中国共産党は8月17日、中央党校の元教授、蔡霞(さいか、68)氏の言論は「政治的な問題があり、国の名声を傷つけた」「党の政治規律と組織規律に重大違反した」として、蔡氏の党籍をはく奪し、年金などの退職者待遇を取り消すと発表した。これに対して、蔡氏は同日、SNS微信に「このマフィアのような政党を完全に切り離すことができた!」と投稿した。
蔡氏は、中国の著名な企業家で「紅二代(共産党政権の樹立に関わった長老らの子弟)」の任志強氏を支持すると公言してきた。今年3月、中国当局は、中共ウイルス(新型コロナウイルス)の感染拡大対策をめぐって、習近平政権を痛烈に批判した任氏を拘束した。
また、同氏は中共ウイルスの感染拡大を警告した武漢市の医師、李文亮氏の死亡をきっかけに広がった言論の自由を求める署名活動にも参加した。中国当局が香港に強制的に導入した「国家安全維持法」に関しても、「香港の人々へのレイプだ」と非難した。
蔡氏は17日、米ボイス・オフ・アメリカ(VOA)のインタビューを受けた。その際、党籍のはく奪よりも、中国世論は自身の退職者待遇が取り消されたことに大きく注目していると明らかにした。
「中国共産党が、勇気を持って真実を話す人を徹底的に排除することに対して、中国国民はみんな予想していた。共産党は、違う意見を持つ人の存在を許さないからだ」
「しかし、政治的な考えを国民一人の年金受給権利、老後生活の権利と結びつけて、その権利を奪ったのは、国民の生きる権利を奪ったのと同じだ。だから、中国社会に衝撃を与えたと思う」
蔡氏によると、多くの中国国民は、インターネットや電話を通じて、自身への支持を示して、励ましの声をかけた。友人らも、当局に対して訴訟を起こすよう提案したという。「訴訟を起こすつもりだ。法的プロセスで自分の権利を守らなければならない。その結果はどうなるかわからないが、自分の権利を侵害されるのは許さない」
党校で約40年間、党のエリート育成に関わってきた蔡氏は今、断固として共産党に反対している。同氏は、内憂外患の中国共産党は現在、国内の言論統制を強めているだけではなく、党内で異見を唱える者への粛清を強化していると指摘した。
2016年、蔡霞氏は初めて、習近平体制を批判し続けてきた任志強氏を擁護する文章を発表した。その直後、中央党校の上層部が同氏を呼び出し、任氏をめぐる発言を止めなければ、処分を下すと脅かした。
「党内上層部は、外部の圧力が強ければ強いほど、内部で問題が起きるかと戦々恐々となるのだ。この不安から、共産党は、まず党内反対派の声を抑えなければならない。裏庭が静かになれば上層部は、はじめて安心できるのだ」
蔡霞氏によれば、2019年以降、共産党の最優先課題は「政治安全」の4文字でまとめることができる。政治的安全は「つまり政権の安定であり、はっきり言うと、習近平氏の権力地位の安定だ」という。
今年6月、同氏が親族や友人との集まりで発言した内容が、ネット上に流出した。蔡氏は、話の中で、共産党を「政治ゾンビ」と、習近平氏を「マフィアのボス」などと糾弾した。
蔡氏はVOAに対して、発言は自身のものだと認めた。
「中国共産党は政治ゾンビだ。この政党は、中国政治体制の転換という歴史的なミッションを成し遂げられない。だから、下野してもらわなければならない」
同氏は、中国にいる9000万人の党員の大半はエリートであるとした。このエリートらが力を合わせて、別の政党を作り、中国社会の各分野の人々と協力すれば、「新しい政治力で中国の政治的転換を実現し、国家の進歩を推し進めることができる」。
蔡霞氏は「中国の政治的転換を実現するには、体制の内部と外部のエリートの協力が必要だ。この転換のプロセスにおいて、まず共産党の政治的殻を捨てるべきだ」と強調した。
同氏は、任氏と同じく「紅二代」であり、母方の祖父は党の元長老で、母親や親族らは軍で高官を務めてきた。
「私は一人ではない」と蔡氏はVOAに語った。党内では、「私と同じような考えを持つ党員や幹部が60~70%いる」という。「みんな自分の考えを口にしていないだけだ」。
中国当局は文化大革命の終わった1977年に全国統一大学入学試験を再開した。党内のエリートの一部は、大学入学試験を経て、大学に入り、海外留学も経験し、帰国後改革開放に携わった。「彼らの考え方、価値観、国際情勢への認識は、鄧小平時代に形成した。習近平氏とは全く違う」「習近平氏は時代遅れの人だ」と蔡霞氏は述べた。
一方、同氏は、党内のこの6~7割の党員や幹部らの中に、「共産党政権が直ちに下野することを望んでいない人も多くいる」と指摘した。過去数十年間の統治において、共産党による圧政で、国民の恨みは根深いからだ。多くの幹部や高官も関与してきたため、「政治的転換が行われた場合、彼らは自身の安否を心配するだろう」という。
VOAによると、蔡霞氏はすでに米国に移住した。
(翻訳編集・張哲)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。