ガザ地区に侵攻したイスラエル軍に見えるロンメル将軍の影と世界への影響

2023/11/05
更新: 2024/06/13

ガザ地区へ侵攻

ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃は世界に衝撃を与えた。ハマスがイスラエル領内で民間人の殺害と誘拐を行うが世界各地でハマス支持派とイスラエル支持派に分かれて対立が発生する。イスラエルはガザ地区に空爆を続けると国連がイスラエルを戦争犯罪として批判するまで悪化した。

ハマスは民間人殺害と誘拐を行うがイスラエル軍は空爆が民間人を巻き込んでいる。双方の戦闘が民間人を巻き込むがイスラエルはガザ侵攻を止める気配は無い。この状況でもイスラエル軍はガザ地区への侵攻を開始して北部のガザ市を包囲することに成功する。

 市街戦の準備から実行

14世紀に行われた城攻めは消えたわけではなく現代の市街戦として継続している。現代の市街はコンクリートで固められているから防衛する側には有利な立場。だから市街戦は14世紀の城攻めと同じで基本的には手順が変わらない。さらに市街戦は城攻めと同じで包囲殲滅と兵糧攻めが採用される。

市街への攻撃側(市街の包囲が基本)

第1段階(1週間):二方向から市街に接近し敵と接触する。

第2段階(2週間):市街地外苑に自軍の主力部隊を展開させる。さらに兵站基地を設定する。         市街地には砲爆撃を行い敵軍を分散させる。

第3段階(2日間):砲爆撃による支援により歩兵を市街地に突入させる。

第4段階(3週間):市街地を区分化し区画を一つ一つ潰す区分殲滅を行う。        状況により包囲の一部を開けて敵に逃げ道を与える。これは逃げる敵を攻撃するため。

 

イスラエル軍のガザ地区侵攻も基本に従っている様に見える。さらにイスラエル軍はガザ地区全体の包囲殲滅ではなく北部のガザ市から攻略する動きを見せた。実際にイスラエル軍はガザ市南部を東から西に進撃して海まで到達した。これでガザ市は地上で孤立したことになる。

https://x.com/War_Mapper/status/1720154499619135581?s=20

イスラエル軍はガザ市の包囲に成功したので次はハマスの地下トンネルを捜索し潰すはずだ。なぜなら地下トンネルを潰せばガザ市は地下から物資の補給が得られない。そうなればガザ市は完全に孤立してイスラエル軍による兵糧攻めにあう。

この兵糧攻めはハマスと民間人を対立させることが目的だ。完全に孤立したガザ市の食料は減少し奪い合いになる。すると民間人は助かるためにハマスが誘拐した人質をイスラエル軍に引き渡す可能性が高くなる。実際にイスラエル軍はガザ市に人質を連れてくると安全を保証するビラを撒いている。だがイスラエル軍のガザ市攻略は市街戦の基本と比較すると違っている。どうやらイスラエル軍は別の策を同時に用いている可能性が有る。

イスラエル軍に見えるロンメル将軍の影

イスラエル軍はガザ市を南部から遮断した。これでガザ市は外部からの救援が無ければガザ市を維持できないのだ。だがイスラエル軍は力押しでガザ市攻略を行う動きを見せていない。露骨にガザ市包囲を見せつけてガザ市を完全に孤立させた。こうなるとハマスは嫌でもイスラエル軍を攻撃しなければならない。

・100名の歩兵が10日間攻撃すると約10トン(食糧約3トン)の物資が必要。

・2万人は一日辺り2000トンの物資を消費する。

ガザ地区はエジプトからの地下トンネルで物資が得られているとしてもガザ市は完全に孤立した。そうなればガザ市は嫌でも包囲を解かなければならないし南部のハマスも攻撃しなければ助けられない。物資供給が少ない時に強引に攻撃すると戦闘継続に必要な物資を消耗する。だからイスラエル軍はハマスが嫌でも攻撃する様に仕向けている。つまりイスラエル軍の露骨な罠としか思えない。なぜなら第二次世界大戦で類似の露骨な罠をロンメル将軍が採用し成功させている。

第二次世界大戦の北アフリカ戦線でドイツ軍のロンメル将軍は砂漠の狐と渾名された。北アフリカ戦線のドイツ軍は本国からの補給が途絶えがちになってもロンメル将軍の知略で何度も対応しドイツ軍が劣勢になっても巧妙な遅滞行動でイギリス軍の追尾から逃げ切った。

ドイツ軍はチュニジアのチュニスに向かっていたがアフリカの西端に上陸したアメリカ軍がドイツ軍の退路を遮断する動きを見せる。ロンメル将軍としてはチュニスへの退路を遮断するアメリカ軍歩兵連隊を排除しなければならない。ロンメル将軍の参謀は総攻撃を進言するがロンメル将軍はアメリカ軍歩兵連隊への砲撃だけを行わせた。

ロンメル将軍の知略

「包囲されたアメリカ軍歩兵連隊は主力部隊に救援を求める。そして主力部隊は時間を惜しんで救援に向かう」

ロンメル将軍は包囲したアメリカ軍歩兵連隊を総攻撃で排除するのではなく主力部隊に救援を求めさせて待ち伏せする作戦を立てた。それに対してアメリカ軍主力部隊はドイツ軍がアメリカ軍歩兵連隊を攻撃していると断定して戦車隊を前進させた。するとアメリカ軍主力部隊はロンメル将軍の罠に入り待ち伏せ攻撃を受けて全滅。ロンメル将軍はこの後に包囲していたアメリカ軍歩兵連隊を降伏させチュニスに撤退した。後にシディブジッドの戦闘(1943)と呼ばれている。

ロンメル将軍はアメリカ軍主力部隊がドイツ軍の撤退を妨害することを知っていたので、アメリカ軍主力部隊を排除しなければ危険だと判断。後顧の憂いを無くしてからチュニスに撤退する決断をした。

ガザ地区に侵攻したイスラエル軍司令官はロンメル将軍の知略を参考にしたと仮定すれば、ガザ市を孤立させてハマスに強引な攻撃を実行させることが目的だ。なぜなら補給が得られないハマスは攻撃するだけで消耗し戦闘継続が困難になる。さらにハマスがイスラエル軍を攻撃する場所は限定される。なによりもイスラエル軍にも損害が出るが民間人を戦闘に巻き込まない長所も得られる。

世界への影響

ガザ地区に侵攻したイスラエル軍司令官は、親分の目の前で子分をボコボコに殴っている。これを親分が放置すれば子分たちは“自分たちを助けない奴だ”と親分を見限る。これが明らかだから親分は子分を助けなければならない。この思考でガザ地区のハマスはガザ市救援に向かう。

同時にイスラエル軍司令官は世界に対して適用していると推測する。なぜならハマスを支援する国は親分になるからガザ地区を直接助けない親分は裏切り者と認識される。国際世論でハマスを支持してもガザ地区が陥落すれば親分が子分を見捨てたことになる。そうなると戦後にハマス残党は親分に復讐する可能性が有る。

仮に911テロの様に世界同時多発テロがアメリカで発生したら対テロ作戦は国境を超えて実行される。実際にアメリカは対テロ作戦の一環としてアフガニスタンで作戦をしただけではなくイラクを攻撃している。なぜなら当時はイラクのフセイン大統領が関係していると見なされたからだ。ならばハマスを支持したイラン・ロシア・中国はアメリカからの先制攻撃を受ける可能性が有る。このため世界同時多発テロとガザ地区が陥落した後が実は危険なのだ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。