米マイクロソフトが7日に発表した報告書によると、中国を拠点とするハッカー集団が2022年の米中間選挙期間中、オンライン上で米国の有権者になりすまし、人工知能(AI)を使って米国内の分断を招くようなオンラインコンテンツを作成および宣伝し、対米世論工作を実施していることが分かった。
報告書によれば、この工作活動は、中国共産党(中共)による影響力工作の一環であり、共和・民主党支持者を問わず米国の有権者になりすまし、人種的、経済的、イデオロギー的な路線に沿って論争を引き起こしていると指摘した。
「2022年米中間選挙に先立ち、マイクロソフト社および同社に親密な企業が、米国の有権者になりすました中共系のソーシャルメディア・アカウントへの監視活動を実施した」と明かしたうえで、中国系アカウントの工作活動について「中国共産党系の『影響力作戦』の新たな領域だ」と懸念を示した。
「これらのアカウントは、政治的なスペクトルを超えて米国人を装っている」
また、AIが作成したコンテンツを使用した工作活動も行われているという。
報告書には、中国共産党の関係者がAIで作成した映像を用いて工作活動を実施している例が掲載されているほか、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動を支持する画像や、「黒人の多くが警察によって殺害されている」といった偽情報、反米的な意見を投稿していると指摘した。
「我々は、銃乱射事件など政治的な分断を生む話題や、米国の政治的人物やシンボルの誹謗中傷を中心とした大規模なキャンペーンで、中国発の集団がAIが生成したビジュアルメディアを活用していることを確認している」とした。
「中国が時間をかけてこの工作活動をより高度化させると予想されるが、いつ、どのように(そのような工作活動を)大規模に導入するかはまだ分からない」
「世界で最も大規模かつ多量の秘密影響力作戦」
中国の工作活動をめぐっては、フェイスブック(Facebook)を運営する米SNS大手メタが先月29日、ソーシャルメディアを舞台にした親中国の影響工作ネットワークのフェイスブックアカウントを7700件以上削除したと発表した。
メタのグローバル脅威情報責任者のベン・ニモ氏は、「我々が知る限り、世界で最も大規模かつ多量の秘密影響力作戦であるが、成功には至っていない」と評した。
メタが29日に公開した報告書『敵対的脅威に関するレポート(Adversarial Threat Report)』によると、中国を拠点とするグループのSNSアカウントが、フェイスブックやインスタグラム、ティックトック、ユーチューブ、X(旧ツイッター)など50以上のプラットフォームで活動している。
メタによると、これら中国発のアカウントは近年、レディット(Reddit)やクオーラ(Quora)、ビメオ(Vimeo)などソーシャルプラットフォームにまで拡大しているという。
こうしたSNS上での情報工作は、スパム(不特定の人を対象に大量に送られてくる迷惑メール)とカモフラージュを合わせた造語「スパモフラージュ(Spamouflage)」などと呼ばれ、この造語は米情報調査会社グラフィカが最初に使用した。
グラフィカによると、スパモフラージュに使用されているのは、乗っ取られたアカウントや、ストック画像やAIが作成した生成画像のプロフィール画像、架空の名前を使用したなりすましアカウントが多いとされる。
マイクロソフトの報告書でも、オンライン上のインフルエンサー230人が複数のプラットフォームで中共関連のプロパガンダを宣伝していたことが指摘されている。
米国を内部から分断・破壊
中国を拠点とするハッカー集団の活動が目立っていることについて、中国当局が米中間の全面戦争に突入することなく米国を打ち負かすために、認知戦を仕掛けているとの見方が出ている。
2019年、中国共産党は国際社会における言論の自由を利用し、中国の共産主義に対する肯定的な意見を拡散していた。中国当局の後ろ盾を得ているインフルエンサーらは、有料広告や大量のボットアカウントを利用して、海外で注目を浴びている。
昨年9月、サイバーセキュリティ企業レコーデッド・フューチャーは報告書の中で、中国当局の影響力活動は新たなステージに上り、詳細な人口統計データに基づいてセグメント化された人々をターゲットとし、より精密に対象を絞った対外工作を行っていると分析している。
レコーデッド・フューチャーによると、工作用のアカウントは、中共の統一戦線工作部や国家安全部から研修および金銭的支援を受けている可能性が高いとされる。
また戦術と戦略の面では、中国とロシアが類似しており、ロシアの手法を模倣している可能性があるという。
米国内を分断させるような世論工作を実施し、一例として、中共の支援が疑われるサイバー集団「ドラゴンブリッジ」が挙げられる。
グーグル傘下のサイバーセキュリティ企業マンディアントは、昨年10月に発表した報告書のなかで、ドラゴンブリッジが2022年11月の米国中間選挙に影響を与えるために、米国とその同盟国の間や政治体制の中に対立を生み出す活動をしていたと指摘した。
ドラゴンブリッジのアカウントは米国政府の制度に疑問を投げかける動画を投稿し、中間選挙の投票権を放棄するよう呼びかけたという。
またマンディアントは6月に、レアアース(希土類)を採掘する西側企業を攻撃する偽情報キャンペーンをドラゴンブリッジが行っていたとする報告書を発表している。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。