オピニオン 上岡龍次コラム

中国の理想が中国の未来を潰す愚かな行為

2023/09/13
更新: 2024/06/13

9段線から10段線へ

中国は8月に中国視点の新しい地図を公開しインドとの係争地やボルネオ島のマレーシア近くの海域が中国の領土や領海として表示した。

さらに中国の新地図では尖閣諸島も中国の領土と領海に含まれていることが知られ関係国が反発した。中国が主張する9段線は国際法上の効力は無いが中国の領土と領海とすることは何度も関係国から反発の原因となっている。

これまで中国が主張した9段線だったが新たに台湾東部まで延長され尖閣諸島も含まれた10段線に拡大する。中国の主張は膨張するばかりで関係国を飲み込む勢いを見せているが担保になるものが存在しないのが現実だ。

中国の理想と現実

国家戦略として戦域を区分することは重要で、国家主権として主張する地域だから譲ることができない国土戦域となる。国家は国防を目的として国境の外側に敵軍を警戒する国防線を置くことが基本。この設定された国防線と国境が緩衝地帯となり敵軍を迎撃する戦域になる。強国となれば国防線の外に覇権を拡大する戦域を設定し軍事を背景にした外交を行なう。

戦域の区分
国土戦域:国家主権として主張できる地域
前方戦域:領域線と国防線の間の緩衝地帯
覇権戦域:国防線よりさらに前方で覇権を争う地域

基本的に国土戦域・前方戦域・覇権戦域で区分されるが、中国の10段線は国土戦域・前方戦域・覇権戦域がワンセットになった異常な主張になっている。

中国としては脅すことで関係国に国土戦域を譲歩させて中国の国土を拡大したいのだ。だが国土戦域が関係国の国境と接するなら関係国と交渉ができないので譲歩が存在しない。こうなると外交による解決は不可能で行き着く先は戦争になるだろう。

世界の警察であることを止めたアメリカと中国の立場

アメリカは世界の警察であることを止めたことで国防線を変更したと見られる。これまでのアメリカの国防線は中国大陸と朝鮮半島の38度線に置かれていた。

それが台湾・日本のラインに移動したと思われ中国も呼応するかの様に10段線を公開した。これは見た目ではアメリカの覇権が縮小した様に見えるが3000年の戦争史を見ると国防線の外側まで軍隊を派遣するのはアメリカだけ。

ローマ帝国でさえ国防線の内側だけの平和を維持している。今のアメリカが世界の警察として活動しているのは歴史的にみても異例だ。このためアメリカが世界の警察を止めることは原点回帰であり通常に戻っただけ。だからアメリカは何も困らない。
 
だがアメリカが世界の警察を止めると一番困るのは中国なのだ。なぜなら仲裁国であるアメリカが消えたことで南シナ海であれば10段線で国境紛争を抱える国との衝突が増加する。しかも中国が9段線から10段線まで拡大したことで複数の国との同時戦争すら有り得る状況に悪化させてしまった。

南シナ海で複数の国が国境紛争を抱えているが、今は共通の敵として中国が存在する。ならば今は一致団結して中国と戦争するとなれば、中国は二正面作戦を強いられるので苦しい立場になる。

さらに日本まで巻き込んだから南シナ海の関係国としては都合が良い状況になった。アメリカとしては南シナ海の友好国を軍事援助して代理戦争させることもできるので好都合。さらに中国は日本まで敵に回したのでアメリカとしても選択肢が多くなる。

可能性1:アメリカ軍は参戦せず友好国への軍事援助
可能性2:アメリカ軍は参戦し友好国と共同作戦
可能性3:日本を中心に反中国同盟で中国と戦争させる。アメリカは軍事援助を行なう

中国はアメリカの覇権が縮小したと誤認したとすれば敗北の道を突き進むことになる。なぜなら関係国を抑えるアメリカが消えたことで逆に中国と関係国との関係が悪化する。そうなると逆に軍事力の増強が必要になり今の人民解放軍の戦力を増強しなければ対応できないことを意味する。

これは人件費と軍事費の増額を意味するから中国の国家予算の負担を増やすことを意味する。今の中国経済は破綻寸前なのに人民解放軍の増強が行えるのか?仮に軍事費の増額を行えば中国経済を破綻させる原因になる。では人民解放軍の軍縮を行えば?こうなると南シナ海で関係国との戦争で苦戦するか敗北することになる。
 
仮にアメリカが参戦せず友好国への軍事援助を選ぶと苦しむのは中国だけでアメリカは困らない。それどころか軍事援助の経済的な負担だけだから人的損害は無い。だからアメリカが選ぶとすれば参戦せずに友好国への軍事援助を行なう可能性が高い。

インドはダークホース

中国が主張する最新の中国の領土では南シナ海だけではなくインドとの係争地も含まれている。このため仮に中国と南シナ海の関係国と戦争になればインドはダークホースの立場になる。

インドから見ると中国が南シナ海で戦争を開始したらインドの好機。インドは南シナ海の関係国を軍事援助するかインド領から中国へ向けて進撃することもできる。

・南シナ海の関係国を軍事援助して中国と間接的な戦争をする。
・南シナ海の戦争と連動してインドから中国に進撃する。

インドとしては仮想敵国である中国を縮小できれば良いから南シナ海の戦争は選択肢が得られるので都合が良い。さらにアメリカがインドと連携して南シナ海の関係国を軍事援助する可能性も有るから困らない。

こうなったのは中国が無制限に領土を拡大するから仮想敵国を増加させた。こうなると仮想敵国が多くなった中国は二正面作戦ではなく三正面作戦に陥る可能性が待っている。

他人事ではない日本

中国は尖閣諸島まで含んだ10段線に拡大した。こうなると日本は嫌でも中国との国境紛争に巻き込まれてしまった。ならばアメリカは日本を中心にした反中国同盟を組織して中国と戦争させる可能性が有る。

なぜなら日本はアジアの雄であり南シナ海の国々から信頼されている。南シナ海に面する国同士で国境紛争を抱えているが、中国との戦争を目的とし日本を中心とする軍事同盟が可能になる。

これをアメリカが選んだとすれば日本は尖閣諸島を中国から守る戦争だけではなく南シナ海を中国から守る戦争をすることになるだろう。今の日本は先制攻撃できないが在日米軍所属のアメリカ軍が尖閣諸島で中国から攻撃されたとして、米軍は強引に自衛隊を共同作戦に拡大させるケースが考えられる

今の日本は先制攻撃できないが在日米軍所属のアメリカ軍が尖閣諸島で中国から攻撃されたとして、自衛隊との共同作戦に拡大する強引さが考えられる。中国の10段線が拡大したことで尖閣諸島と南シナ海の係争が発生すれば全体の係争に拡大するかもしれない。

南シナ海は日本が使う海上交通路が存在するから無視できない。さらに尖閣諸島が中国に狙われているから無視できない。そうなると南シナ海の関係国かアメリカの要請で中国との戦争は回避できないことを覚悟すべきだ。

仮に南シナ海で係争が発生すれば日本が使う海上交通路は遮断され輸出入に影響を与える。これは海上交通路を南シナ海ルートから南に移動したインドネシア付近の海域を使った迂回路が想定されている。

だが迂回路を使うと通常よりも3日加算されることから輸送費が増加して物価が上昇することになる。それでも海上交通路の迂回路さえ有れば日本は食糧不足で飢えることは無い。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。