仕事なし、収入なし、食べることも困難 現代「農民工」の苦しい現状=中国

2024/01/15
更新: 2024/01/15

中国経済の破綻ぶりは、今や回復不可能なレベルに達している。高い失業率が続くばかりか、形の上ではまだ解雇されていない人であっても給与の未払いが常態化するなど、人々の生活は苦しくなる一方だ。

中国語に「農民工(民工)」という言葉がある。文字からすると「農民の出稼ぎ労働者」という意味にもなるが、実際に農業をやっている農民(出稼ぎ農民)とは限らないので「農村部に戸籍をもつ出稼ぎ労働者」と言ったほうが、より正確であろう。

「農村戸籍」が人を差別する

中国では、都市住民と農村部の住民は戸籍が厳格に分けられている。どこへでも自由に移住できる日本とは全く異なり、農村戸籍(农业户口)をもつ中国人が都市部へ移住することは事実上不可能であるため、彼らは「出稼ぎ」という方法をとるしかない。

ただし、ごく僅かな例外はある。農村部の出身で「学業成績が抜群」である学生が、都市部の大学を卒業し、都会の企業などに就職すると(必ずではないが)都市戸籍をもつことが認められる場合があることだ。もちろんこの稀有なケースは、大多数の「農民工」とは全く関係がない。

いずれにせよ「農民工」は、実際に農業をやっているか否かにかかわらず、農村での収入が極めて少ないため、彼らは都市部へ出稼ぎに行かざるを得ない。都市へ出てきた農民工は、同じ中国人でありながら「二級市民」として差別的に扱われる。

言い換えれば、はじめから彼らは、低賃金労働者として産業構造の最底辺に固定化されているのだ。

しかも、中国経済全体が大氷河期にある現在、都市部へ出稼ぎに来ている彼らの境遇は極めて厳しい。不景気になればまっ先に解雇される彼らは、収入を得るどころか、自身の生存さえ危ぶまれるほど困窮している。

このほど「農民労働者へのインタビュー動画」がSNSに投稿され、農民工の苦しい実態が明らかになった。予想通りとは言え、ネット上ではため息が広がっている。

60代の農民工:「仕事なし、食べるのも困難」

動画のなかには、農民工たちが仕事を探す場所で撮影された場面があった。

農村部からの出稼ぎ労働者(農民工)が人目につく路上に立って、その日の仕事の依頼を待っている。それぞれが手にもつ看板には「瓦工(屋根瓦の工事)」「刮大白(壁の白塗り)」「通下水(水道工事)」「力工(ちから仕事)」など、自分が提供できる仕事の種類が書かれているのだ。

こうした看板をもって路上に立つ方法での「仕事探し」は、もちろん最近に始まったことではない。まだ中国経済に勢いがあった90年代にもあった。そうした時代であれば、出稼ぎ労働者にとっては、ほぼ確実に1日の仕事にありつける良い方法であった。

しかし、今は全くそうではない。取材に応じたタイル張り職人であるという60代の農民工は、自身の境遇について次のように語った。

「私たちは、家に仕送りするどころか、自分が生活していくお金すら満足に稼げない。ごはんを食べられない時もあるよ」「私はもう高齢なため、腕はあっても雇ってくれない。安い賃金でも、誰も雇ってくれないのだ」

「以前なら、1日働いて30元(約600円)を稼いでいた。今は仕事がないため、20元を稼ぐのも難しく、自分の生活費にもならない。10数日でやっと5、60元(約1200円)になるが、それでは満足に食事もできない。食べ物は、パンばかりかじっており、おかずはない。7、8日経て、やっと仕事1つにありつけるかどうかという状況だ」

「私たちの要求は高くない。仕事があって、ごはんが食べられればいいんだ。私の言っていることが本当かどうか、この辺の人たちに聞いてみればいいよ。ほとんどの人が、私と同じように、ごはんも満足に食べられていないんだ」

 

中国の農民工(出稼ぎ労働者)。(MARK RALSTON/AFP via Getty Images)

 

「月収4万円以下」が、9億6400万人

昨年12月25日、中国経済メディア「第一財経」は中国の著名な経済学者である李迅雷氏の論文を掲載した。

李氏は論文のなかで、北京師範大学中国所得分配研究院が2021年に発表した調査データを引用して「月収2000元(約4万円)以下の中国人は、約9億6400万人いる」と明かした。

昨年10月に死去した李克強前首相も、2020年5月に「月収1000元(約2万円)の人が6億人いる」という実態を明らかにしている。

そして2024年、中国は、給与が何か月も支給されない経済破綻と、製造業を中心に「受注が全くない」という想像を絶する不景気のなかに突入した。

現在のところ、中国人の収入が増える要素は何一つなく、民衆がますます困窮することは火を見るよりも明らかになっている。

まして都市部へ出てきた農民工であれば、やがて簡易宿泊所にも泊まれない路上生活者となり、餓死や病死の危険に迫られることにもなる。

「中国第一世代」は、まだ働いている

昨年4月12日、中国誌「財経」は「中国第一世代の農民工は、まだ働いている」と題する記事を掲載し、北京市順義区河南村にある「労務市場(不法に労働力を取引する地下市場)」の悲惨な実態について紹介した。

この場合の「中国第一世代の農民工」とは、1949年から1976年に毛沢東が死去するまでの間に生まれた世代であり、今では50代から60代以上になる中高年の出稼ぎ者である。

以下は、同文章より抜粋する。

「毎朝4時から、ここには仕事を求めて出稼ぎ労働者たちが集まる。ここにあるのは建設現場やリフォーム現場での雑用、運搬、清掃などの主に短期、日雇いのアルバイトだ」

「50代の出稼ぎ労働者2人が、日給100元(約2千円)の清掃の仕事を取り合いになり、散々やりあっていた。また、67歳の高齢労働者の場合は、年齢超過のため、他人と仕事を取り合う資格すらない」

「中国国家統計局が発表した報告書によると、2021年の時点で、中国の農民工の総数は2.93億人。このうち、50歳以上の農民工は約8千万人で、全体の27.3%を占める」

老後の保障なし「体が動かなくなるまで働く」

近年、中共当局は建設業に対する「清退令(定年令)」を導入し、60歳以上の男性および50歳以上の女性の建設業への就労を禁止した。

また、中共の長年にわたる戸籍制度によって、農村戸籍をもつ労働者(農民工)は社会保障制度から除外されているため、彼らの老後の保障は全くない。

「農民工が、いつ仕事をやめるか」という問題について、農民工について研究を行ってきた安徽師範大学(安徽省)の副教授・仇鳳仙氏は「財経」誌に対して、「農民工のなかには、退職(リタイア)したら帰郷するという人は少なく、ほとんどが体が動かなくなるまで仕事を続ける」と答えている。

仇鳳仙氏によると「老後の生活は、全て自分自身で養っていかなければならない。そのため、普遍的に蓄えが少ない高齢の農民工には、退職といった概念はない」という。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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