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パナマ運河で米軍の優先無料通行 中共の影響力拡大をけん制

2025/04/10
更新: 2025/04/10

ヘグセス米国防長官は9日、パナマのムリーノ大統領と会談し、両国が安全保障協力に関する覚書に署名したと発表した。これにより、米軍艦および支援船舶は、パナマ運河を「優先かつ無料」で通行できる権利を得ることとなる。

アメリカ国防長官による中米訪問は数十年ぶりで、今回の合意は、トランプ政権が掲げる対中戦略の一環として注目されている。トランプ氏は、かねてより「パナマ運河は中国共産党(中共)の影響下にある」とし、「中国の影響力から運河を取り戻す」と繰り返し訴えていた。

ヘグセス氏は記者会見で、「この取り決めは、アメリカとパナマの艦船が優先的かつ無料で運河を通行できるようにするものだ。パナマの憲法や中立条約を尊重しつつ、運河庁と協力して進めていく」と説明。「緊急時の対応にも不可欠であり、パナマ政府の協力に感謝する」と述べた。

さらに、ムリーノ政権について「中共の脅威を明確に認識している」と評価。今年2月には、パナマ政府が中共主導の「一帯一路」構想から正式に離脱し、アメリカが重視する不法移民対策への協力も進めている。

アメリカ側は、今回の合意が中共の影響力拡大に対抗する措置であり、「力による平和」という政策の一環であると明確にしている。

ヘグセス氏は「パナマ運河はパナマのものだが、主権を守ることは極めて重要。トランプ大統領が掲げる『中国から運河を取り戻す』という方針は、米パ協力の核心である」と強調した。

「対立は望んでいないが、抑止には力が必要だ。中共による悪意ある影響は、米国とパナマ双方にとって有害であり、断固反対する」とも述べた。

 運河の戦略的価値とアメリカの懸念

アメリカの年間コンテナ輸送量の40%以上(約2700億ドル)がパナマ運河を通過しており、同運河は世界でも2番目に交通量の多い航路となっている。通過船のうち、3分の2以上はアメリカ関連の船舶が占める。

トランプ氏は、パナマ運河が中共の影響下にあると警告し、「中国軍が現地に駐留している」とも主張している。米政府関係者や専門家の間では、中国資本による現地の大規模投資がスパイ活動の拠点になる恐れがあるとの懸念が強まっている。

トランプ政権はすでに、運河の安全確保に向けた複数の選択肢について、米軍に検討を指示しているとされる。運河はアメリカが建設し、1999年にパナマへと主権が移譲されたが、トランプ氏はこの移管を「失敗だった」と批判し、「米軍が通行料を不当に支払わされている」と不満を示している。

パナマ運河の港湾買収と反発

先月、米投資大手ブラックロックが、香港の​CKハチソン・ホールディングスが保有するパナマの港湾資産を買収する動きを主導。トランプ氏はこの取引を歓迎したが、中共当局が阻止していると報じられている。

​CKハチソンの創業者で香港の著名実業家である李嘉誠氏は、中共政府から圧力を受けているとみられる。ただし、買収対象の港湾施設は中国国外にあるため、法的に中共側が妨害するのは難しいとされる。

 米パ覚書に盛り込まれた主な協力項目

今回の覚書には、以下の協力内容が含まれている

  • 米軍がかつて使用していたロッドマン海軍基地、フォート・シャーマン基地、ハワード空軍基地の再稼働・共同利用
    ジャングル戦訓練とサイバーセキュリティ協力の強化
  • 米陸軍工兵隊によるパナマ運河の安全強化に向けた技術支援
  • 医療外交の一環として、今夏に米海軍病院船コンフォートがパナマを訪問予定

さらにアメリカは、すでに1000人以上の米軍人員をパナマに派遣し、現地や中南米地域での多国間活動に参加させている。

会見には、パナマのフランク・アブレゴ公共安全相も同席し、「今回の協力はパナマの主権を損なうものではない」と明言した。

「パナマはこれまで、運河およびその周辺の主権をいかなる国にも譲渡したことはない。中立条約と憲法に従って行動しており、アメリカ側もこれを尊重している」と述べた。

また、メキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、コロンビアなどの中南米諸国と安全保障面での協力を進めており、共通の戦略構築を目指していると説明。「ベグセス氏の言った通り、我々はひとつの大陸、一つのアメリカ大陸だ。連携して組織犯罪などに対抗していく必要がある」と強調した。

「地域主導型安全保障」へ転換か

ヘグセス氏は今回の訪問中に開かれた中米安全保障会議にも出席。越境犯罪、麻薬密輸、不法移民対策といった地域の課題について協議し、パナマ政府によるダリエン地峡での不法移民抑止の成果を高く評価した。

会見の締めくくりでヘグセス氏は、「我々の使命は明確だ。米国第一の理念のもと、力による平和を実現すること。そして、ただアメリカを再び偉大にするだけでなく、『アメリカ大陸全体を再び偉大にする』ことが目標だ」と語った。

李言