欧州・ロシア どんな時も関係の無い人を巻き込むテロは許されない

モスクワのコンサート会場での衝撃的なテロ事件:ISIS-Kとロシアの深い確執

2024/03/29
更新: 2024/03/29

 

2024年3月22日、モスクワで発生した衝撃的なテロ事件の背後には、ISIS-Kとロシアの深い確執があったのか

この記事で事件の背景と、国際的な影響を解説する。

3月22日、モスクワ近郊のコンサート会場で発生した衝撃的なテロ事件が、世界を震撼させた。コンサート開始前に複数の者が突如銃を乱射し始め、結果として、ロシア政府は死者139人、負傷者182人という痛ましい数字を公表している。この襲撃に関与したとして4人の銃手を含む10人以上が逮捕された。過激派組織イスラム国(ISIS)が犯行を認める中で、ロシア政府はこれを黙殺し、代わりにウクライナが背後にあると非難した。これに対し、ウクライナはロシアの安全部門が真の黒幕ではないかと示唆している。

モスクワのコンサート会場でのテロ事件、ISISの犯行を認めるもプーチン氏は言及せず

モスクワのコンサート会場で発生したテロ事件について、独立系テレビプロデューサーの李軍氏が『菁英論壇』で明らかにしたことによれば、ISISがこの攻撃の責任を認め、さらには彼らによって撮影された現場の映像も公開された。この映像はBBCによって検証され、撮影中に銃が使用されている様子が確認されたことから、強力な証拠とされている。

しかし、事件が発生して約24時間後、プーチン氏はある演説において、ISISの声明には一切言及することなく、攻撃者らがウクライナへと逃れ、ウクライナ側が彼らに逃走の道を提供し、安全地帯へのアクセスを容易にしたとの見解を示した。これに対して、プーチン氏が参照していたのはロシアの情報機関からの報告であったと、一部の官僚が述べている。

この事件を巡って、ウクライナ側は強くその関与を否定している。ゼレンスキー大統領は、ロシア側の主張を非現実的だと批判し、攻撃者らがウクライナへ逃れるためには、現実として地雷地帯を通過し、さらに数十万人のロシア軍による厳重な警備を突破する必要があると指摘した。

ゼレンスキー大統領は、そのような事態は全く不可能であり、陰謀に過ぎないとの見解を示している。また、ウクライナの外務省や情報機関も、この事件はロシアによって自ら仕組まれたものだと主張している。米国国防省やホワイトハウスの安全部門の担当者も、この事件がウクライナとは無関係で、ISIS-Kによる犯行であると明言している。

李軍氏によれば、3月7日、すなわち事件が発生する約2週間前に、米国のロシア大使館からテロ攻撃に関する警告が出された。この警告では、ロシアに滞在する米国人に対し、公共の場所やコンサート、音楽会などのイベントを避けるよう促し、可能なら48時間以内に国外へ脱出するよう呼びかけていた。

3月19日前後、つまりテロ発生の数日前に、プーチン大統領は米国からのこの警告をロシアへの心理戦と批判し、ロシア人に不安を煽るための明らかな脅威だと言及した。

しかし、その数日後に事件が発生し、ロシアは困難な状況に置かれた。それにもかかわらず、ロシア外務省の代表は、ISISが米国の手によって意図的に、あるいは偶然に新たな組織として創設され、現在は米国ではなく、その敵を標的にしていると主張し、この責任を米国に転嫁した。当初はウクライナが非難の対象であったが、現在はその責任が米国に帰されている。

米国のテロ警告にもかかわらず、ロシアの防衛強化が見られなかった理由

政治評論家横河氏が『菁英論壇』で述べたところによると、モスクワのコンサートホールで発生したテロ攻撃はISIS-Kによるものであり、彼らが攻撃を認めた上、証拠も存在する。しかしながら、この事件には理解し難い点が存在する。

特筆すべきは、米国が警告を発した後に事件が発生したことである。これは、2022年2月に米国の情報機関がロシアのウクライナ侵攻を予測し、当初は疑問視されたものの、結局は予測どおりになった事例と類似している。このことから、米国の情報収集能力の正確さが伺える。

9.11以降、アメリカはテロ組織に関する情報収集を大きく強化し、さまざまな情報を監視・分析することで、公共の場での攻撃が起こり得ることを予測する能力を持つが、具体的な日時や場所までは明らかにすることはできない。

ここで疑問となるのは、ロシアが米国の情報を軽視していないかという点である。ロシアの情報部門は、このような情報を真剣に受け止め、相互に通知し合う体制を取っているはずである。

例えば、米国は年初にイランでのテロ攻撃を警告し、事前にイランに通知したが、その予測は的中している。その攻撃もISIS-Kによるものであった。したがって、ロシアが公に米国を心理戦や脅威で非難している場合でも、内心ではその情報を重視している可能性が高い。

別の問題点として挙げられるのは、攻撃発生時、テロリストによる15分間にわたる銃撃が行われたことである。戦時下のモスクワを彷彿とさせる厳重なロシアのセキュリティ状況のもとで、テロリストが15分もの間、無防備な状態で大規模な虐殺を行い、その後撤退できた事実は理解に苦しむ。撤退後のロシア安全保障部門による容疑者の迅速かつ容易な逮捕も矛盾している。詳細は公開できないが、ここには解明すべき疑問が残る。

この事件が誰にとって利益となるかを考えると、少なくともプーチンにとって有利であり、反対勢力を抑制し、ロシア国民の団結を促す効果があると言える。

反対に、最も不利な立場にあるのはウクライナである。この事件からウクライナが得る利益は一切ない。もしウクライナがこの攻撃を行ったとすれば、それは自らに利益をもたらすどころか、現在極めて必要とされる西側、特に米国からの支援を失う結果となる。これは、現在非常に危機的な状況にあるウクライナにとって重大な損失である。

米国議会がウクライナ支援の停止を検討している。ウクライナによる攻撃が確認されれば、欧米からの援助は絶たれるだろう。これは、反撃を通じての戦争終結には貢献しないということである。

もし軍事目標が攻撃されれば、ウクライナが戦争を速めに終わらせ、ロシアの戦闘能力を弱める手助けになるかもしれない。しかし、民間人を対象としたテロ攻撃では、戦争の早期終結やウクライナの戦いに何の助けにもならず、大きな損失をもたらすだろう。そのため、ウクライナにはそのような攻撃を行う動機がないと言わざる負えない。

横河氏は、ISISの行動には理由があり、実際にイスラム過激派とロシアは敵対していると述べている。ソビエト連邦がアフガニスタンに介入した際、このグループはソ連に対する抵抗組織として、徐々に発展し、後にテロ組織へと変貌した。

米国がこのグループと関わりを持ったのは、彼らを武装させソ連に対抗させたからである。この人々は後にチェチェンでロシアと戦い、シリア内戦では、ロシアが支援するアサド政権に対する反抗軍の一部がISISに属していた。

したがって、ISISとロシアの間には確かに敵対関係がある。しかし、ISISが反米であるからといってロシアと同盟するわけではない。ロシアはイランと近い関係にあり、イランはシーア派、ISISはスンニ派の過激派であるため、深い宗派間の対立がある。このため、このテロ攻撃はISISによるものである可能性が高いが、ロシアが事前に知っていたとは限らない。

米国、ロシアとウクライナの紛争激化回避を図る―ISIS-Kとロシアの深い敵対関係

中国語の《大紀元時報》の編集長、郭君氏が『菁英論壇』で取り上げたのは、多くの視聴者が抱く疑問である。それは、ロシアや中国共産党、一部の中東勢力が西側に対抗するための連携を深めている中、なぜ西側に対する強い敵意を持つISISがロシアを攻撃するのかという点である。

イスラム世界にはシーア派とスンニ派の二大派閥が存在する。シーア派は主にイラン、イラク、シリアの一部で見られ、ヒズボラやハマスもシーア派に属する。対照的に、スンニ派はサウジアラビア、アラブ首長国連邦、北アフリカなどのアラブ地域に広がっている。

これら二派の間の歴史的な対立と衝突には、長年にわたる深刻な恨みが根強く存在する。サダム・フセイン時代のイラクではスンニ派が支配し、シーア派のイランとは長期にわたり戦争を繰り広げた。サダム失脚後、イラクではシーア派が急速に力を増し、現在の政権はシーア派が掌握している。

イエメンでは、政府がスンニ派、反政府勢力のフーシ派がシーア派である。シリア内戦も長引き、シーア派のアサド政権とスンニ派の反対派が争っている。

極端なスンニ派武装勢力である「イスラム国」(ISIS)は、イラクとシリアで一時期、独自の国家を樹立した。ISISは西側諸国でテロ活動を展開したが、米国のトランプ政権時に壊滅した。

ロシアは初期からシリア政権を支持し、ISISと対峙してきた。ロシアはシリア政府に軍事支援を行い、特殊部隊やワグネル傭兵集団を含むロシア軍がISISに大打撃を与えた。このことが、ISISとロシアの間の深い敵意の根源となっている。

今回のモスクワ攻撃を実行したのは、ISIS-Kという集団であり、これはアフガニスタンに基盤を持つイスラム国(ISIS)の一派である。「K」は、かつてイラン、トルクメニスタン、そしてアフガニスタンの一部を含む広大な地域「ホラーサーン」の頭文字から取られている。

2014年末にアフガニスタンの東部と北部で、力を拡大し始めたISIS-Kは、米国軍撤退後、タリバンによる制御が困難になった。加えて、アフガニスタンとトルクメニスタンの国境地帯にタジク人が多く居住しているため、モスクワでの攻撃犯がタジキスタン出身である可能性が指摘されている。

米国はISISについて高い情報精度を保持しており、その成立当初から米国の何らかの黙認があったとされている。シーア派勢力の拡大に対抗するため、スンニ派のISISの出現を米国は地域バランスの一環と見ていた。

イラクのサダム政権崩壊後、シーア派の影響力が増す中で、ISISは地域均衡維持の一助となった。初期のISISが主に米国製の武器を使用していたことから、米国の支援を受けていたという説も存在する。

かつて中東のテロ組織がソ連製の武器を使用していたのに対し、ISISは米国製の武器を広く利用しており、これにはイラクからの奪取品や、欧米の国々から仲介者を通じて購入したものも含まれる。2016年にトランプ政権が発足して以降、ISISに対する攻撃が強化され、シリアとイラクでの勢力は大幅に減退した。

米国とISISとの間に歴史的な関係が存在する場合、米国はISISについての情報を深く理解している可能性が高い。しかし、ロシアに対するテロ攻撃は米国の戦略的利益にはならず、ロシアのウクライナ侵攻の阻止や内政の変化にも繋がらないとされている。むしろ、そのような攻撃はロシアの国家主義を強化し、米国にとっての利益はないと考えられている。

このため、該当する攻撃が米国によるものである可能性は低いとされる。また、ウクライナ戦争の文脈では、米国はウクライナに対し、米国製の武器を使用してロシア本土への攻撃を行うことを認めていない。これは、戦争のさらなるエスカレーションを避けるためである。米国にはロシアに対抗するための多くの手段があり、効果のない手段は使用しないという方針である。

郭君氏によると、ロシアとウクライナの戦争は拡大の一途を辿っており、その緊張は高まるばかりである。フランスは以前にNATOに対し、ウクライナへの軍派遣を二度提案している。最近では、ロシアのミサイルがポーランドの国境を越え、NATO圏内へ侵入したことで、国際社会は一層の緊張に包まれている。