EV(電気自動車)の普及に伴い、車載電池の製造に欠かせないリチウムやコバルトといった希少金属(レアメタル)の需要が一層増大している。中国は、これらの資源の確保に奔走している。
アフリカの希少金属を「根こそぎ」にする中国
近年、中国が特に目を付けているのは膨大な未開発鉱床を有するアフリカだ。
英国地質調査所(BGS)が2021年7月に発表した報告書によると、アフリカのリチウム資源は主に、コンゴ民主共和国、ジンバブエ、マリ、ナミビア、ガーナに集中している。
中国の電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)は「アフリカでリチウム鉱山6カ所を買収することで合意した」と中国メディア「澎湃新聞」が昨年5月に報じた。
これら6つの鉱山から得られるリチウム資源は、2700万台以上の電気自動車の需要を満たすことができるという。
コンゴでは、世界最大級の高品位リチウム鉱床である「マノノ鉱山」の権益をめぐり、中国企業と豪州鉱山開発企業が競り合っている。
マノノ(Manono)リチウム鉱山プロジェクトの所有権は、もとは豪AVZミネラルズやコンゴの国有会社コミニエール(Cominiere)社の手にあった。
しかし昨年5月、AVZは同プロジェクトの権益24%を、中国車載電池大手の寧德時代新能源科技(CATL)が出資する蘇州天華時代新能源産業投資(CATH)に譲渡した。取得額は2億4000万ドル(約321億3000万円)である。
その数日後、中国国営の紫金鉱業集団(ズージン・マイニング・グループ)も同プロジェクトの15%の権益を取得したことを発表した。
残りの61%の権益のうち豪AVZ社が所有する権益は51%であるが、その一部が訴訟中であるため、AVZはプロジェクトの支配株主としての地位を失う可能性もある。
中国が狙う「資源独占による世界制覇」
また、ジンバブエのビキタ・リチウム鉱山も昨年2月に、中国の中鉱資源集団によって経営権を1億8000万ドル(約207億8000万円)で買収されている。
中国のコバルト最大手の「浙江華友鈷業」は21年12月、ジンバブエのアルカディア(Arcadia)リチウム鉱山を買収した。同鉱山のリチウムの推定埋蔵量は7200万トンに上る。
中国企業の「誠鑫鋰業」も21年11月、ジンバブエ東部Sabi Starのリチウム鉱山の51%の権益を取得した。同鉱山のリチウムの推定埋蔵量は688万トンとみられている。
西アフリカの内陸国マリでも、リチウム鉱山のプロジェクトは相次ぎ中国企業に狙われ、買収されている。
中国のリチウム大手の江西贛鋒鋰業(ガンフォンリチウム)は21年6月、5000万トンの推測埋蔵量を誇るマリのグーラミーナ(Goulamina)鉱山の権益50%を取得した。ガンフォンリチウムは米テスラとリチウム製品供給の契約を結んでいる。
リチウムに限らず、コバルトも以前から中国企業が目をつけ、着々と買収を進めてきた。
現在、世界のコバルト埋蔵量の約5割、生産量の約7割を占めるコンゴの大手14のコバルト採掘企業のうち、8社が中国資本である。
「買収」と「経済支援」が常套手段
アメリカアフリカ軍は、米軍における地域別統合軍の一つで、エジプトを除くアフリカの54カ国(西サハラをふくむ)を担当する。
同軍の司令官であるスティーブン・タウンゼンド(Stephen Townsend)陸軍大将は昨年4月6日、上院軍事委員会における発言のなかで「中国共産党はアフリカに巨額の資金を投じて、一帯一路プロジェクトを推進している」と述べた。
さらにタウンゼンド司令官は「アフリカには膨大な資源がある。これらの資源を掌握する者は21世紀の世界経済を制する」との見方を示した。
中国は今も、アフリカの資源を買収することで莫大な利益を上げる一方、経済支援などを通じてアフリカ諸国との関係を深め、その影響力を強めている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。