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相次ぐ中国船の海底ケーブル切断 戦時と平時の狭間で嫌がらせか 有事では日本にも影響

2025/02/27
更新: 2025/02/27

近年、中国船による海底ケーブル切断事件が相次いでおり、台湾周辺でも複数の事例が報告されている。中国共産党(中共)による「グレーゾーン戦略」の一環である可能性が指摘されており、台湾有事の前兆とも推察されている。

25日、台湾の海巡署(海上保安庁に相当)は台湾本島と澎湖諸島を結ぶ通信用海底ケーブルを切断した疑いで、中国人乗組員8人が乗る貨物船を拿捕した。

事件は同日午前3時頃に発生し、台湾当局は現場近くでいかりを下ろしていた貨物船「宏泰」を拿捕し、台南市の港で捜査を開始した。

船籍は西アフリカのトーゴであるが、中国資本が背後にあるとみなされている。また、船体には「紅台168」と表記されていたが、AIS(自動船舶識別装置)では「紅台58」と表示されており、船名の偽装の疑いもある。

海巡署は声明で「意図的な破壊工作か単なる事故かはさらに調査する必要がある」とし、検察が捜査中だと述べた。一方、中国共産党政権は「意図的な演出だ」と反発している。

先月3日にも、台湾北部で海底ケーブルの損傷事件が発生し、中国関連の貨物船の関与が疑われている。この時は4本の海底ケーブルが損傷したが、バックアップシステムが機能したため国内通信への影響は回避された。

米スタンフォード大学国家安全イノベーションセンターの「SeaLight」プロジェクトのディレクター、レイ・パウエル氏は、「この船はカメルーンに登録されているが、台湾の当局者によると、この船は捷陽貿易有限公司の所有で、香港に登録されており、この会社の唯一の取締役は中国人の郭文傑だ」と指摘。その上で、「海上のグレーゾーン戦略として、今後さらに多くのケーブル破壊行為が予想される」と述べている。

台湾周辺だけでなく、欧州でも同様の事件が発生している。

昨年11月、リトアニアとスウェーデンを結ぶ通信用の海底ケーブルが切断され、運用を停止した事件があった。中国の貨物船「伊鵬3号」の関与が疑われ、デンマーク海軍が同船を拿捕し調査を行った。

この船は、ロシアのウスチ・ルーガ港を出港後、問題のケーブル付近を航行しており、錨を下ろしたまま約160kmにわたり航行し、意図的にケーブルを切断した可能性が指摘されている。

台湾周辺で発生した上記2つの事件について、台湾当局は中共による「グレーゾーン戦略」の可能性を指摘。「グレーゾーン戦略」とは、戦時と平時の間の「グレーな領域」で相手国に対する嫌がらせや威圧を繰り返し、実質的な支配や影響力を拡大する戦略だ。

中共はアジアの周辺国に対して外交、経済など非軍事手段で圧力をかけて政権の利益を獲得しようとしている。米シンクタンクのランド研究所は、こうした「グレーゾーン戦略」を駆使してアメリカや周辺国からの軍事対応を避け、中共の都合に沿う現状へと変更させていると見ている。

ベトナムやフィリピンよりも、日本やインド、台湾のようなより対処力の高い国・地域が標的となりやすく、多種多様な戦術を採用しているという。

台湾有事、日本への影響

海底ケーブルを切断する中共の行為は、台湾有事の際には情報戦や通信遮断の手段として機能するほか、日本への大きな影響も避けられないとされる。

台湾周辺の海底通信ケーブルは、インターネット、軍事通信、金融取引などの主要インフラを支えている。有事の際、中共が意図的に破壊や切断することで、台湾の通信能力を大幅に制限し、軍事・経済的に孤立させることが可能になる。

具体的には、日米台を結ぶAPG(Asia-Pacific Gateway)、EAC-C2C、TPE(Taiwan-Pacific Express) などが対象となりやすく、中国海軍や偽装した商船・漁船を利用して物理的に破壊するとみられる。

また、台湾の通信事業者、政府機関、銀行などに対しサイバー攻撃を仕掛け、物理的な通信遮断と組み合わせて効果を高める手法もある。

インターネット通信の大部分は海底ケーブルに依存している日本にとっても、ないがしろにできない問題だ。

台湾経由の通信が停止すれば、日本の国際通信能力が大幅に低下する可能性があり、金融市場、貿易システム、クラウドサービス(Google、AWS、Microsoft) などが影響を受ける。

また、アメリカ軍のインド太平洋司令部(ハワイ)との連携や、日本国内の在日米軍基地・自衛隊との通信が妨害され、米軍・自衛隊の行動に支障をきたし、即応性が低下する状況に陥る。

特に、政府機関(防衛省・外務省)や重要インフラ(電力・水道・交通) に対するハイブリッド攻撃が想定される。日本政府・自衛隊は、衛星通信やサイバーセキュリティの強化を進めることで、有事に備える必要がある。

中国の大学が海底ケーブル切断する装置の特許を出願か

2020年、中国浙江省の麗水大学の研究チームが、海底ケーブルを迅速かつ低コストで切断する装置の特許を出願していたことが明らかになっている。

この装置は「アンカー型」のデザインを採用しており、船舶がケーブル上を航行しながら切断を行う仕組みだ。さらに、ケーブル切断後に銅の残留物を検知する機能を備えており、切断の成否を確認できる。この技術は、従来の複雑で高コストなケーブル切断作業を効率化することを目的としている。

中国の大学以外にも、2009年には中国国家海洋局・南シナ海支局の研究者らが「海底ケーブル切断装置」の特許を申請しており、違法なケーブルの除去を目的としているが、軍事的な利用も考えられると専門家は指摘している。

これらの技術開発や特許出願は、中国が海底ケーブルの切断能力を高め、特定の状況下で戦略的に活用する意図がある可能性を示唆している。