台湾・台中で矢板明夫氏が襲撃され負傷。容疑者は犯行後に出国を図るも逮捕された。越境的関与の可能性や香港との共通点が指摘され、言論の自由への影響に懸念が広がっている。
前産経新聞台北支局長で、インド太平洋戦略シンクタンク執行長の矢板明夫氏は7月6日、台中市での講演後に襲撃を受け、負傷した。9日には、台湾の民間団体・信民協会が開いた記者会見に出席し、「今回攻撃を受けたのは自分だが、今後は誰にでも起こり得る」と述べた。
記者会見は「中共の越境暴力を非難し、矢板明夫氏を支援する」として開催されたもので、矢板氏は冒頭、「関心を寄せている人々や、見舞いの言葉を寄せた人々に感謝する」と述べた。また、けがは回復に向かっているとし、心配をかけたことを詫びた。
さらに、事件後の警察の対応について、「短時間で容疑者を特定し逮捕した」として謝意を示し、司法の判断に委ねる考えを示した。
容疑者は犯行後に着替え 短時間で出国試みる
台湾メディア『自由時報』によると、検察と警察の調査の結果、容疑者は犯行後に着替えて証拠の隠滅を図り、その後、航空券を購入して出国しようとしていたことが分かった。この動きから所在が特定され、捜査チームは約3時間で行動経路を把握し、空港で拘束したとしている。
検察は、この事件について越境的な要素を含む可能性があるとして、裁判所に対し勾留と接見禁止を申請し、認められた。
また、容疑者は香港の犯罪組織と関係があるとされ、過去に麻薬取引や性犯罪に関与した経歴があるとみられている。こうした背景を踏まえ、外部からの関与の有無についても調べが進められている。
一方、中国国務院台湾事務弁公室の報道官は7日、「個人的な動機によるもので、偶発的な治安事案だ」との見方を示した。
「短期間で実行し離脱する手法」指摘
矢板氏は会見で、「容疑者とは面識がなく、遠方外国から来て犯行に及んでいる」と述べ、「義憤によるものとする説明には疑問がある」との認識を示した。
そのうえで、短期間で入国し、犯行後に出国する手法について言及し、「同様の事例が繰り返される可能性がある」と指摘した。また、「対象は政治家やメディア関係者に限らず、一般市民にも及び得る」と述べた。
さらに、「個別の傷害事件として見るだけでなく、言論活動への影響という観点でも考える必要がある」とし、「暴力や威嚇が繰り返されることで、発言が抑制される可能性がある」との見方を示した。
香港の事例を挙げて説明
矢板氏は、香港で過去に起きた一連の襲撃事件に触れ、言論環境の変化について言及した。1990年代以降、メディア関係者への襲撃が複数発生しているとし、2014年には『明報』の元編集長が路上で刺される事件もあったと紹介した。
これらの事件について、香港警察は当時、実行犯が犯罪組織の関係者であったと認定している。
矢板氏は、「こうした出来事が積み重なる中で、言論環境が変化していった」と述べ、自身が過去に香港で取材した経験にも触れながら、「現在は自由に発言しにくい状況がある」との認識を示した。
また、「台湾でも同様の変化が起きないとは限らない」として、状況を注視する必要があるとした。
台湾での関連事例にも言及
さらに矢板氏は、台湾で起きた関連事例として、2019年に香港の民主活動を支持する歌手が台北でペンキをかけられた事件や、2020年に書店関係者が脅迫を受けたケースなどを挙げた。
また、2025年から2026年にかけて、香港の民主活動家が関係する施設が複数回被害を受けたことや、自身が今回襲撃された事案にも触れ、「共通する傾向が見られる」と述べた。
「発言と社会の関係」について言及
矢板氏は、「発言する人への攻撃が続くと、社会全体の発言が抑制される可能性がある」としたうえで、「民主主義の維持には多様な意見が必要だ」と述べた。
最後に、「今後も言論活動を続ける」としたうえで、「暴力や威嚇に対してどのように向き合うかが問われている」と述べた。
会見の最後には、香港の元編集長が事件後に記した詩の一節を引用し、自身の考えを示した。
「真理は胸に、筆は手にあり、私心なく恐れなければこそ自由である。」
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