中国「遠洋捕撈」か 上海IT企業経営者を越境拘束 1億元要求と報道 専門家「背景に地方財政の危機」

2026/09/24
更新: 2026/09/24

湖南省邵陽県(しょうよう-けん)の警察が上海のIT企業経営者を拘束し、釈放の見返りに1億元(約23億5千万円)を要求していたと報じられた。映像の公開後、当時の公安局長と副局長は解任されたが、判決はまだ出ていない。専門家は、財政難の地方当局が管轄外の企業を摘発し、罰金や資産の差し押さえを財源にしていると指摘。

上海のIT企業経営者を拘束 1億元要求とされる経緯

中国のWeChat公式アカウント「法与情」が9月19日に報じたところによると、上海麦絲科技有限公司の法定代表者、鄭帥氏は2024年1月8日、上海虹橋空港で邵陽県の警察に連行された。鄭氏は社員とともに同県の派出所へ移送された。同社は2019年に海外企業からVPN機能付きソフトウェアの開発を請け負い、委託元がこれを有料で提供していた。

鄭氏側によると、副局長の唐戦雄氏ら約15人の警察官が、「コンピュータ情報システムへの侵入・不正制御用プログラム・ツール提供罪」の容疑を認めるよう迫った。応じなければより重い罪で捜査し、両親も逮捕すると脅したという。その後、副県長で公安局長の尹向鋒氏が、監視カメラのない部屋で「捜査への協力」として1億元を要求した。応じれば不起訴とし、応じなければ最高刑で処罰すると告げた。警察側は公判で、鄭氏を派出所に連れて行った事実自体を否定している。

調査報道記者の劉虎氏が公開した監視映像には、担当警察官が、金を払う以外に道はないと話し、不服申し立てをしないよう警告する様子が映っていた。

鄭氏は支払い後の2024年4月、保証金などを条件に拘束を解く「取保候審」となった。しかし警察はその後も、社員の釈放と引き換えに追加の送金を求めた。同年7月、検察は鄭氏ら5人を起訴した。弁護人は、サーバーは香港にあり、関係者は上海にいて、具体的な被害者もいないとして、邵陽県の管轄権に異議を唱えている。

鄭氏の母親によると、裁判中にもかかわらず、警察は1億元のうち少なくとも6480万元を県財政局の税外収入口座に移したという。

地方財政難と非税収入 企業資産が標的となる構造

英紙フィナンシャル・タイムズによると、中国証券監督管理委員会は2024年、上場企業に対し、実質的支配者を含む幹部が拘束された場合、情報開示を行うよう義務付けた。

同じ年に幹部が拘束された上場企業は82社に上り、およそ半数の事例には、企業が所在する地域以外の法執行機関が関わっていた。

同紙は、経済的な発展が遅れた地域の地方政府が財政不足を補うため、詐欺などの容疑で沿海部の企業の資金を凍結したり、罰金を科したりしていると報じた。

こうした越境摘発は、中国では「遠洋捕撈(ほろう)」と呼ばれている。地方当局が、地域をまたいで管轄外の企業を捜査し、罰金や資産の差し押さえによって収入を得ようとする行為を指す。

専門家「財源確保の手段に」

台湾・南華大学国際事務・企業学科の孫国祥教授は、中央政府が利益を目的とする法執行を繰り返し禁じてきた一方で、地方の財政状況は改善していないと指摘する。

地方政府は、債務の返済や職員の給与、治安維持など、削減が難しい支出を抱えている。土地の使用権を譲渡して得る収入や税収も減るなか、法執行部門による資金集めが黙認され、場合によっては奨励される構造になっている。

孫氏は、「遠洋捕撈」は警察官個人の汚職だけではなく、法執行権が地方財政を補う手段となっている問題の表れだと指摘する。

公開資料から、こうした行為を直接評価する制度は確認できないものの、非公式な評価や利害の構造が働いている可能性は否定できないとしている。

米国の経済学者、黄大衛氏も、一部の地方政府が法執行権を実質的な財源確保の手段に変えつつあると指摘する。

黄氏は、地域をまたいで捜査し、企業の口座を凍結して資産を差し押さえたうえで、金銭を支払って問題を解決するよう求める手法が典型的だとしている。

企業が別の地域にある場合、地元当局との関係が乏しいため、地方当局にとって政治的、社会的な負担が小さく、標的にされやすい。

中国財政部によると、2026年上半期の国有土地使用権の譲渡収入は9778億元、日本円で約23兆円で、前年の同じ時期より31.5%減少した。

一方、税外収入は2兆3200億元、日本円で約54兆5200億円で、前年の同じ時期より2.3%増加した。

河南省でも類似事案 冷凍貨物の差し押さえを巡る疑惑

河南省でも、貨物を差し押さえ、売却して収入を得る手法が問題になっている。

中国メディア「封面新聞」によると、泌陽県や南陽市などの市場監督管理部門が、トラック運転手と結託し、他省の荷主が所有する冷凍貨物を地元に誘導して差し押さえ、競売にかけていた疑いがある。

冷凍貨物を積んだトラック21台が、本来の配送経路を外れて泌陽県に運び込まれた事件が報じられると、泌陽県市場監督管理局の王磊・元局長と法執行隊の中隊長は身柄拘束され、取り調べを受けた。

これに先立ち、南陽市市場監督管理局は47日間で、冷凍輸送トラック24台、計213トンの冷凍品を押収していた。

同局は、押収した冷凍品を「持ち主不明の貨物」として競売にかけ、350万元の売却益を得た。

民営企業の信頼を損なう越境法執行 投資・撤退リスクも

孫氏は、こうした法執行は民営企業の信頼を損ない、不動産危機よりも企業活動に直接的な影響を及ぼすおそれがあると指摘する。

不動産危機は、需要や信用の収縮を通じて企業に間接的な影響を与える。一方で「遠洋捕撈」は、企業の資産を直接、収入源として扱うため、財産権や契約の安全性への懸念を高める。

企業が、事業で利益を出せるかどうかだけでなく、利益を得た後に追徴を受けたり、資産や口座を凍結されたりしないかを心配するようになれば、投資意欲は急速に低下するという。

黄氏は、法的な根拠や予測に乏しい法執行は、企業にとってリスクを判断しにくいと指摘する。

身柄を拘束したり、企業の口座を全面的に凍結したりするなど、強い手段が取られることもある。

黄氏は、こうした対応が企業にとって深刻な打撃となれば、投資を控え、資産を国外に移し、中国から撤退する企業も出かねないと述べた。

李淨
駱亞