「第2の南シナ海」化を阻止せよ 北方海航路で深まる中国への警戒

2026/08/25
更新: 2026/08/25

北京、アラスカ北方で存在感を拡大

論評

北極圏の氷が融解していることに加え、中国が保有する砕氷船の数が急速に増えていることで、アラスカ北方の北極海や、ロシア北岸に沿ってアジアと欧州を結ぶ全長約3400マイル(約5500キロ)の「北方海航路(Northern Sea Route:NSR)」は、中国の港からますます利用しやすくなっている。

中国海軍はすでにアラスカ周辺で活動しており、米海軍協会(U.S. Naval Institute)の記事は、中国が早ければ2030年にも北極圏へ潜水艦を展開する可能性があると警告している。

中国にとって、インド洋を通る海上交通路における戦略的利益は北極圏への野心よりも優先順位が高いものの、北京は極北海域でも着実に存在感を拡大している。8月には、中国の海運会社「Sea Legend」が、北方海航路を利用する定期コンテナ輸送サービスを初めて開設した。

この航路を利用すれば、現在フーシ派による攻撃が続く紅海経由の航路と、戦争中のロシアを通過する鉄道輸送という二つのルートを回避できる。北方海航路では、中国から英国までの輸送時間がおよそ半分に短縮され、ドイツまでの所要時間も約3分の1短縮される。定期便は寧波から毎週運航され、英国、ドイツ、オランダ、ポーランドに寄港する予定である。

北京がこれらの国々で目指しているのは、商品の輸出、政治的影響力の行使、そして議論の余地はあるものの、NATO(北大西洋条約機構)の結束を切り崩すことである。

北方海航路には、海氷による危険に加え、航路周辺に救難・修理施設が不足しているといった高いリスクがある。そのため、中国による北極海航路の利用は、商業的価値以上に地政学的価値が大きいとも考えられる。

Sea Legendによるこの航路の開設もまた、北極圏と欧州における存在感を拡大しようとする北京の戦略を構成する、もう一つの重要なピースなのである。

Chinese icebreaker, Xuelong, or “Snow Dragon,” sets off from a port in Shanghai on Nov. 8, 2017. (STR/AFP via Getty Images)
2017年11月8日、中国・上海の港から出航する中国の砕氷船「雪龍(スノードラゴン)」。STR/AFP via Getty Images

海上輸送ルート、船舶を利用した科学調査、海底ケーブルの敷設も、北京が特に関心を寄せる分野である。これらの活動は、必ずしも外国政府の承認を必要とするものではない。

北極の海氷が後退し、中東での戦争によってスエズ運河やホルムズ海峡を通る海上輸送ルートのリスクが高まる中、とりわけ北方海航路(NSR)への注目が高まっている。冬季には依然として航行が困難で、従来の航路よりもコストが高く、自然条件によるリスクも大きいものの、温暖な時期に航行できる期間は長くなっており、現在では早ければ5月から、遅ければ11月まで利用できるようになっている。

北方海航路の利用に加え、中国はノルウェー領スバールバル諸島、アイスランドのカルホール、スウェーデンのキルナに北極圏の研究施設または衛星関連施設を維持している。これらの施設では北極圏に関する幅広い研究が行われているが、スバールバルでは「宇宙物理学」、カルホールでは「地球物理学」、キルナでは衛星運用が扱われている。いずれも民生・軍事の両方に応用可能な分野である。

北極圏における中国のほかの計画については、米国の外交的働きかけを中心とする西側諸国の反発が強まったことで、拒否または中止されたものもある。2016年、北京はグリーンランドにある旧米軍基地の取得を目指し、2018年には同島の複数の空港を拡張しようとした。デンマーク政府はいずれの提案も拒否したが、その背景には米国からの働きかけがあった可能性がある。2020年にはスウェーデンが、中国に北極圏を含む世界各地の衛星地上局サービスへのアクセスを認めていた契約について、更新を見送った。

昨年、ノルウェーは北極圏のスバールバル諸島にある大学で中国側の参加に対する制限を強化し、中国の研究施設の入り口に置かれていた2体の石造りの獅子像を撤去するよう求めた。スバールバル諸島には、世界最北の通年居住都市のほか、活発な国際研究施設やロシアの炭鉱が一つ存在する。

1920年のスバールバル条約により、中国やロシアを含む49の締約国の国民は、同諸島でビザなしで居住し、働くことが認められている。ただし、同諸島を「戦争目的」に利用することは禁止されている。それにもかかわらず、中国とロシアは、同諸島で認められる権利を徐々に拡大しようとしている。2004年には、中国の機関がニーオーレスンにある研究施設を借り、その後、国家主義的な像を設置した。

2024年には、中国人観光客183人がスバールバル諸島を訪れた。そのうち約100人が施設を訪問し、多くがそろいの赤い上着を着て、中国共産党(中共)を思わせる横断幕の前で、足並みをそろえて中国国旗を振った。「観光客」の一人は、中国共産党(中共)陸軍のワッペンが付いた軍服を着用していた。筆者によれば、こうした行動は、中共軍がヒマラヤや南シナ海などで周辺地域への支配を拡大する際に用いる、いわゆる「グレーゾーン活動」と同種のものである。

北極圏は、ミサイル防衛、潜水艦の運用、信号情報収集、鉱業、エネルギー輸送などの面で戦略的に重要である。そのため、中国の施設を受け入れている三つの民主主義国が、その許可を取り消すべきかという問題が浮上している。

アイスランドとスウェーデンは比較的容易にそれを実行できる一方、ノルウェーはスバールバル条約の範囲内で対応する必要がある。筆者は、「公共の利益」を理由とし、適正な補償を行うのであれば、ノルウェーは中国のような権威主義国家が保有する財産を収用することも可能だと論じている。

中共が覇権的な野心を持っていることを考えれば、中共を封じ込めることは、世界の民主主義と人権にとって公共の利益にかなうと筆者は主張する。

グリーンランドの場合と同様、中国の北極圏進出に利用できる余地を与えないよう民主主義諸国に促す取り組みでは、米国の外交が先頭に立ってきた。フィンランド、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーはいずれも、中国の影響力拡大、権威主義、ロシアとの連携を理由に、中国による北極圏での活動の少なくとも一部を制限している。なかでもノルウェーとスウェーデンは、中国による衛星関連施設へのアクセスを制限するという重要な措置を取った。また、フィンランドと中国が計画していた衛星地上局も2019年に中止された。

北極圏における北京のグレーゾーン活動に対抗することは十分に可能であり、また必要でもある。北極圏諸国は、自分たちが共有する海域が「第二の南シナ海」になることを望んでいない。

中共が世界規模の野心を抱いている以上、中国の北極圏進出に限界を設けられるのは、ほかの国々だけである。そのため筆者は、中国が民主化によって政治的正統性を獲得するまでは、北極圏から中国を排除すべきだと主張している。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
時事評論家、出版社社長。イェール大学で政治学修士号(2001年)を取得し、ハーバード大学で行政学の博士号(2008年)を取得。現在はジャーナル「Journal of Political Risk」を出版するCorr Analytics Inc.で社長を務める傍ら、北米、ヨーロッパ、アジアで広範な調査活動も行う 。主な著書に『The Concentration of Power: Institutionalization, Hierarchy, and Hegemony』(2021年)や『Great Powers, Grand Strategies: the New Game in the South China Sea』(2018年)など。