中国の不動産大手・恒大集団の創業者である許家印氏は先月27日、警察に連行された。また同集団の幹部も、ほとんどが身柄を拘束された。「許氏に法律違反があった」とされるが、具体的にどのような違法行為があって連行されたか、明らかにされてはいない。
いずれにしても、こうした恒大集団の「崩壊」が、ひろく中国の金融システムに与える影響が顕著になってきている。その影響により、ただでさえ危機に陥っている地方銀行が今後、一層の苦境に直面することは必至であろう。
そのような銀行の一つで、これまで恒大集団に融資をしてきた「滄州銀行」では、預金者による取り付け騒ぎが起きた。「事態収拾のため、中央銀行が急遽資金投入を行った」との噂も流れて、危機感にあおられた預金者が、同行の各店舗に押しかける騒ぎになっている。
今月9日、河北省にある滄州銀行の複数の支店に、預金を下ろす人々が押しかけている様子を示す多くの動画がSNSに拡散された。店内は、預金者とみられる大勢の人でごった返している。一部の支店では、窓口に並ぶ預金者の長蛇の列が店外にまで伸びていた。
現地の市民によると、河北省滄州市塩山県の「滄州銀行」では、上の階から下の階まで人でごった返している。自分の預金を下ろすため、朝早くから行列に並ぶ人もいる。銀行側は人数制限をしており、整理番号を持たない預金者にはいかなる手続きもしないという。
実店舗での預金引き出しばかりでなく、オンラインで預金を他の銀行へ移そうとする預金者も少なくない。資金の流出を抑えるため、オンライン上での引き出しは一度ストップされたと言われている。
このような事態になった背景として、「恒大集団に融資した銀行と融資額リスト」とする画像が、ネット上に出回ったことにあるという。このリストのなかには、今回取り付け騒ぎが起きた「滄州銀行」も載っていた。
それによると「滄州銀行」は恒大集団に「34亿」。つまり、この表では「34億元(約680億円)を融資した」となっている。
これについて「滄州銀行」は7日、恒大集団に融資したのは「3.46億元」であるとし「融資にあたっては、もちろん十分な担保もとってある」と釈明する公告を、自行の公式サイトに載せた。
現地の銀行の規制当局や金融管理当局など、複数の政府機関も「いまネット上に流れている滄州銀行に関するネガティブな情報は、全くのデマだ」と主張する共同の公告を発するなどの対応をした。
こうして、興奮する預金者をなんとかなだめようとしたが、実際のところ「当局の主張は、信じられない」という預金者も多いようだ。
というのは、中国では当局による公式の「デマのもみ消し」は、往々にして「そのデマが本当であることの裏付け」とみなされるからだ。過去において、当局が「それはデマだ」と大声で騒いでいたことが、やはり真実であったというケースは無数にあった。
そのため、9日夜になっても「滄州銀行」の支店やATM機の前には、依然として預金を引き出そうとする預金者であふれていたことを示す複数の動画が流れている。
今回、取り付け騒ぎが起きているのは「滄州銀行」だけではないようだ。
遼寧省瀋陽市にある「盛京銀行」は、恒大集団の許家印氏が逮捕された時点から、2000億元ちかい不良債権を売却し始めた。そのことをきっかけに、「盛京銀行」でもオンライン上で預金を他銀行へ移す預金者が急増しているという情報が流れている。
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