国民にインストールを強く求めてきた「詐欺対策アプリ(反诈中心APP)」が、公安による個人情報売買に悪用されていたことが明らかになった。
このアプリは、公安当局が主導し「詐欺電話や不審な送金を防ぐための対策アプリ」として全国に普及を進めてきたものだ。
中国メディア「財新網」が5月11日、中国の裁判文書サイトに公開された判決書の内容を報じた。
それによると、福建省の男が江西省の公安関係者らと結託し、詐欺対策アプリのシステムを使って市民の銀行口座情報を不正に調べ、外部に売っていたことが判明した。さらに、一部の口座では預金を外へ送れなくする措置まで行っていた。
公安側は1件につき約2万円(1千元)の報酬を受け取り、少なくとも170件以上の口座情報を不正に調査。さらに27件の銀行口座に対して、実際に送金停止措置を行っていた。
主犯の男は2026年1月、懲役3年3か月と罰金約200万円(10万元)の判決を受けた。ただ、関与した複数の公安幹部らへの処分内容や、被害者への補償については明らかにしていない。
中国では近年、公安関係者による市民の個人情報の不正取得・売却事件が相次いでいる。別の地域でも公安が5千件以上の銀行口座情報を不正に調べ、犯罪グループ側に流していたケースを報じている。
こうした公安関係者による個人情報流出事件は、中国ではたびたび表面化しており、中国のネット上では、もはや「またか」という反応も少なくない。「毎日のように迷惑電話が来る理由が分かった」と、半ばあきらめ気味の声も上がっている。
問題となっている「詐欺対策アプリ」は、公安当局が2021年から全国で普及を進めてきたものだ。銀行窓口や駅、各種手続きの場などで市民に半ば強制的にダウンロードを求めるケースが相次ぎ、中国のSNS上でも「入れないと手続きしてもらえなかった」といった苦情があふれていた。

一方で、このアプリをめぐっては以前から「監視ツールではないか」との疑念も強かった。
チベット関連団体「ターコイズ・ルーフ」と人権団体「チベット・ウォッチ」は2024年、このアプリについて「利用者の通話履歴や閲覧履歴などを幅広く収集できる監視ツールだ」と指摘している。
本紙もこれまで、複数の中国国内外の関係者の分析として、中国当局の「詐欺対策」は、詐欺防止よりも通信規制や情報統制の色合いが強く、国民が自由な情報に触れることや、海外に中国の実情が伝わることを妨ぐ狙いがあると報じてきた。
「詐欺防止」を掲げて広がったアプリが、逆に市民監視と個人情報流出の温床になっていた現実に、中国社会では不信感が一段と強まっている。
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