オピニオン 上岡龍次コラム

欧米がイスラエルによるガザ空爆を黙認する理由と漁夫の利を狙う習近平

2023/10/28
更新: 2024/06/13

中東情勢の悪化

ガザ地区からハマスがイスラエルへ奇襲攻撃を行い中東情勢が一気に悪化した。中東はハマスとイスラエルの対立だけではなく中東に駐留するアメリカ軍基地も親イラン派武装勢力からの攻撃を受けている。アメリカは空母打撃群や防空部隊などを中東に追加配備することで対応に追われアメリカとイランの関係も悪化した。

中国は中東情勢の悪化を見ながらも台湾・フィリピン・日本との対立を続けており、結果的にアメリカとの軍事衝突も意に介さない態度を示した。中東情勢の悪化は海上交通路を遮断し世界経済を悪化させるリスクが有るが中国は現実を見ない外交を続けている。

習近平にはハイリスク・ハイリターン

結論から先に言えばハマスは習近平にハイリスク・ハイリターンの結果を与えている。最悪の場合は習近平の政治生命を断つが成功すれば世界で最も利益を得る立場になる。

仮に習近平が中東情勢の悪化から漁夫の利を狙っているならアメリカ海軍の空母打撃群を中東に追加派遣したことは台湾侵攻のリスクを高めるのは事実。

だがスエズ運河が遮断されたら世界経済が混乱し中国経済を破綻させる可能性も有る。そうなれば習近平は責任を問われ処分される立場になると同時に中国経済の破綻の責任をハマスに押し付けることもできる立場。さらにハマス支持派が欧米にいることが知られており、ハマス支持派は各地でハマスを支持するデモを行なった。

これはハマス支持派が欧米で世界同時多発テロを実行する可能性が有る。仮に世界同時多発テロを実行すれば中国共産党軍はアメリカと戦争しなくてもテロリストが代理で戦ってくれる未来が有る。

習近平から見ると中国共産党軍が台湾侵攻を行えばアメリカ軍も参戦してお互いに損害を出す。最悪の場合は中国共産党軍の敗北となり習近平は破滅する。だがハマス支持派による世界同時多発テロが発生すれば欧米軍は対テロ戦争を優先して中国を後回しにするのは明らか。

ならば習近平は待てば良いのだ。ハマス支持派による世界同時多発テロでアメリカ全土が混乱すればアメリカ経済は混乱しアメリカ軍も対応に追われる。これでアメリカ軍が疲弊すれば中国共産党軍は台湾侵攻を行なっても成功する可能性が高くなる。

全てはハマスの動向と世界同時多発テロの結果次第だが、習近平は漁夫の利を狙えるハイリスク・ハイリターンの立場なのは間違いない。

欧米がガザ地区空爆を黙認する理由

スペイン内戦(1936-1939)においてスペイン人民戦線軍兵士は民間人が生活するゲルニカに逃げ込んだ。これはスペイン人民戦線軍兵士がゲルニカ住人を市民の盾にする事となるがフランコ軍航空部隊はゲルニカを空爆した。

これで民間人が巻き込まれて死亡したが当時の軍事専門家は“古代から軍隊は自国の住民を戦場から避難させるか後方に安全な拠点を造って住民を収容・防護するか、軍隊が住民地域から離れて戦闘するのが常識”とした。

つまり市民の盾としたスペイン人民戦線軍兵士が悪いと評価したが、高名な画家がゲルニカを題材にしたので別の意味で有名になった。欧米では基本的に先に都市に入り市民の盾にした側が悪い認識だから、ガザ地区では住民がハマス戦闘員を兼ねているので家族が巻き込まれても自業自得の認識を持っている。

テロを誘引する原因

国際社会では国家に属さない交戦団体は軍隊とは認めないのが基本であり、これは日本の江戸末期に確認されている。長州藩が外国船を攻撃したがアメリカ・イギリス・フランス・オランダ連合による下関への砲台砲撃(1863)が発生した。これは長州藩とアメリカ・イギリス・フランス・オランダ連合の軍事衝突だが賠償は徳川幕府が行なっている。

1:国家に所属していない交戦団体の行動についての責任も国家が負う。

2:国家以外の交戦団体(軍隊)の主権は認めない。

基本的には“国家以外の交戦団体(軍隊)の主権は認めない”ことが国際社会では常識なのだが、アメリカは“国家に属さない交戦団体も軍隊として取り扱う”方針にした。

これはテロ組織も国家と対等な関係になれる認識だからテロリストも軍人並みに扱われる。テロ組織としては都合が良い認識なので、その結果アメリカはアルカイダからの攻撃を受けている。

テロリストから見ても軍人と対等に扱われるし裁判も受けられる。ならば裁判を受けられない国を攻撃するよりもアメリカを選ぶ方と立場が良い。この結果から911テロ(2001)を誘引している。

この様な歴史が有るにも関わらずEUはアメリカが間違えた道を進んでいる。基本的にイスラエル軍によるガザ地区への空爆はハマスが民間人を市民の盾にしている認識だが、“国家に属さない交戦団体も軍隊として取り扱う”方針で見ている。だからガザ人道回廊と戦闘一時停止を呼びかけているが、これは911テロを誘引した流れと同じなのだ。

さらにハマス支持派によるデモが欧米で行われているが排除されていない。これはテロ組織を容認する対応だから危険な行為で、近いうちに世界同時多発テロを誘引する可能性を高くしている。

テロ組織であるハマスを認めるのであればハマス支持派も認められて軍人と対等に扱われるのだ。ならばアルカイダと同じ意識で世界同時多発テロを実行しても不思議ではない。

避けられない世界同時多発テロ

欧米が常識を破棄してテロを誘引しているとすれば世界同時多発テロは避けられない。この流れで誰が得をするのか?それは習近平であり、ハイリスク・ハイリターンだが成功すれば最も得をする。

うまく行けば中国経済破綻の責任をハマスに押し付けることで逃げられるし、世界同時多発テロで欧米は損害を受ける。さらに欧米軍がテロリストとの戦闘で損害を受ければ漁夫の利を得られる立場。中国が裏からテロリストを支援すれば習近平は最も旨味が多い。

これは習近平が意図的に行なっているのではなく欧米が既存の常識を無視していることが原因だ。欧米としては人権優先の立場で穏便外交を求めているのだが結果的に習近平を喜ばせることをしている。だがハイリスク・ハイリターンだから習近平が一人勝ちするとは限らないが、ハマスの選択で習近平の未来を握っているのは間違いない。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
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