分析 トランプ大統領の態度が一転 「一つの中国」容認の理由は(1)

2017/03/06
更新: 2017/03/06

大統領就任後、自身の公約を次々と実行し続けるトランプ新大統領。オバマケアを廃止し、メキシコ国境の壁の設置費用をメキシコ側にも求めるなど、精力的に「有言実行」の姿勢を示し続けている。

一方、中国に対しても終始強硬姿勢を取り続けるトランプ大統領に対し、中国側は慎重な姿勢を崩していない。トランプ大統領は、中国の為替操作や、北朝鮮への支持などに対し不快感を示し、中国製品に45%の関税をかけるといった対抗措置を取ると明言している。さらに大統領就任時には、米国でこれまでタブーとされてきた台湾総統との電話会談まで行ったうえ、米国が1979年以来合意してきた「一つの中国」の原則を見直すことも示唆した。これらのことはいずれも、中国を立腹させ、同時に震撼させるに十分だといえる。

米中間の緊張関係に生じた微妙な変化

米中間の緊張が続く中、2月8日、習近平国家主席に対し、トランプ大統領からの新年祝賀が届いた。祝賀には、トランプ大統領の就任時に習主席が送った祝電に対する返礼と、中国人民への新年のあいさつのほか、「習主席と協力し、米中双方に更に有利となるような建設的関係を促進することを希望する」と記されていた。

トランプ大統領は就任以来、世界十数国の首脳と電話会談を行っているが、この時点でまだ習主席との電話会談は行われていなかった。そのため、海外メディアは今回の祝賀が両者の雪解けのきっかけになると報じた。

翌2月9日、中国国営メディアが、習主席とトランプ大統領が電話会談を行ったことを報じた。報道の言葉遣いから察すると、今回の電話会談は習主席サイドから働きかけて実現したものだとみられる。

報道によると、電話会談では、1.互いに対する感謝の表明、2.「一つの中国」に対する共通認識の確認、3.更なる米中協力関係に対する共通認識の確認、4.できるだけ早く首脳会談を開催するという4つのテーマについて協議がなされた。

米ニューヨーク市立大学の夏明教授は、今回の祝賀送付と電話会談が実現したことについて、「中国外交官の努力によるところが大きい」と分析している。「このところ、中国の外交官は鄧小平時代のように控えめな姿勢を示している。」

トランプ氏の当選後、中国側は1000人余りのロビイスト団体を米国に送り込み、トランプ大統領サイドと水面下で接触するためにあらゆる手段を講じてきた。

また今回の習主席が電話をかけたタイミングも注目されていた。おりしも訪米した安倍総理大臣が米国に到着し、ちょうど飛行機を降りる頃に合わせて行われた電話会談。安倍首相がトランプ大統領と面会するのはこれが2回目で、主に日米安保と日米貿易についての会談を目的としていた。

習陣営は電話会談を実現させただけでなく、トランプ大統領から「一つの中国」の原則を尊重するという言葉を引き出し、米中関係を改善し一定の成果を上げることに成功した。

トランプ大統領の方から新年祝賀を送るという行動を起こしたために、その翌日に電話会談が実現したと認識している人は多いが、実際は中国側が働きかけて実現させたというのが正しい。

米専門家「対中強硬路線を」主張の裏に見え隠れする新たな米中関係の形

 

2月8日の前日に、米国の中国問題専門家18人からなる研究グループが報告書を提出している。この報告書では、トランプ大統領に対し、過去のどの大統領よりも強硬な対中政策を取るよう求めている。研究グループメンバーには、過去の政権で国家安全保障、軍事、貿易、外交といった分野で重要ポストに就いていた高級官僚も含まれている。

報告書は、米中関係が「危険な曲がり角」にさしかかっていると警鐘を鳴らしている。08年のリーマンショックに端を発した金融危機以降、中国は米国内部の混乱に乗じて、不公平な貿易や投資を拡大し、サイバー攻撃によって米国の企業機密を入手しているほか、南沙諸島での人工島建設、北朝鮮への支援といった行為を行ってきたことが指摘されている。

ただし、仮に米中が敵対関係におちいった場合、アジア太平洋地域の安全保障を揺るがすことにつながるため、米国には中国と接触するよりほか道は残されていないとして、トランプ大統領がこれからも「一つの中国」原則を維持することを提案している。米国・中国・台湾の現在の友好関係は、過去40年に渡り米国が「一つの中国」路線を踏襲してきた上に成り立っていると分析している。

とはいえ、研究者グループもトランプ大統領の気質をよく理解しているため、さまざまな外交手段が失敗に終わり、中国が保護貿易政策を強化し続けている今、大統領には強硬路線を取るよりほかに選択肢が残されていないことも承知している。

米日刊紙のデンバーポストは、過去40年間の米国の対中政策を「慈悲」と表現するならば、報告書が提案する新たな対中政策は「互恵」だと報じている。

不平等貿易の是正などの問題を除き、報告書はトランプ大統領が最初に着手すべきことは北朝鮮問題だと指摘し、習主席と「歴史的な」首脳大会談を行い、中国が北朝鮮の核開発計画の中止を最終的に後押しするよう促すことを提案している。

また報告書には、中国が北朝鮮への制裁に協力するならば、米国は北朝鮮と和平協定を結ぶことも視野に入れ、朝鮮半島から米軍を撤退させてもよいと記されている。だが、中国側がトランプ大統領の要求を軽視するならば、米国は韓国にサードを配備し、北朝鮮を後押しする中国企業に相応の制裁を加えるべきだと主張している。

だが、米中関係には剣呑としたニュースしかないわけでもない。2月1日、トランプ氏の娘イヴァンカさんが、ワシントンの中国大使館で行われた新年レセプションに長女のアラベラちゃんを連れて参加し、中国の新年を祝ったことが注目された。翌2日、イヴァンカさんはアラベラちゃんが中国語で「新年おめでとう」と歌う動画をツイッターに投稿している。米中関係の緊張が続く中、こうしたニュースは大きな注目を集めた。

トランプ父娘は中国問題においてそれぞれの役割を分担しているという分析がある。父親が憎まれ役を演じ、娘が善玉を演じることで、剛と柔、陽と陰をそれぞれが担当するという手法は、中国の伝統的な哲学思想の真髄をよく理解していることの表れだという。

(2)に続く

 

(文・季達 翻訳編集・島津彰浩)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。