米中関係は互いに不信感増大=防衛省シンクタンク

2018/03/05
更新: 2018/03/05

防衛省シンクタンクの防衛研究所は3月2日、年次の中国安全保障レポートを発表した。米中関係に当てた調査レポートは、米中は関係を安定的に保つ努力をしている一方、双方の不信感は増大していると指摘した。

中国の対米政策

報告によると、中国は2000年代初頭まで、米国に対して劣るとの意識から「発展途上の大国」と位置付けていた。しかし2008年のグローバル金融危機により、世界のパワー・バランスが変化したことで次第に自己主張を強めていったという。分析によると、これが中国外交の強硬化や周辺国との対立の深刻化につながった。

中国は核心的利益の「相互尊重」を訴えて、米国の譲歩を取り付けることに重点を置いてきた。しかし、南シナ海における島の埋め立てに見られるように周辺国との対立も招き、同時に対米関係も悪化した。「中国は1.対米関係の安定化、2.地域における自己主張の強化」を同時に追求しているとした。

トランプ政権後の米中関係について、「原則にとらわれないドナルド・トランプ大統領に、中国はさまざまなルートで働きかけを強めた」が、米中関係は安定からは遠い。対話や協力において具体的成果を求めるトランプ政権に対して、どの程度の利益や価値を中国が米国に提供できるのかは「不確実」とした。

米国の対中政策

 冷戦終結後、米国は、将来の方向性が不透明な中国に対して、中国の台頭を必要以上に敵視しない「エンゲージメント(関与)」政策だった。ブッシュ政権やオバマ政権は、「大国化する中国は、米国は協力して、世界の安定のために責任ある役割を果たすようになる」との考えだった。

 しかし、中国の対外政策が強硬化していくと、トランプ政権は、より強固なインド太平洋地域での存在感を示すことや、中国に対する警戒感を明記する、新たな国家安全保障戦略を発表。従来のエンゲージメント政策の放棄を宣言した。

 また、米国は地域安全保障の観点からも、グローバルな核軍備管理体制という観点からも、中国の核戦力やその戦略に関する不透明性を懸念しているという。

朝鮮半島東シナ海台湾について

 

レポートは、特にアジア太平洋地域における米中関係の展開を見ると、安定性を保つ努力が見られる一方、双方の不信感は増大していると指摘。

朝鮮半島の問題について、中国は「安定、平和的解決、非核化が重要で、北朝鮮を崩壊させたり、米韓同盟が強化されたりすることを望んでいない」とした。

これに対して、米国にとっては朝鮮半島の非核化が最も重要で、同盟国である日本・韓国の安全保障も関わる。「朝鮮半島問題は、北朝鮮の行動次第で事態のコントロールが難しい危機が発生する可能性がある」と指摘した。

南シナ海問題は、中国にとって近年重要性が著しく上昇し「回復すべき領土」という位置付けとなるという。いっぽう、米国にとっては、航行の自由と海洋の法的秩序を守るという点が重要であり、またフィリピンとの同盟関係も関わっている。

「南シナ海問題は、関係国も多く、かつ近年急速に米中関係の焦点となった問題。安定的に処理するようなメカニズムは存在しない」と不安定要素が多いとした。

台湾問題は、中国にとって、中華人民共和国成立時より一貫して最も重要な問題であり、「一つの中国」の原則どおり、将来必ず統一すべき領土であると考えられている。ロイター通信によると、3月5日に開幕した中国全国人民代表大会(全人代、国会にあたる)の開幕演説で、李克強首相は、中国政府が台湾の分離・独立を容認しない考えを示す見通し。

米国にとっては、「一つの中国」政策にのっとり、台湾関係法などに基づくコミットメントを維持し、平和と安定を維持すべき問題となっている。米国は3月初旬、双方高官の訪問を許可し、台湾との関係強化を目指す「台湾旅行法」をまもなく成立させる。

防衛研究所は台湾問題について、米中は安定性を保つプロセスを持つが、大規模な衝突が起きる可能性もはらんでいるとした。

(編集・佐渡道世)