中国で7日、全国統一大学入試である「高考(ガオカオ)」が始まった。
いまや中国では、若者の失業率はおよそ2割という。清華大や北京大など、最高レベルの大学を卒業しても、容易には職を得られない未曽有の就職難のなか、1300万人ちかい高校生が大学受験に挑む。
お父さんが着る「女性用のチャイナドレス」?
今年の「高考」受験生は過去最多の約1290万人で、ゼロコロナ政策終了後、初の実施となる。
試験会場の外には、我が子を応援する親が多く来ていた。なかにはチャイナドレスを着ている「両親」の姿がある。両親とは、つまり「チャイナドレスを着た父親もいる」ということだ。
子供が受験する「高考」で、親が応援のためチャイナドレスを着るようになったのは最近のことらしい。
日本で「チャイナドレス」と呼ばれることが多い旗袍(チーパオ)は、もとは満州民族の伝統衣装であり、体の側面にスリットが入っているのが特徴だ。
このスリットは、今日では女性用ドレスの別の用途でデザイン化されているが、本来は乗馬に適した実用的なものであった。なお、漢民族の伝統衣装は「漢服」と言い、チャイナドレスとは全く異なる系統の衣服である。
その開衩(スリット)を「旗開得勝(またたく間に勝利を得る)」の言葉にかけた験担ぎから、いつの頃からか、受験生の親がこれを着るようになった。
このスリットの切れ込みは「高ければ高いほど良い」とされる。ただし、受験生の父親がそれを着て、効果があるかどうかは不明だが。
昔とは異なる「中国の大学」と卒業後の人生
SNS上に流れた動画によると、混雑する試験会場で秩序維持にあたるスタッフのなかには、子供の立身出世を願う親の心理を利用した、なかなか「賢い」列の並ばせ方を思いついた人もいたようだ。
「清華(大学)と北大(北京大)受験生のご両親は、こちらに並んでください」。
それを聞いた親たちは、たとえ他大学の志望者の親であっても「自分のことか?」と思わず二ヤリとし、スタッフが出す指示に積極的に従ったので、場内整理がしやすくなったという。
いま中国のネット上には、この「高考」関連の投稿が多く上がっている。そのどれからも本番に臨む受験生の大変さと、それ以上に大変であろう親たちの切実な姿が伺える。
以前では、こうした大学受験は「人生を変えるチャンス」「人生の分かれ道」などといわれてきた。それは、非常に厳しいながらも「登竜門」であったことは間違いない。
特に貧しい家庭の子供や農村部の出身者にとって、何としても「高考」で好成績をとることが、自分の人生を切り開くための最重要かつ唯一の道であると考えられていた。
しかし3年間のコロナ禍と「清零(ゼロコロナ)政策」を経た今の時代は、昔とはだいぶ事情が違うようだ。
たとえ「高考」で高い点数を取って一流大学へ入学し、さらに良い成績で卒業したとしても「安心で、理想的な人生」が約束される保証はない。
実際、清華大や北京大などのトップレベルの大学や大学院を卒業しても定職にありつけず、日々の生活のため、歩合制のデリバリー配達員をする人も少なくないのが現状だ。その配達員もすでに飽和状態であり、客の注文を奪い合うほどだという。
「自分は何のために、青春の全てをかけて勉強に身を削ってきたのか」。そうした価値観が崩れたとき、中国の若者がたどり着いた一つの結論が「躺平(寝そべり)主義」であった。
ただ、清朝以前の中国で、官吏登用試験である「科挙」の合格に宗族を挙げて血眼になっていた「民族の伝統」はそう簡単には変わらないらしく、我が子の大学受験に狂奔する「親の愛」は(その点は韓国も同様だが)やはり日本人の理解を超えるものがある。「父親のチャイナドレス」は、その一端であるかもしれない。
ロイターなどによると、中国の大学は、今年から授業料を大幅に値上げしている。
その背景にあるのは「地方政府の財政難」とされている。中国の大学は多くが国立や公立であるため、公的資金に大きく依存しているからだ。
なかでも上海の華東理工大学は、理工系、体育系とも54%授業料を値上げして年間7700元(約15万円)。文系学部も、授業料を30%引き上げたことが発表された。
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