長寿研究にベーシックインカム…「AIユートピア」夢見るChatGPTアルトマン氏の気になる投資先

2023/04/22
更新: 2023/04/18

マイクロソフトの共同創設者ビル・ゲイツ氏にも、インターネットの誕生と同等の意義を持つと言わしめた対話型AIChatGPT」。公開後わずか2か月で1億人のユーザーを獲得したその速度はオンラインサービス史上最速だ。いっぽう、ChatGPTの生みの親・サム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が人類社会に大きな変化をもたらすべく前衛的な技術に投資していることは、長らく知られていなかった。

マスク氏やザッカーバーグ氏に代表されるテック界の実業家はプログラマー出身者が多く、アルトマン氏も例外ではない。プログラミングでソフトを生み出し、理想を実現してきた。古代ギリシャの哲学者ピタゴラスが「万物の根源は数である」と述べたように、テック界の大物たちはAIが描く桃源郷を夢見ているのかもしれない。

その片鱗をのぞかせるのが前衛技術への巨額投資だ。投資家としても知られるアルトマン氏は、アンチエイジング技術や核融合技術、ベーシックインカム計画など、人々の暮らしを劇的に変化させうるものに惜しみなく資金を注ぎ込んでいる。

先端技術に惜しみなく投資

アルトマン氏は1985年、米国ミズーリ州セントルイスで生まれた。8歳の時にプログラミングを始めた。スタンフォード大学に進学しコンピュータサイエンスを専攻するも2年後に退学し、ベンチャーファンドを立ち上げて有名企業に投資した。29歳になったアルトマン氏は、スタートアップ企業を成長させるシードアクセラレーター「Yコンビネーター」の社長に就任。2015年にはマスク氏などとOpenAIを共同創業した。

2021年、指数関数的に成長するAIを労働力として活用することで、商品やサービスのコストは2年ごとに半減し、最終的には核融合エネルギーの活用によってコストはゼロに近づくと主張した。インテル社の共同創業者ゴードン・ムーア氏が提唱した、コンピューター処理能力や半導体集積密度に関する「ムーアの法則」を応用した。

実用化には半世紀以上先と目される核融合技術だがアルトマン氏の期待は高く、核融合発電のスタートアップ企業ヘリオン・エナジーには3億7500万ドル以上(個人で最大の投資家)を投じた。

アルトマン氏は自らの「流動的な純資産はすべて2社に投資した」(MITテクノロジーレビュー日本語3月14日)と明らかにした。そのもう1社はアンチエイジング技術を開発するレトロ・バイオサイエンシズ社だった。

レトロの実施した「若がえり」に関するマウス実験に、アルトマン氏が強い期待感を示したとMITに報じられている。それによれば、若いマウスと高齢のマウスの血管を繋げ一つの循環系を作ると、高齢のマウスが部分的に若返ったように見えたという。レトロ社への投資は総額1億8000万ドルを計上した。

他の様々な先鋭分野にもアルトマン氏は積極的だ。音速の5倍の速さで飛行する民間旅客機を開発するベンチャー「Hermeus」や、網膜をスキャンすることで本人確認を行う暗号資産プロジェクトの「Worldcoin(ワールドコイン)」も共同設立している。

ベーシック・インカム

アルトマン氏は今後の人々の生活様式についても独特の見解を持っている。そのひとつがベーシックインカムだ。

アルトマン氏は、法人税と不動産税の一部から基金を作り米国民一人ひとりが年間1万3500ドルの「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」を受け取るようにする計画を提案した。毎月自動的にUBIが口座に振り込まれれば、人々は理想の生活を送ることができると主張している。

アルトマン氏の采配のもと、ベーシックインカムの実験を専門的に行う組織「UBIチャリタブル」は、すでにシカゴなどで社会実験プログラムを開始した。2022年にシカゴ市は非営利団体「ギブ・ダイレクトリー」と協力し、貧困層の5000人を対象に毎月500ドル支給する試みを始めた。福祉サービスには申し込みが殺到した。

終末への懸念

いっぽう、AIによる人類社会への脅威を指摘する声も強まっている。第一線のAI研究者エリザー・ユドコフスキー氏は、AI研究が進めば「地球上の全員が死ぬと予測している」(タイムズ紙3月29日)とさえ述べ、制度枠組みや新たな科学的洞察がなければならないと強い警告を発した。

アルトマン氏のかつての同僚だったイーロン・マスク氏はAIが「核兵器よりも危険」だと主張した。著名な数学博士スティーブン・ホーキング氏も、AIが人類を終末に追い込む可能性があると警告した。

こうしたなか、アルトマン氏は発展し続けるAI技術に自信満々というわけではない。「ChatGPTが大規模な偽情報の拡散に利用される」ことを懸念し、新技術がもたらす負の影響を「少し恐れている」という。

アルトマン氏は終末論者でもあるとされる。英メディアの報道によると、終末への備えとして銃や金塊、ヨウ化カリウム錠剤、抗生物質、バッテリー、水、イスラエル軍のガスマスクなどを用意しており、さらに避難場所となる広大な土地も購入した。

産業革命、再び

米国やイタリアなどでAIに対する規制強化を求める声が高まるなか、日本政府はその活用に意欲的だ。アルトマン氏は今月10日に訪日すると岸田文雄首相や自民党の関係議員らと会談し、開発協力やサービス提供について意見交換を行った。今後は日本事務所を開設し、サービス拡大を検討しているという。

今後、AIが社会全体にどれだけの影響を与えるかはまだ未知数だが、楽曲や絵画の創作といった、人間のクリエイティビティに依存する高度な知的産業までAIに取って代わられ始めている。産業革命では、熟練した手工業者と職人が機械に駆逐され、新たな職業として工場労働者が登場した。AIの発展によって一部の職業が消滅しても、新たな職種が誕生する可能性も指摘されている。

機械の登場は多くの利便性をもたらしたいっぽう、それまで存在しなかった問題を作り出すこととなった。この「相生相克」の理はAIの発展にも当てはまるだろう。ハイテクエリートが夢見る「ユートピア」が人類にどのような影響を与えていくのか、注意深くウォッチしていくことが不可欠だ。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。