6. 始まった自給コミュニティづくり【 人類の活路は地球から教わる】

2022/09/04
更新: 2022/09/03

ここ何年も続く異常気象、コロナパンデミック、さらにウクライナ紛争。世界中に大きな影響を及ぼす出来事が続くなかで、一部の人々は安心して生活することができる新しい社会を探し始めている。しかし、新しい社会といっても、すでに科学技術は最先端の研究が進み、強固な社会システムをどう変えていくのか、途方もない課題のようにも思われる。実際、いまの時点で提案されているアイデアとしては、「AIが人間に代わって危険な仕事をしてくれる」とか、「遺伝子組み換え技術によって昆虫食が普及して飢餓を回避できる」とか、心から賛同できるようなものには思われない。

経済、政治、外交、教育、医療、福祉といった分野には、それぞれ大小さまざまな問題が起きている。そして、それらは小手先の対症療法ではなにも解決できないことを、おそらく大半の国民が感じ取っているのではないだろうか。そこで、今回の大テーマに「人類の活路は地球から教わる」という視点を据えて、これまで注目されていなかった事象についてご紹介してきた。そのなかで特に重要だと考えているのは、量子物理学の視点だ。なかでも、「量子は振動している」ということ、さらに「振動による共振・共鳴は大きなエネルギーを生み出す」という科学的な事実に、とても大きな魅力と可能性を感じている。

たとえば、自然農法の研究でいうと、穏やかで、楽しい気持ちで野菜を育てると良く育ち、逆に「大きくたくさん育ってほしい」などと強いプレッシャーをかけると育ちが悪い、といった現象が実際に起こる。どうやら私たちの脳波が、野菜づくりに強く影響してしまうらしいのだ。このことは、以前から何となく気づいてはいた。2011年に完全な無肥料・無農薬の野菜づくりを始めた当初は、「早く野菜が作れるようになりたい」と焦り、常に緊張したまま畑に立っていた。しかし、自分にできることは全て試し、資金が底をつき、全て失敗したとき、「どうにでもなれ」と諦めた。脱力したときに、なぜか野菜は育ち始めた。このことは、私の研究生活のなかで最も印象深い出来事だった。

家庭菜園にしろ、本格的な農業にしろ、だれしも「美味しい野菜」「大きな野菜」「多くの野菜」を望む。しかし、あまりに気負い過ぎると、植物というのは人間の波動に影響されてしまう。とくに完全な無肥料・無農薬の自然農法では、作り手の波動(脳波)の影響が出やすいように見える。

私の農園では2020年から「オーナーズクラブ」といって、自分の区画で好きな野菜を育てながら技術を学ぶ場を作っている。野菜づくりどころか、土いじりも初めての人がほとんどだ。面白いことに、最初はおっかなびっくりというか、無心というか、夢中になって野菜を育てると、意外にも野菜は良く育ってくれる。たとえば今年始めた人のなかには、8㎏を超える大玉スイカを収穫した女性=写真=もいる。スイカは農薬なしには育たないと思われているが、農薬どころか、肥料を一切使わなくても、立派なスイカが育つのだ。

園芸初挑戦で8.4㎏の大玉スイカ収穫(筆者撮影)
 

ところが、2年目に入ると、なぜか「次はもっと上手く育てよう」という雑念が入るためか、うまく育たないという人が続出する。そこで、「作り手の気持ちが大切である」こと、「野菜にプレッシャーをかけるのではなく、優しく見守ってほしい」と伝えるようにしている。気持ちのコントロールができるようになると、再び野菜は育つようになる。この不思議な現象は、これまで感覚的なものでしかなかったが、量子物理学の振動の原理を知ることで、むしろ科学的な現象であることに確信が持てるようになった。

さて、自然の仕組みを理解し、振動(脳波)の考え方も取り入れると、いったい何が起きるだろうか。結論から書くと、野菜を意図的に、確実に栽培することができる、ということになる。もちろん、肥料も農薬も一切使わない。たとえば、2021年1月、栽培実験用の小さなビニールハウスを建て、いろいろな野菜を育ててみた。コマツナ、カブ、トマト、スイカなど。ハウス栽培なので水やりだけは必要だが、なんとどの野菜も信じられないほどすくすく育ってくれた。

ハウスの栽培実験でコマツナがすくすく育つ(筆者撮影)

こうした “不思議な現象”を会社のWEBサイトに載せたり、オーナーズクラブ会員のクチコミが広がったりして、ついに現役農家からも問い合わせをいただくようになった。肥料も農薬も使わないというコスト面の問題だけでなく、もちろん健康問題も環境問題も含まれるから、もし完全な無肥料・無農薬で野菜が量産できるとしたら、まさに夢の技術になるだろう。

2022年は、日本だけでなく、世界が大きく変わろうとしている。たくさんの不安のなかで、私たちは変化の波に飲まれて犠牲になるのではなく、積極的に新しい世界を創るという選択肢もあるはずだ。そう考え始めた人々、とくに都会で生活する人々は、自給自足を目指して地方移住を始めている。そこで大切なポイントになるのは、食べ物をどうやって確保していくかだろう。自ら技術を磨いて農作物をつくることも不可能ではないが、個人で生き延びることを目指すのは難しい。そこで、私自身もただ農業技術を普及するというのではなく、ある程度の規模を持ったコミュニティの建設を提案し、仲間が集まり始めている。米、小麦、野菜のほか、オリジナルの味噌や醤油づくりにもチャレンジしている。世界がどんなに変化しようとも、食べ物の不安がないというのは、何にもまして安心感がある。時代は、すでにその段階に来ているのだ。

(おわり)

自然農法家、ジャーナリスト。1986年慶応大学経済学部卒業。読売新聞記者を経て、1998年フリージャーナリストに。さまざまな社会問題の中心に食と農の歪みがあると考え、2007年農業技術研究所歩屋(あゆみや)を設立、2011年から千葉県にて本格的な自然農法の研究を始める。肥料、農薬をまったく使わない完全自然農法の技術を考案し、2015年日本で初めての農法特許を取得(特許第5770897号)。ハル農法と名付け、実用化と普及に取り組んでいる。 ※寄稿文は執筆者の見解を示すものです。