オピニオン 上岡龍次コラム

中国共産党軍がハマスの奇襲攻撃を参考に台湾侵攻をすると100%失敗する

2023/10/22
更新: 2023/10/22

ハマスの奇襲攻撃

10月7日にハマスはイスラエルに対して奇襲攻撃を開始しガザ地区の領土を拡大した。ガザ地区を監視していたイスラエル軍は奇襲攻撃に対応できず各所で捕虜になるか撃破されることになる。さらに防御力が高いことで評価されているイスラエル軍のメルカバ4戦車が撃破されたことで世界を驚かせた。

世界はイスラエル軍に察知されることなく奇襲攻撃に成功したことに驚くと同時に民間人への殺害を批判する。イスラエル軍は混乱から立ち直ると奇襲攻撃の48時間後からイスラエルに侵攻したハマスを排除した。だが、その後から中国の中国共産党軍がハマスの奇襲攻撃を参考に台湾侵攻を行うとの声が拡大する。

ハマスの奇襲攻撃を参考に台湾侵攻すると100%失敗する

ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃は世界に衝撃を与えた。イスラエル軍に察知されること無く大量のミサイル・ロケット弾を備蓄し一斉攻撃を成功させた。さらに大量の弾幕に紛れてハマスはイスラエル領内に侵攻して領土を拡大したのは事実。この事実から中国共産党軍が台湾侵攻の参考にすると危機感を持つ声が出た。結論から先に言えば中国共産党軍がハマスの奇襲攻撃を参考に台湾侵攻をすると100%失敗する。

何故なら3000年の戦争史を見ると海を隔てた渡洋作戦で成功した戦例は0。1例として成功例が無いので基本を守らないと中国共産党軍による台湾侵攻は成功しない。仮に中国共産党軍がハマスの奇襲攻撃を参考に台湾侵攻を行うと一時的に台湾西側の海岸部を占領するだけで終わることを断言できる。それも一週間以内に台湾軍の反撃で殲滅される。

陸戦における兵站基地の配置

師団の後方25km :小規模兵站基地

師団の後方50km :中規模兵站基地

師団の後方100km:大規模兵站基地

何故なら陸戦思想と海戦思想は別物で陸戦では常に兵站を維持することで占領できる世界。師団の後方25kmに小規模兵站基地を置き、師団の後方50kmに中規模兵站基地を置く。さらに師団の後方100kmに大規模兵站基地を置くことで最前線の部隊に物資を届けることができる。陸戦ではこの配置が可能だが海戦では成立しない。何故なら海では等間隔に島が無いことから想定される戦場の近くに兵站基地を置くことしかできない。このため人類は戦争の経験から海戦思想を導き出す。

海戦における上陸作戦までの手順

制海権の獲得→上陸作戦

制空権の獲得→制海権の獲得→上陸作戦

航空機が登場する以前の海戦では敵海軍を撃破して制海権を獲得することが上陸作戦の基本。制海権・制空権は敵よりも60%の優勢で獲得できることが知られているが、この制海権・制空権の獲得だけで半年から1年を必要とする。そして上陸作戦を行う海域を自軍の庭にすることで上陸作戦を実行できる。

仮に海戦思想を無視して上陸作戦を実行すると敵海軍の迎撃により上陸部隊と自軍の海軍は撃破されてしまう。さらに上陸できても後方から補給が途絶えるので上陸した部隊は戦闘停止に追い込まれる戦例を残している。

スペイン無敵艦隊と金門島

1568年辺りからイギリスはネーデルラントの独立戦争でオランダを支援した。するとオランダの宗主国であるスペインとイギリスの関係が悪化する。1588年になるとスペインはイギリス占領を決意するが当時のフェリペ2世はイギリス海軍から制海権を獲得するのではなく一気に上陸作戦を実行する方針を選んだ。

1588年5月20日にスペインの無敵艦隊130隻がリスボンを出発した。途中で嵐回避と艦艇の補修でスペイン北西部のコルンナに寄港し7月12日に再出航する。スペイン北西部の無敵艦隊は合計2431門の大砲を持っていたが重砲は1100門であり半数以上が対人戦闘用の大砲だった。

それに対して迎え撃つイギリス海軍は合計171隻・合計1800門の重砲だった。しかもイギリス海軍の重砲は艦艇を攻撃することを目的とした長射程の重砲でありスペイン無敵艦隊の射程圏外から攻撃できた。

スペイン無敵艦隊はイギリス海軍の攻撃を受けながらもイギリスに上陸して占領する方針だったが、実際はイギリス海軍が射程圏外から攻撃するので被害が増加。これで航行不能に陥りイギリス海軍に降伏するか拿捕される艦艇が発生している。さらにイギリス上陸作戦を中止するが9月に本国に分散して帰還した。出港時は130隻だったが帰還できたのは69隻であり、スペインはイギリス占領を諦めただけではなく海外に持っていた植民地の防衛すらできなくなった。

中国での内戦に敗北した国民党は台湾に逃れたが中国共産党との戦闘は続いていた。1949年10月25日に中国共産党は中国共産党軍を用いて台湾軍から制空権と制海権を獲得することなく金門島への上陸作戦を開始した。中国共産党軍は33000人・大砲50門、金門島の台湾軍は15000人・大砲ではなく迫撃砲で迎え撃った。

見た目の戦力では中国共産党軍が優勢だが制空権と制海権を持たないまま上陸すると台湾軍の罠に嵌っていることに気付かなかった。金門島に上陸した中国共産党軍先遣隊が橋頭堡を確保したことを本隊に報告すると本隊が上陸を実行。すると上陸地点の海岸は中国共産党軍ですし詰め状態となる。

この段階で台湾軍は逆襲を開始し中国共産党軍の注意を引き付けている間に中国共産党軍の上陸舟艇に攻撃を行い焼き払った。これで中国共産党軍は後方連絡線を遮断され増援も補給も受けられない。中国共産党軍は金門島への上陸作戦を陸戦思想と同じ河川を渡る渡河作戦と認識したと思われる。だが目の前の金門島への上陸作戦すら海戦思想になるから上陸作戦の基本を無視すると敗北する戦例となった。

台湾侵攻は襲撃に終わる

中国共産党軍がハマスの奇襲攻撃を参考にすることは有り得る。仮に実行しても台湾の海岸部に一部の部隊が拠点を確保するだけに終わる。何故なら後方から増援と補給が続かなければ占領を維持できない。3000年の戦争史を見ると海から海岸部に攻撃を行い素早く海に戻る襲撃ならば成功するが占領を続けることは失敗する。

中国共産党軍が台湾侵攻を成功させるなら半年から1年をかけて台湾軍から制空権と制海権を奪う必要が有る。台湾海峡が中国共産党軍の庭になってからハマスの奇襲攻撃を参考に上陸作戦を実行することになるが、真に中国共産党軍が制空権と制海権を獲得しているならハマスの奇襲攻撃を使う必要性は低下する。

仮に中国共産党軍がハマスの奇襲攻撃を参考に上陸作戦の基本を無視して台湾侵攻を開始すると中国共産党軍は台湾軍の反撃で失敗することを断言できる。台湾の海岸部の一部を占領した先遣隊は後方からの増援・補給が得られず孤立。侵攻と同時に中国共産党軍の本隊が台湾海峡を渡るが台湾軍による対艦ミサイルの攻撃で損害を増大させるだけ。

無傷の台湾軍が待ち構える場所に上陸作戦を行うのだから台湾海峡を航行する中国共産党軍は標的に成り下がる。戦闘艦・補給艦・揚陸艦がワンセットになると戦闘艦は自由な機動はできない。それに対して台湾海軍は自由に機動できるからスペイン無敵艦隊を破ったイギリス海軍の再現を行うことになる。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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