赤沢経済産業相は8月25日の記者会見で、紅海情勢の緊迫化を受け、日本向け原油の輸送ルートがアフリカ南端の喜望峰を回る迂回航路へ切り替わっていると説明した。
輸送期間の長期化により、9月の原油調達は前年同月の8割になる見通しだとし、不足分は石油備蓄の放出で補って前年水準の国内供給量を確保する。
フーシ派による攻撃リスクの高まりを受け、タンカーは、紅海南部のバベル・マンデブ海峡を通過する通常ルートを避け、一度紅海を北上してスエズ運河を経由し、地中海から喜望峰へと大きく大回りする迂回ルートに切り替えている。この影響により、該当するタンカーの輸送期間は、従来のバベル・マンデブ海峡ルート(21~23日程度)から約55日へと、1か月近く長期化している
9月の調達量は8割 備蓄で補完
輸送の遅れにより、9月に日本へ到着する原油の調達率は一時的に8割(80%)へ減少する見通しだ。政府は、すでに放出を決定した国家備蓄のうち、代替調達の進展によって使われずに残っている分を市場へ供給する。
これにより、国内への総供給量は前年同月比100%を維持できるとしており、物理的な原油不足は回避できる見込み。10月以降は、喜望峰経由のタンカーが順次到着するため、調達量も前年並みに回復する見込みだ。
一方、供給量を確保できても、輸送距離の延長に伴う費用増は避けられない。迂回航路の定着により、日本の原油調達を巡る課題は、当面の供給不足から輸送費や保険料を含む調達コストの上昇へ移りつつある。
追加コスト 1バレル5~9ドル
State Craft Signalによると、迂回に伴う追加コストを1バレル当たり約5ドルと試算している。200万バレルを積載する超大型原油タンカー(VLCC)1隻では、約1千万ドル(約15億円)の負担増となる。燃料費だけでも、従来の126万ドルから287万ドルへ2倍以上に増えるという。
海事AI予測企業のWindward AIは、運賃や燃料費、保険料、SUMEDパイプラインの利用料などを含め、追加コストを1バレル当たり約9ドルと見積もっている。
輸送経路も複雑化している。サウジアラビア産原油などは、東部の油田から紅海側のヤンブーへ送られ、北上してエジプトのSUMEDパイプラインを通過する。その後、地中海からジブラルタル海峡を抜け、アフリカ大陸を回って再び喜望峰を経由し、アジアへ向かう。紅海南部のバベル・マンデブ海峡を回避するため、輸送距離が大幅に延びる形である。
戦時リスク保険料も上昇している。Chemicals United BVによると、紅海通過時の保険料は通常の1~2万ドルから、ピーク時には15~50万ドルへ急騰した。
米エネルギー情報局(EIA)の分析では、紅海での攻撃以降、石油製品(クリーン製品)を運ぶタンカー運賃が平均20%以上上昇した。インド西岸からヨーロッパやイギリスへ向かうタンカー(Long-range 1)では、23%の上昇を確認している。
調達先の多角化を加速
政府は中東依存度を引き下げ、海峡などのチョークポイントに過度に依存しない供給網を構築する方針をとっている。アメリカ、太平洋地域、中南米、中央アジア、アフリカを重点地域とし、原油調達先の多角化を進めている。
原油価格の上昇が続けば、輸送業界だけでなく、世界経済への影響も広がる。国際通貨基金(IMF)のモデルでは、原油価格が10%持続的に上昇した場合、世界のインフレ率を0.4%押し上げ、経済成長率が0.1%低下する。
政府の備蓄活用により、9月の供給量は確保の見通しではあるものの、紅海情勢の長期化は輸送費や保険料を押し上げ、安定供給を維持するための負担は増大する。短期的な備蓄対応と並行し、調達先と輸送経路の多角化をどこまで進められるかが、中長期的なエネルギー安全保障の課題となる。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。