米国のAI企業アンソロピックはこのほど、中国の複数のAI企業が、利用者に知らせないまま、入力内容の一部を同社の生成AIモデル「Claude」に送って処理していた疑いがあると発表した。中国のAI業界関係者は、今回の問題を受け、中国共産党(中共)当局の関係部門が、機密情報などが外部に流出した可能性について調べていると述べた。
アンソロピックは9月10日、脅威に関する報告書を公表した。報告書では、月之暗面(Moonshot AI)、DeepSeek、アリババ、智譜AI(Zhipu AI)、小米(シャオミ)、商湯科技(SenseTime)、MiniMaxなどの中国AI企業が、代理サービスや不正に作成されたアカウントを通じてClaudeの出力を取得し、自社モデルの学習に使っていたと指摘した。
報告書によると、Moonshot AIとDeepSeekは、利用者が入力した内容をClaudeに直接送信し、Claudeが作成した回答を自社サービス上で表示していた疑いもある。アンソロピックは、Moonshot AIが対話型AIサービス「Kimi」の一部利用者の入力をClaudeに送信し、その回答を自社モデルによる回答として表示していたと主張している。
アンソロピックによると、Moonshot AIは10日間で、利用者からのリクエスト約30万件を同社に送信した。これには5380件の不正アカウントが関与し、大半はシンガポールと日本からのアクセスとして記録されていたという。2026年5月から7月にかけて、アンソロピックはMoonshot AIに関連すると判断したやり取りを2300万件以上確認したとしている。
機密情報・認証情報の流出リスク
中国のAIエンジニア、楚氏は、問題の発覚後、勤務先での情報管理が厳しくなったと語った。
「こうした問題は今、『内輪の恥』とみなされている。会社の上司からは、これまで以上に慎重に対応するよう求められた」
楚氏によると、中国の関係当局は、軍関係者が規定に反して海外のAI製品を利用していなかったかを調べているという。軍関係者は、許可なくインターネットに接続された環境で、軍事活動に関する内容を扱うことを禁じられているとされる。
「アンソロピックの報告内容が事実なら、中共軍の関係者による明確な規定違反に当たる」
楚氏はさらに、ある軍関係者がインターネットに接続した状態で、部隊の年次総括を作成した事例があったと明かした。接続から20分もたたないうちに、使用していたパソコンへの不正アクセスが検知され、この関係者は後に処分を受けたという。
同氏は、中共軍では、機密情報を扱う職員によるインターネット接続機器の利用に制限があり、規定に反してAIツールを使えば、情報安全保障上の問題を招くおそれがあると指摘した。
軍・警察関連データも対象か 中共当局の調査説
アンソロピックの報告書は、中国の大手国有企業に勤めるエンジニアが、Kimiを使って社内システムを開発する際、複数の中国企業の内部コードや、なお有効なアクセス認証情報を入力していた事例も挙げた。アンソロピックは、この利用者自身は、入力内容がClaudeに送られていることを知らなかったとしている。
中国のインターネット規制当局の内部関係者、胡晨風氏(仮名)は、アンソロピックの公表内容が中共当局の関係部門に衝撃を与えたと述べた。一部の利用者は、当局の監視システムや軍事活動に関する情報を、知らないうちに米国のAIモデルに送信し、処理させていた可能性があるという。
胡氏は、関係部門が今回の問題の発覚以前に、どの程度の機密情報やセンシティブ情報が米国のAI企業のシステムに送られた可能性があるのかを確認していると語った。
「これは単なる不祥事ではない。2年以上にわたり、中共軍や警察、設計院などの組織では、海外のAIツールを使って分析を行う人がいた。今必要なのは、どのデータが送られたのか、どの組織に関するデータなのか、そして、そのデータが現在も保存されているのかを明らかにすることだ」
ただし胡氏は、問題となったデータの範囲は現時点では把握できず、第三者に利用されたかどうかも確認できていないとした。そのうえで、一部のデータがすでに流出している可能性があり、このような運用が長期間続いていた場合、対象となるデータの範囲や被害規模は大きくなるおそれがあるとの見方を示した。
Moonshot AIは9月12日、中国のSNS、微博(Weibo)の公式アカウントで、創業者の楊植麟氏や従業員が連行されたとのネット上のうわさを否定した。「完全な事実無根であり、悪意あるデマだ」として、公安当局に通報したと発表した。
ロイター通信はこれに先立ち、アンソロピックの報告について中国の関係企業に取材を試みたが、Moonshot AIやDeepSeekなどは直ちに回答しなかったと報じている。
本稿執筆時点で、中国の国家インターネット情報弁公室、工業・情報化部、公安部、国防部は、この問題について調査の開始を公表していない。
中国企業が抱える国産AI経由の情報漏えい懸念
中国・浙江省杭州市のテクノロジー企業に勤める技術者、何善民氏(仮名)は大紀元の取材に対し、これまでの対応からみて、このような問題が起きた場合、中央の国務院の関係部門や関連する企業・事業体に内部通知が出される可能性があると語った。
通知では、規定に反して「グレート・ファイアウォール」を回避するツールを使った人物への調査や処分、VPNの利用制限の強化が求められる可能性があるという。
何氏は、中国本土で多くの米国製AIモデルを利用するには、VPNなどの代理ツールを使う必要があり、データの一部は、こうした経路を通じて海外のAIモデルに送られると説明した。
「企業は、社内資料が国産AIのプラットフォームを通じて同業他社に流出することを心配している。そのため、むしろ海外のAIを利用する企業もある。海外のAI企業は知的財産権を重視し、利用者が入力した内容を扱う場合も、契約に基づく守秘義務を負うと考えているからだ」
何氏は、今回明らかになった状況から、企業がClaudeを直接利用していなくても、国産AIのプラットフォームや第三者の代理サービスを通じて、データが海外に送られる可能性があると指摘した。利用者は、実際にどのAIモデルがデータを処理しているのか、サーバーがどこにあるのかを、必ずしも把握できないという。
7組織を遮断 「不正なモデル蒸留」とは何か
AI分野でいう「モデル蒸留」とは、より性能の高い大規模なAIモデルの出力を使い、小規模なモデルを訓練する手法である。開発コストを抑えながら、性能を高める目的で使われる。
アンソロピックは、今回確認した活動では、代理ネットワーク、偽の身元情報、仮想クレジットカード、盗まれたAPIキーなどが使われており、同社の利用規約や地域別のアクセス制限に違反していたと説明している。
報道によると、同社は中国に拠点を置く7つのAI開発組織に関連する「不正なモデル蒸留」の活動を把握し、遮断したとしている。対象として、アリババ、Moonshot AI、DeepSeek、智譜AI、シャオミ、SenseTime、MiniMaxの名前を挙げた。
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