[東京 19日 ロイター] – 北朝鮮の2発のミサイルがはるか上空を通過してから、北海道えりも町でコンブ漁を営む川村光代さん(68)は緊張の日々を送っている。
「音がすると外を見、海を見る。またいつくるんだろう」。強い風に吹かれながら、岩の上で昆布を干す川村さんは、不安を隠さない。
<逃げる場所はない>
衆院選を控え、安倍晋三首相は、北朝鮮による度重なるミサイル発射を国難と表現した。
8月29日と9月15日のミサイルは、いずれも襟裳岬から1000キロ以上離れた太平洋上に落下した。しかし、えりも町の住人にとってはミサイルは気味の悪い脅威だ。だれも実際には目撃したことはないからだ。
ミサイルが発射されると政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)で携帯電話やテレビなどに国民向け情報を伝達するが、「あっという間に到着するので、逃げる場所もない」と川村さんは話す。
北朝鮮が日本を沈めると脅し、米国に到達可能な核弾頭を開発するのに伴い、安倍首相は北朝鮮に対し「対話のための対話は意味はない」「我々はもうだまされない」など、より激しい言葉遣いをするようになっている。
日本は北朝鮮からの防衛のために地上配備型の迎撃ミサイルPAC3を34基、全国に配備しているほか、ミサイル防衛能力を持つイージス艦も展開している。
北朝鮮のロケット発射により北海道の人口わずか4850人のえりも町が世界の注目を浴びるようになった。サケ漁に従事する地元の漁業関係者は安倍政権を強く支持しているものの北朝鮮にあまりに強硬な姿勢を取ればかえって日本に危険をもたらしかねないと懸念もしている
「やっぱり安倍さんじゃなきゃ、だめじゃない。今も」と自民党支持のナリタサトルさん(72)は述べる。同じく自民党支持の木下凌輔さん(23)は、「本当に次に北朝鮮が撃ったら、やり返すぐらいの感じでやってもらわないと、平和で安全に暮らせない」と話す。
一方、漁業組合の住野谷張貴さんは「安倍さんの今のやり方は強硬過ぎる。安倍さんが一人歩きしないような、けん制できるような態勢が必要と思う」と懸念する。最近の米朝首脳同士の激しい言葉の応酬は、米国よりはるかに北朝鮮に近いが故に標的にされかねないとの懸念を引き起こしている。
えりも町の大西正紀町長は、北朝鮮が何かしようとすれば「日本は射程内にある」と警戒する。
<憲法改正、分かれる意見>
えりも町の有権者の間でも自民党が掲げる憲法改正についての意見は割れている。神主の手塚裕警さん(39)は憲法は時代遅れなので「今の時代に合った憲法が必要だ」とする。
一方、内藤叔廣さん(77)は反対の意見だ。「私は(改正は)必要ないと思う。日本は戦争しないということなんだから」と指摘する。安倍自民は強くなりすぎているとして、衆院選では野党に投票する予定だ。
えりも町によると、最近のミサイル発射を受けて特段の予防措置や避難訓練などは行っていない。町内には津波や台風警報を報じるスピーカーが50箇所に設置されている。最近数カ月の間には屋内にいても警報が聞こえるように1500戸の家庭に無線装置を設置したという。
えりも町は緊急の食料や水も配備している。北海道の他の地域との交通が海岸沿いの道路に限られており、天候により交通が遮断されることがあるからだ。
えりも町の町民はサケの漁獲高減少と高齢化による後継者不足で漁業が衰退するのを懸念している。「ここは漁業の町。魚がとれないとだめな町です」と内藤さんは指摘する。漁業以外に有望な職業は少ないため若者は札幌など都会に出て行いき、両親も子供につれそうかたちで地元を離れていくこともある。えりもの人口は1960年代の9000人がピークで、今は半減した。
えりもの漁業関係者たちは北朝鮮が警告どおりに太平洋で水爆実験を行うようなことがあれば、福島第一原発事故のように海が放射能で汚染されると恐れている。「放射能で魚が全部だめになってしまう。福島のようになってしまうんじゃないか。商売にならない」とナリタさんは言う。
(マルコム・フォスター 翻訳 竹本能文 取材協力 久保信博 日本語編集 石田仁志)
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