米国ワシントン拠点のシンクタンク・ブルッキングス研究所は、2月26日発表の台湾についての研究報告で、台湾にとって唯一の脅威は中国だが、中国は台湾に浸透工作を働き、党派の分裂を図り、この分裂から受益していると警告した。報告は、台湾の政治家は合意点を早期に模索するよう提言した。
報告は、米国在台湾協会のリチャード・ブッシュ(Richard Bush)前代表と、米国家安全保障会議(NSC)アジア太平洋事務局長だったライアン・ハス(Ryan Hass)氏が共同で執筆した。
中国共産党政権は長らく、台湾の事実上の独立と自治を終わらせて「再び統一する」ことを宣言している。習近平主席は2019年1月、統一のために武力行使も辞さないと主張した。
台湾で民主主義が成熟しつつあると同時に、ナショナリズムと台湾人としてのアイデンティティーも形成した。与党・民進党系のシンクタンク、新台湾国策智庫が2017年4月に発表した世論調査によると、自身が台湾人と答えた人は83%に上り、中国人と答えた人は10%だった。
しかし、報告では、この台湾に対する強いアイデンティティーは、必ずしも「台湾が独立国であるべき」と主張することと同義ではなく、台湾の民主主義の挑戦となる、強力な中国共産党への対抗を示す数字と見ている。
1990年代半ば以降、独立に関する意識は、常に台湾政治の中核的かつ対立を招く議題となった。
13ページにわたる報告書は、台湾の歴代総統について分析した。李登輝氏、陳水扁氏は、台湾人としてのアイデンティティーを強調し支持を得ていたため、国の安全が(中国に)脅かされていた。馬英九氏は中国への挑発を避け、中国との経済協力を重んじる姿勢を取っていた。
蔡英文氏は自治性を保ちながら中国本土と衝突しない「現状維持」 を掲げる。しかし、中国共産党は、蔡政権が「独立を目論んでいる」と批判し、ソフト面やハード面などあらゆる手段を使って国際社会で蔡政権の地位を引き下げ、国内では求心力を弱めようとしている。
1996年の国民による直接選挙が導入されて以来、台湾は国民党と民進党との間で3回の政権交代があった。争点は経済競争力向上や貧富の差解消、原子力発電など内政問題が多い。報告では、台湾の政治指導者はアイデンティティーの視点で中国共産党の圧力に対抗することに消極的だと指摘する。対中関係は政治家にとって難しい選択となり、有権者への説明を避け言葉選びも慎重だったという。
このため、2党の主張で世論や内政が分裂する台湾の状況からの、最大の受益者は中国共産党になるという。「中国は台湾統一を強く求めているが、台湾はこれにどう対応するかについて意見が割れている。マスコミはスキャンダルを報じることに力を注いでいる」
最後に報告では、与党と野党の主要政党は、台湾の政治体制が台湾が直面する課題にもっと効果的に対応できるように中間合意をまとめるべきだと提言する。可能であれば、主要政党間の協力または競争の境界を定めることが望ましいという。また、台湾の政治家は国民への政治説明の責任を負い、危機に瀕する台湾にとって、最も合理的な政策の選択肢とは何か、呼び掛けるべきだとした。
(翻訳編集・佐渡道世)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。