安い中国EVを買って日本が失うものは何か

2023/03/13
更新: 2023/03/13

中国のEV(電気自動車)産業が成長をしている。世界トップの力を持つ日本の自動車産業が脅かされる気配だ。しかしその内実を調べると、他国の経済安全保障を侵害する可能性や環境破壊の懸念など、危うい活動が見えてくる。そうした問題を見極めた上で、日本の消費者は中国製EVに向き合うべきではないか。

中国のEV、日本の新車販売台数を上回る

全世界でEVの販売増加は著しい。英調査会社LMCモーティブなどの調べでは、2022年の世界のEV販売台数の推計は前年68%増の約780万台だった。これは全自動車販売台数の1割程度になる。

特に中国国内のEV販売数の増加は著しい。中国の自動車団体によれば、2022年の新車販売台数が前年比2.1%増の2686万4000台と伸びは小さかったが、EVは同81.6%増の536万5000台になった。22年の日本の新車販売台数は420万台でEVだけで上回る。

世界販売台数のトップは米テスラだが、2位は中国のBYDだ。

中国メーカーのEV車の完成度は高い

10年前まで日本メーカーがEVで世界の先頭を走っていたが、それが逆転してしまった。EVの駆動は電力のモーターの延長だ。自動車産業は内燃機関であるエンジンの性能向上と共に発展してきた。日本メーカーはそれにこだわって転換にためらいがあったのかもしれない。

もともと中国政府は大気汚染の防止と石油資源の節約の観点から、EV産業を奨励して、バイクなどの電動化を進めてきた。その技術を使いEV生産が発展した。中国政府は2015年に「メイド・イン・チャイナ 2025」計画を発表し、EV産業を育成する目標を掲げている。自動車の後発国だった中国は、内燃機関へのこだわりなかったことに加え、先行国の成功と失敗を観察しながら、必要な技術を取り入れた。

中国のBYDの車への各国のユーザーコメントを見ると、「完成度が高い」という評価が定着している。かつてあった中国企業の技術の遅れを感じさせなくなった。デザインも洗練されている。そして値段が大変に安い。

BYDは、2021年から日本での販売を本格化している。小型電気バス「J6」(最大定員31人)と大型電気バス「K8」(最大定員81人)を売り出した。J6は1980万円、K8は3850万円。国内メーカーのEVバスは1台5000万円以上とされ、かなり安い。

BYDの小型EVバス「J6」(BYDホームページより)

安さは補助金がもたらした?

しかし一歩踏み込んで調べると、中国のEV産業は危うさも内包している。車の安さは、政府が補助金を出していることも一因のようだ。中共政府は21年に大手のBYDに対して計58億6700万元(約1150億円)の補助金を出した。中国も入るWTO(世界貿易機関)では、加盟国が輸出補助金を出すことを原則禁止している。この巨額補助金の内実は明らかになっていないため、ダンピングとして問題になるかもしれない。

また急成長ゆえに、原材料のサプライチェーンも脆弱で、環境問題を引き起こしている。EVの蓄電池やバッテリーには軽金属のリチウムが必要だ。中国は江西省や青海省に鉱脈があり、これを国内で自給できた。しかしEV産業の成長で乱開発が進んだ。

今年1月から中国の中央政府の環境部局が、江西省を中心に、リチウム鉱山の環境破壊をについて、調査と違反の摘発、そして改善指導を行っている。中共政府も生産の拡大政策一辺倒ではなく環境破壊や安全性を無視した企業行動を抑制しようとしている。そのためにリチウムの生産が昨年12月に比べて毎月半減し、中国国内のEV生産も減っているようだ。

中国のEV企業や鉱山業は、将来のリチウムの不足を見込んでアフリカや中南米でのレアメタル鉱山の買収を行っている。中国の一帯一路政策と連動しコンゴでの動きが目立つ。これは、環境破壊を他国に広げてしまうかもしれない。

日本での販売、有害物質利用でつまづき

BYDの日本法人は2月23日に、小型バス 「J6」などEVバス5車種で、有害物質の六価クロム使用し、部品取り替えなどの対応をすると発表した。人体や環境への影響はないとしている。日本国内では、工業用品の使用への法規制はないものの、日本自動車工業会は08年から業界の自主規制として使用を禁止している。

日野自動車はBYDと提携して製造する予定だったEVバスの販売を延期。またBYDのバスを納入した、西武バス(埼玉県所沢市)、京阪バス(京都市)、富士急バス(山梨県富士河口湖町)も、近く始める予定だったEVバスの運行を見合わせている。3月初頭時点で、対応策は発表されていない。

BYDは13年に米国に進出し、全米各地に数百台の電気バスを安く売り、知名度を高めようとした。日本でも同じ販売戦術を採用したようだ。しかし、経済安全保障などの「米中新冷戦」の中で、米国でのビジネスが難しくなっている。スマホ、監視カメラ、TikTokなどで見られたように、欧米で締め出されたため、規制と危機感の緩い日本でビジネスを強化するいつものビジネスのパターンが起きている。

アメリカでの中国製E Vへの警戒

そして安全保障の面からの懸念も出ている。トランプ前政権時の2019会計年度国防権限法(NDAA)には、中国製のバスや列車を米国の公共交通から排除することが盛り込まれている。公共交通で用いるカメラやセンサー類が、米国の国防や企業に情報セキュリティ上の脅威を与えることが心配されている。当然、E Vも対象になる。

共和党保守派のマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)はフォードと中国のEV
向け蓄電池メーカーがミシガン州での工場建設を2月に批判した。加えて中国共産党政権のEV産業での覇権を得ようとする野望にも危機感を示している。

日本でも、経済安全保障推進法が昨年5月に施行交付された。しかし公共交通事業者による外国メーカーの車両購入は禁止されていない。

こうした懸念に対して、中国のEV産業の各社から、明確な中共政権との関係の否定、そして第三者による疑惑の検証を受け入れるとの表明がない。これは中国のIT企業、監視カメラ企業でも見られたことだ。

公正な競争を求め、立ち止まって関係を考える時

もちろん、消費者が中国製のEVを購入することは自由だ。経済活動の自由と、企業、消費者の行動の自由は最大限尊重されなければならない。また中国の人々や企業への敵意の拡散はしてはならない。

しかし中国製EVには、安い、高性能というメリットはあっても、多くの問題を抱える。環境問題に加え、利用者などの情報抜き取りの懸念がある。

また公正な競争ではなく、中共政府が補助金、ダンピングなどを促して、EV産業を成長させている場合には是正を求め、規制する必要がある。また日本はEVを製造し、自動車産業が経済を支えている。国際ルールに基づき、中国のEV産業から自国産業を保護する政策があってもいいだろう。

「安物買いのゼニ失い」 という古くからの言い回しが日本にある。安さを武器にした中国製EVを買って、さまざまな大きな損失が広がらなければいいのだが。政府も民間も一度、中国製EVとの向き合い方を、立ち止まって考えるべきだ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。