掛谷英紀コラム 掛谷英紀コラム

独裁国家中国の弱点

2020/12/23
更新: 2024/11/05

前回のコラム『今必要なのは「中国から国民を守る党」』で述べた通り、米国ではバイデン政権の誕生が確実になり、日本の親中派は勢いづいている。12月14日に全日空が成田ー深圳路線を再開したのに続き、12月18日に国土交通省は、12月21日から中国・韓国便の到着を新千歳空港にも認める通知をした。

新型コロナウイルスの国内感染者数が急増する中、GoToキャンペーン中断をはじめ日本国民に旅行や外食を控えるように要請する一方で、外国人の入国は拡大させる今の日本の政治家は、日本国民の暮らしよりも中国政府の顔色を窺うことにしか興味がないようである。そういう政治家を選んでいるのは、われわれ日本国民であるということを忘れてはならない。

まだ選挙の敗北を認めていないトランプ大統領だが、バイデン政権になっても対中強硬策を後退させにくいような手は次々と打っている。トランプ大統領は12月18日、米市場の中国企業を上場廃止にすることを可能にする外国企業説明責任法案に署名し、同法を成立させた。ジョージア州の上院議員決選投票(2議席分)が来年1月5日に行われるが、共和党が上院の過半数を確定させれば、バイデン大統領になっても対中政策を簡単に緩めることはできない。その意味で、この選挙は非常に大事である。

共和党の候補者は現職で、民主党の候補者は極左だ。もともとジョージア州は保守系が強いことを考えると、本来ならば2議席は堅いところである。しかしながら、リン・ウッド弁護士が選挙不正問題を根拠に投票ボイコットを呼びかけたこと、ジョージア州で「民主党に投票すれば1200ドルがもらえる」との大きなサインを表示したトラックが走っていることなど、不安材料は少なくない。

日本でも10月の愛知県岡崎市長選で、劣勢だった中根康浩候補(元民主党衆議院議員)が市民全員に5万円ずつを配ると公約して逆転当選したこと、当選後それが実現不可能だとして公約を反故にしたことは記憶に新しい。実行不可能な甘い約束で大衆を騙し権力を握るのは、左翼の常套手段である。ジョージア州民が岡崎市民より賢明であることを祈るばかりである。

共和党が上院で過半数を獲得しても、バイデン大統領になれば対中強硬政策はある程度緩和される可能性が高い。日本にとって試練が続くことに変わりはない。今、中国に付け入る隙があるとすれば、それは彼らの気の緩みである。

中国共産党はこれまで非常にしたたかだった。しかし、最近はやることが雑になっている。独裁国家の弱点は、内部に批判者がいないので、暴走を止められなくなることである。今の中国は、習近平独裁体制が強固に確立した影響か、暴走が目立ちつつある。趙立堅報道官がオーストラリア兵士の残虐行為のフェイク写真をツイッターに投稿したことはそれを象徴する。

また、中国は盛んに新型コロナウイルスが中国起源でないとのプロパガンダも発信している。輸入冷凍食品から新型コロナウイルスが検出されたとして、ウイルスは海外から持ち込まれたものだという主張の根拠にしようとしている。武漢よりも先にイタリアで感染が広がっていたという情報も一時出回った。新型コロナウイルス起源天然説をとるなら、ゲノム配列からコウモリとセンザンコウのウイルスの組み換えと考えられるが、センザンコウはイタリアには生息していない。ウイルスが人工ならば、過去の研究履歴からみて製造場所は中国か米国であって、イタリア起源はありえない。

中国人民大学国際関係学院副院長の翟東昇教授は、11月28日の講演で、米国中枢で中国のために働くエージェントの存在を堂々と漏らした。1970年代から中国はウォール街を通じて米国の政治を制御してきたが、トランプ大統領になって工作が効かなくなったと彼は語った。さらに、バイデン大統領になったら元通りになるのでもう安心だとも述べた。

米国ではクリスティーン・ファン(中国名・方芳)という中国人女スパイが、市長や連邦議会下院議員など多数の政治家(民主党)にハニートラップをかけていたことも明らかになっている。

米国でハニートラップにかかるのは、ほとんどが民主党の議員である。一方、共和党の議員にはハニートラップにかかる人は非常に少ない。その理由は、共和党には敬虔なキリスト教信者が多く、性の戒律を守るからだ。これが日本の保守系議員との大きな違いである。冒頭で述べた通り、日本には保守系のはずの与党議員にも親中派がたくさんいる。その裏に何があるかは想像に難くない。

米国の民主党議員も、選挙対策で表向きはキリスト教徒を演じる。米国の労働者階級には熱心なキリスト教徒が多い。そこを支持基盤にする民主党議員は、本心では神を信じていなくても、教会には通ってキリスト教信者であることをアピールする。しかし、それが見せかけであることは、彼らが妊娠中絶を推進し、時には中絶手術に失敗して生きたまま出てきた赤ん坊を殺していいという主張まですることから明らかである(詳しくは『日本人が知らない北米左翼の恐ろしさ』を参照)。

米国民主党と中国共産党には、ともに無神論者という共通点がある。それが両者の相性の良さにつながっているのではないか。両者とも大事なのは現世利益で、良心の呵責がない。罰せられない限りにおいて、自らの欲望・快楽を満たすためには何でもやる。米国民主党支持者に麻薬解禁を求める者が多いのもそれが理由である。長年にわたり有名人に対して少女売春を斡旋し、獄中で変死したエプスタインも民主党系の人物である。

その一方で、上で述べた通り、米国ではキリスト教の信仰は根強く残っている。そのため、倫理観を欠く中国共産党による、なりふり構わない工作の数々が明らかになるにつれ、米国での反中感情は急激に高まっている。

日本もこれに続くことができるはずだ。日本にキリスト教徒は少ないが、完全な無神論者も少ない。「お天道様が見ている」といった意識は、今でも多くの日本人に共有されている。であるから、心の中では今の中国のやり方に対して強い反感を持っている日本人はかなり多いだろう。

問題は日本のエリートたちである。彼らの中に表立って反中的姿勢をとる人はほとんどいない。日本のエリートを縛っているのは、彼らが受けてきた左翼教育である。彼らは「差別」や「ナショナリスト」といった批判を受けることを異常に恐れる。反中的姿勢をとれば、日本国内の左翼からそうした批判を浴びる可能性が高い。事なかれ主義のエリートたちはそれを忌避しているのである。

ではどうすればよいか。日本のエリートはチキン(弱虫)であるがゆえに風見鶏でもある。米国をはじめとする世界で盛り上がっている反中の動きを具体的に示したうえで、「反中は世界の流れ」であることを悟らせれば、彼らの態度の変えることはそれほど難しいことではないだろう。

一切の倫理観を欠くことが、中国共産党の最大の強みであると同時に最大の弱点でもある。彼らは金や女で人心を買うことはできるが、人々の尊敬を集めることは決してできない。良心の呵責がある人間ならば、彼らに共感することは永遠にない。今この地球で起きていることは、良心のある人間と、良心を全く持たない共産主義者との戦いなのである。

執筆者:掛谷英紀

筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。著書に『学問とは何か』(大学教育出版)、『学者のウソ』(ソフトバンク新書)、『「先見力」の授業』(かんき出版)、『知ってますか?理系研究の”常識”』(森北出版)など。

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