G7はカナダ主導のもと、重要鉱物の安定供給を目指し26件の新規投資と協力を発表。中国依存から脱却し、サプライチェーン強化と経済安全保障を推進している。
カナダ政府は主要7か国(G7)エネルギー・環境相会議において、重要鉱物に関する包括的かつ大規模な戦略を打ち出した。カナダのエネルギー・天然資源相ティム・ホッジソン(Tim Hodgson)氏は、総額64億カナダドル(約7296億円)規模の重要鉱物プロジェクトの開発を加速させるため、26件の新規投資および提携案件を発表した。
カナダは今年、G7の議長国である。今回の戦略の核心は、重要鉱物の供給確保を国家安全保障の一環に引き上げ、信頼できる国際的パートナーと協力してサプライチェーンを強化し、中国への依存を減らすことにある。同時に、クリーンエネルギー、先端製造業、防衛分野に必要な資源を安定的に確保することを目的としている。
重要鉱物を国防戦略に組み込む
カナダ政府は「国防生産法」(Defence Production Act)を適用し、重要鉱物を国家安全保障上の優先項目に指定する方針を示した。これにより政府は、保証購入制度や価格下限制度などを導入し、国内鉱業を支援できるようになる。
ホッジソン氏は、この措置によりカナダは独自の戦略備蓄メカニズムを運用できるようになり、多国間での備蓄活動も支援できると説明した。政府は、防衛産業への安定供給を確保し、NATOの抑止と防衛の目標を支援するため、3種類の重要鉱物を備蓄する計画を立てている。ただし、具体的な鉱種は明らかにされていない。
国防調達担当国務長官スティーブン・ファー(Stephen Fuhr)氏は、「国防生産法に基づく重要鉱物の指定は、我が国の戦略資源主権を守る決定的な一歩であり、NATOとの戦略的連携をさらに深めることにもつながる」と述べた。
G7が結束 中共の資源独占に対抗
今回の大規模投資は、「重要鉱物生産同盟」(Critical Minerals Production Alliance)の下で始動する初の戦略プロジェクトであり、中国依存の軽減を目的としている。同同盟はカナダが主導し、G7諸国と共同で発足したもので、価格下限設定や長期購買契約を通じて、西側諸国の重要鉱物生産体制の構築を支援することを狙いとしている。
現在、日本を除くG7諸国は、レアアース磁石やバッテリー用金属などの分野で中国への依存が深く、中共政府は世界の戦略鉱物供給網の大部分を掌握している。
ホッジソン氏は、「重要鉱物の確保は、政治的・地政学的圧力の手段となりつつある」と述べ、中国以外からの安定調達を確保することの重要性を強調した。
同盟による主要投資と行動の概要
資本動員
カナダは、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルク、ノルウェー、米国、オーストラリア、ウクライナの9か国および産業界のパートナーと連携し、公的・民間資本を動員して、グラファイト、希土類元素、スカンジウム(Scandium)の生産を加速させる。
オフテイク契約(買付契約)
カナダ政府は特定企業とオフテイク契約を締結し、事前に定めた価格で製品を購入することで合意した。これにより鉱業界に需要と価格の安定性をもたらし、中国企業による低価格競争からの打撃を回避する目的がある。
カナダ政府は、ケベック州のニューワールド・グラファイト社(Nouveau Monde Graphite)とグラファイトのオフテイク契約を締結し、オーストラリアのリオ・ティント社(Rio Tinto)とはスカンジウムに関する契約を結んでいる。
主要支援プロジェクト
リオ・ティント社は、ケベック州ソレル=トレーシー(Sorel-Tracy)のスカンジウム生産工場に2500万カナダドル(約28億5千万円)の支援を受けた。スカンジウムは航空宇宙産業や防衛製造に使用される金属である。
Ucore Rare Metals社は、オンタリオ州のレアアース加工工場拡張のため、最大3630万カナダドル(約41億4千万円)の条件付き支援を受ける。
さらにノルウェーのVianode AS社は、カナダから最大5億米ドル(約770億円)の融資を受ける見込みであり、同時にドイツ政府から3億米ドル(約462億円)の支援を得て、オンタリオ州に合成グラファイト施設を新設する計画である。
その他の支援対象企業には、ノーザン・グラファイト社(Northern Graphite)、フォーカス・グラファイト社(Focus Graphite)、トーンガット・メタルズ社(Torngat Metals)などが含まれる。
豪州との連携強化 国際協力が拡大
トロントで開かれた会議では、カナダは主要資源国との協力をさらに深化させた。オーストラリアの資源相マデリン・キング氏(Madeleine King)は、ホッジソン氏と共に重要鉱物分野での「共同意向宣言」(Joint Declaration of Intent)に署名した。
キング氏は「カナダとの協力により、イノベーションと経済成長を支える強靭なサプライチェーンを構築できることを期待している」と述べた。
この豪加協定は、先月成立した豪米間の重要鉱物協定に続くものであり、中共による希土類独占に対抗するための新たな戦略的枠組みである。
市場の好反応
特定の重要鉱物プロジェクトに対する資金支援とオフテイク契約の発表を受け、関連企業の株価は急伸した。
ニューワールド・グラファイト社の株価は契約発表後、一時24%上昇した。北米で唯一操業中のグラファイト鉱山を運営するノーザン・グラファイト社の株価も29%上昇した。
ホッジソン氏は「これらの投資は、カナダが世界経済において主権を守り、競争力を高め、リーダーシップを発揮するための基盤となる」と総括した。
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