数年にわたった中国企業とイギリス企業の経営権をめぐる争いが、ようやく一段落した。イギリス政府は7月17日、同国の鉄鋼大手ブリティッシュ・スチールの国有化を正式に完了し、2020年に中国の敬業集団が同社を買収して以降、続いてきた経営体制に終止符を打った。
今回の争いは、企業投資と補償の問題にとどまらない。イギリスが近年、鉄鋼などの重要産業を国家安全保障やサプライチェーンの強靱性の観点から見直していることを示すものでもある。複数の英メディアやシンクタンクは、今回の事案を、イギリスが中国による戦略的投資への「デリスキング(リスク低減)」を進める重要な事例とみている。
英政府は7月17日、ブリティッシュ・スチールの国有化手続きを正式に完了した。スターマー首相は、同社を「イギリスの産業力の礎」と位置づけ、イギリス国内の鉄鋼製造能力を維持するうえで重要な意味を持つと強調した。
ピーター・カイル商務貿易相は声明で、国有化の完了後、政府は企業運営の安定化を進め、持続可能で競争力のある低炭素型の鉄鋼産業を目指すと述べた。
敬業集団は2020年にブリティッシュ・スチールを買収した後、生産の不安定さなど長期にわたる経営上の課題に直面しながらも、工場の操業維持に累計12億ポンド以上を投じてきたとしている。しかし同集団は最近、英イングランド北部スカンソープ工場にある2基の高炉の閉鎖を検討していると表明し、イギリス府の介入を招いた。
同製鉄所の2基の高炉は、イギリスで最後に残る、鉄鉱石から直接粗鋼を生産できる高炉である。操業を停止すれば、イギリスは高炉から転炉までの一貫した製鉄体制を失い、G7の中で唯一、鉄鉱石から粗鋼を生産する能力を持たない国となる。イギリス政府はこのため2025年に介入し、ブリティッシュ・スチールの経営管理を引き継いだうえで、7月に国有化の手続きを正式に完了した。
スターマー氏は17日の声明で、「本日の決定は、イギリスの鉄鋼製造の未来を確保し、熟練雇用を守り、国として不可欠な生産能力を守るものだ」と述べた。
中共商務省は17日、イギリス政府の関連決定に断固反対し、強い不満を表明した。また、中国企業の合法的権益を守るための措置を取るとしている。
敬業集団は声明で、2020年にブリティッシュ・スチールを買収して以来、設備更新、生産運営、従業員体制、グリーン転換などに多額の資金を投じてきたと強調した。そのうえで、イギリス政府が管理権を取得したことは「極端で、事態をエスカレートさせる措置」だとし、法に基づき投じた資金の全額補償を求める方針を示した。
イギリス労働党政権は、2025年に同社の運営を管理下に置いて以降、2基の高炉の稼働を維持してきたとしている。政府によると、当時同社は1日あたり100万ポンドを超える損失を出していた。このため、イギリスが鉄鉱石から粗鋼を生産する能力を維持できるよう、全面的な国有化を進めることを決めたという。
イギリス政府は今後、独立した評価機関を任命し、敬業集団に補償を支払う必要があるかどうか、また支払う場合の補償額を評価するとしている。
イギリス政府の近年の政策表明を見ると、鉄鋼政策は単なる企業運営の問題ではなく、国家安全保障やサプライチェーンの強靱性と結びつくようになっている。イギリス政府は、鉄鉱石から粗鋼を生産する能力を失えば、将来的に軍艦、原子力施設、橋梁、鉄道などの重要インフラをさらに海外供給に依存することになるとみている。
近年のイギリス政策の変化を踏まえると、ブリティッシュ・スチールをめぐる事案は、ファーウェイ、半導体、原子力などの事例と共通する政策背景を持っている。
2020年、イギリス政府は国家安全保障上の理由から、ファーウェイを5G通信網の整備から全面的に排除することを決定し、既存設備についても段階的な撤去を求めた。この決定は、イギリスの中国ハイテク企業に対する政策が大きく転換したことを象徴するものだった。
2022年、イギリスは「国家安全保障・投資法」に基づき、中国系企業が支配するネクスペリア(オランダ)に対し、同国最大の半導体工場ニューポート・ウェハー・ファブの大半の株式を売却するよう命じた。半導体が将来の国家安全保障と重要サプライチェーンに関わるためだ。
同じく2022年、イギリス政府は原子力政策も見直し、中国広核集団をサイズウェルC原発計画から段階的に排除した。中国資本が重要なエネルギーインフラに関与する度合いを下げる狙いがあった。
イギリス下院図書館は、政府が鉄鋼産業に介入する背景には、国家安全保障、経済の強靱性、サプライチェーンの安全、温室効果ガス排出実質ゼロへの移行といった考慮があり、単に企業運営を維持するためだけではないと指摘している。
複数の英メディアやシンクタンクは、5G、半導体、原子力、鉄鋼などの事例から、イギリスが近年、戦略産業に関わる中国投資について、受け入れの可否だけでなく、リスクを抑える方向へ政策の軸を移していると分析している。
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