日本では早速、バイデン当確による悪影響が出始めている。米国の対中強硬政策が緩和されることを見越して、日本の親中派が勢いづいている。中国を含む自由貿易協定RCEPへの加入や中国とのビジネスを目的とした往来の再開がそれを象徴している。今年の春節に来日した中国人旅行者に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を持ち込まれて、今も感染者が再度急増している中、往来を再開するとは非常識極まりない。そもそも、中国におけるウイルスの発生源は現時点でも全く分かっていない。今、何よりも中国に求めるべきは、国際的科学調査の受け入れによるウイルスの起源解明ではないか。不透明さを許したまま中国と付き合い続ければ、また同じ被害に遭う。
さらに酷かったのが、王毅外相来日における日本政府の対応である。11月24日の日中外相会談後の共同記者発表において、王毅外相は「日本漁船が釣魚島(魚釣島の中国名)周辺の敏感な水域に入る事態が発生し、やむを得ず非常的な反応しなければならない。われわれの立場は明確で、引き続き自国の主権を守っていく。敏感な水域における事態を複雑化させる行動を避けるべきだ」と述べたが、茂木敏充外相は薄ら笑いを浮かべるだけで全く反論しなかった。
茂木敏充氏は東京大学経済学部卒、ハーバード大学ケネディースクール卒の典型的な学歴エリートである。こういう学歴エリートに政治家や組織のトップをやらせてはいけない。外交については特にそうである。彼らの多くは子どもの頃から自分が褒められることにしか関心が無かった人たちである。だから、自分より強い人間には何も言い返さない。その分、自分より弱い人間には強く当たる。この種の人間は小役人が適任である。リーダーをさせると、組織の利益よりも、交渉相手に対して自分の印象を良くすることをしばしば優先する。
前回のコラム「混迷する米国大統領選と今後の国際社会」で述べた通り、バイデン政権になれば、日本はもう米国を頼りにできない。次期国務大臣に超親中派のスーザン・ライスではなくアンソニー・ブリンケンが指名されたのは救いだが、ポンペオ国務長官のような対中強硬路線はとらないだろう。日本は自力で中国からの侵略に対して身を守ることを本気で考え始めなければならない。
今の日本の保守派には、裁判でのトランプ逆転勝利を信じて疑わない人も少なくない。しかし、日本人が遠く離れた場所でトランプ大統領を日本語でどれだけ応援しても、選挙結果は何も変わらない。そもそも、そんな外国頼みの姿勢では、日本の主権を守り抜くことはできない。まずは、防衛費の大幅増額が必須である。ところが、そうした動きは今のところ全く見られない。
現在の自公連立政権では、親中派があまりにも力を持ちすぎている。今年7月に公開された米国のシンクタンクCSISの報告書 “China’s Influence in Japan: Everywhere Yet Nowhere in Particular”においても、二階幹事長と公明党が親中派として名指しされていた。これ以上日本が中国への傾倒を続ければ、将来的に日本は満州、チベット、ウイグル、内モンゴル、そして香港と同じ道を歩むことになりかねない。今危機感をもって行動を始めないと、取り返しのつかないことになる。
今、日本に必要なのは「中国共産党から国民を守る党」ではないか。次の衆議院総選挙で、公明党や自民党の親中派の選挙区に、「中国共産党から国民を守る党」の名前で候補者を立てれば、当選することはできないだろうが、その選挙区の保守層の票を親中派議員から削ることができるので、同選挙区の野党候補を当選させて、親中派議員を落選させることに成功する可能性はゼロではない。さらに、比例重複立候補をすれば、各ブロックで1議席ずつぐらいは獲得できる可能性もある。
親中派の与党議員を何人か落選させて、政権における親中派の影響力を削ぐことができれば、日本の対中外交を強硬路線に変えることも不可能ではない。具体的には、次に挙げる政策の実現が望まれる。「中国共産党から国民を守る党」はこれらを公約に掲げればよい。
何よりも、中国の侵略を防ぐための防衛費大幅増額は最優先課題である。それと並んで優先すべきは、安倍政権が行った中国からの生産拠点移転への補助金拡充である。同制度に対しては、2200億円の予算に対し、1670件の総額1兆7640億円の応募があった。援助さえあれば中国から脱出したい企業がこれだけ多いのである。補助金を拡充して、希望する全ての企業が脱中国できるように後押しする必要がある。それによって国内に生産拠点が戻れば、コロナで失われた三次産業の雇用を二次産業で吸収できる。
経済対策として日本で行われてきた「GoTo トラベル」や「GoTo イート」は、いずれも三次産業救済のためのものである。しかし、こうした観光産業への雇用のシフトは、日本の二次産業の雇用が中国へ奪われたことに伴って生まれたものである。長期的には、その雇用を二次産業に戻す必要がある。「GoTo ファクトリー」ならば、新型コロナウイルス感染対策と経済対策を両立できる。
生産拠点の中国からの移転に合わせて必要なのは、対中国の関税引き上げである。中国製品と価格競争で勝てなければ、生産拠点を移転することはできない。これを明確な理由なく行えばWTO協定違反になるので、WHOと共謀して情報を隠蔽し、新型コロナウイルスを日本へ流入させたことへの安全保障上の制裁措置として実施すればよい。
人権保護の観点から、中国国内や香港で弾圧されている政治難民を積極的に受け入れるのも効果的である。これを宣言すれば中国政府は激怒するだろうが、それによって非道な独裁国家と縁を切る大義名分が立つ。もちろん、政治的に弾圧されている人々を救済すること自体に大きな意義があることは言うまでもない。さらに、この政策に反対するであろう日本の自称「人権派」たちが、実は中国共産党に飼われた人たちであるということを炙り出すことにもつながる。
ここで大事なのは、中国共産党と一般の中国人をはっきり分けて考えることである。対中強硬派の米国共和党の政治家たちも、この区別は盛んに強調する。この線引きを明確にしておかないと、左翼陣営から差別と攻撃する隙を与えることになる。孔子学院のような中国共産党の諜報機関は、米国に倣って閉鎖する方向で動くべきだが、中国人留学生を完全にシャットアウトするのはやり過ぎである。安全保障に関わる技術に触らせないなどの制限は当然必要であるが、それ以外の分野での受け入れ拒否は大義名分が立たない。
もちろん、中国の国防動員法には警戒が必要である。中国からの留学生の数を絞る方法として、共産党独裁国家からの留学生に対しては、「民主主義」と題する講義の受講を必修にすることが考えられる。そこで共産主義の負の歴史を教え、それを修めないと正規の課程に入学できないようにすればよい。民主主義を守るために必要だと主張すれば大義名分は立つ。こういう措置をとれば、中国共産党側が留学生を日本に出すのを躊躇するようになるだろう。
議論において不利になった人が、相手をヒトラーやナチスに喩えることでそれを打破しようとする「ゴドウィンの法則」が最近注目を浴びた。そこでナチスに喩えられる行為は、実際にナチスが行った悪事には遠く及ばないのが常である。現代においてナチスに喩えられる悪事があるとすれば、それは中国共産党の悪事をおいてない。彼らが行っている国内少数民族に対する民族浄化や宗教弾圧、臓器売買はナチスドイツの残虐行為に匹敵する。それに目を瞑って中国との協力関係を続けることは、現代におけるナチスを容認することに他ならない。今のままでは、日本はナチスドイツと組んだ第二次大戦の過ちを繰り返すことになる。軌道修正を決断できるか。日本に残された時間は短い。
執筆者:掛谷英紀
筑波大学システム情報系准教授。1993年東京大学理学部生物化学科卒業。1998年東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了。博士(工学)。通信総合研究所(現・情報通信研究機構)研究員を経て、現職。専門はメディア工学。特定非営利活動法人言論責任保証協会代表理事。著書に『学問とは何か』(大学教育出版)、『学者のウソ』(ソフトバンク新書)、『「先見力」の授業』(かんき出版)、『知ってますか?理系研究の”常識”』(森北出版)など。
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