すでに世界の台湾である。経済力もある。昔のやり方に戻る必要はない」と述べた。

台湾総統選をめぐっては、中国共産党が選挙を妨害していることを示す事件が後を絶たない。

これに先立ち、台湾の外交部(外務省に相当)の劉永健報道官は定例記者会見で、中国共産党は軍事および経済的脅迫のほか、フェイクニュースの流布や世論操作などの手段を使って台湾の選挙に干渉していると訴えている。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。