中国人民銀行(中央銀行)は21日、来月1日から実施予定の現金出し入れの登録制を「しばらく実施しない」と発表。経済への打撃を避けたい思惑があると専門家は指摘する。
人民銀行や中国銀行保険監督管理委員会などが1月に公表した新規定は、3月1日から、金融機関の個人顧客が1回あたり5万元(約91万円)以上または1万ドル相当以上の外貨の現金預け入れ・引き出しを行う場合、金融機関は顧客の身分証明書を確認し、資金の出所や用途を記録する必要があると定めた。
中国金融規制当局はマネーロンダリングを取り締まり、資金移動・流出への監視を強化する目的で、同規定を制定したとしていた。
人民銀行は21日の声明で、「技術的原因で実施をしばらく見合わせる」とした。
金融学者の蔡慎坤氏は22日、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対して、「この政策の実施は、中国経済に計り知れない打撃を与える」と危惧した。
同氏によると、現在の中国経済のなかで最も活力があるのはグレー・エコノミー(非公式経済)だという。
「グレー・エコノミーには取引内容の不明なものが多くあるが、これらの取引を完全に取り締まると、経済が崩壊し、中国は計画経済に逆戻りするしかない」
蔡氏は、「中国の経済発展はレントシーキング(rent seeking、企業や団体が自らに都合がよくなるよう規制や制度を政府に変更させることで利益を得ようとする活動)と密接に関わっており、多くの腐敗問題が生じている。ただ、これらの(経済の)『潤滑油』を完全になくすと、新しい成長もなくなるだろう」と話した。
昨年7月、中国国内の一部地域で同規定をテスト運営した。「人民銀行が全国での実施を見合わせたのは、新規定の実行で経済的なマイナス効果、または政治的な影響が生じると推測したのだろう」と蔡氏は示した。
また、同氏は、金融機関の顧客の現金預け入れ・引き出しに関する新規定は一般利用者には大きな影響がないとした。ただ、中国経済を支える中小企業に「大きな影響を与える」。この新規定を実施すれば、海外企業との取引で中小企業は銀行の決済システムの利用を止めて、直接現金の決済を行う可能性が高い。
「この傾向が強まれば人民元の流通量が減り、同様に中国経済に悪影響を与える」
(翻訳編集・張哲)
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