中共軍で指揮系統の混乱続く 重要文書に署名者なし

2026/07/30
更新: 2026/07/30

中国共産党(中共)中央軍事委員会副主席の張又俠と、中央軍事委員会連合参謀部参謀長の劉振立が調査対象となって以降、軍事委員会の上層部や統合作戦指揮系統では、後任不在の状態が長期化している。

今月初め、習近平は、軍の規律検査部門を率いる張曙光を上将に昇格させた。取材に応じた関係者は、習近平が軍指導部の空白に直面しながらも、指揮系統の再建より、規律検査と政治的な忠誠審査による軍の統制を優先していると指摘した。

7月3日、習近平は北京で、張曙光と王剛を上将に昇格させた。張曙光は当時、中央軍事委員会規律検査委書記兼中央軍事委監察委員会主任を務め、王剛は空軍司令員を務めていた。昇格式は中央軍事委員会副主席の張升民が取り仕切った。

今回の昇格人事を巡っては、軍内部から不満が出ている。事情を知る畢さんによると、張又俠と劉振立が調査対象となって以降、中共は中央軍事委員会副主席と連合参謀部参謀長の後任を公表していない。軍事委員会の意思決定層と統合作戦指揮系統では、現在も重要ポストが空席のままだという。

畢さんは「軍事委員会主席がこの時期に、指揮部門の空席を埋めるのではなく、まず軍事委員会規律検査委の責任者を昇格させたことに、多くの人が不満を抱いている。張又俠の事件をいつ公表するのかについても、さらに不透明さが増した」と述べた。

軍事委の文書に誰も署名せず

中共軍内部の事情に詳しい唐傑鐘さん(仮名)は、中央規律検査委と軍の規律検査部門による張又俠、劉振立への調査は、2カ月前にすでに終了していたと明らかにした。

しかし、この調査を巡って軍の将官から不満が噴出し、軍事委員会の指揮系統は半年以上にわたって混乱しているという。軍事委員会が出した文書に、誰も署名しない事態まで起きているとした。

唐さんは「各戦区の将官は、自分たちが信頼する軍事委員会の指導者は張又俠と劉振立だと考えている。2人とも実際に部隊を率いた経験があり、とりわけ張又俠には実戦経験がある。部隊の生活にも気を配り、気さくな人柄で、軍内の人望も厚かった。半年以上にわたり、軍事委員会の指揮系統は混乱を極めている。文書を出しても、署名する者さえいない。軍の士気は底まで落ち込んでいる」と話した。

唐さんによると、張又俠と劉振立は長年、作戦部隊で勤務し、各戦区や軍種の組織内で強い影響力を持っていた。2人が同時に調査対象となった後、各戦区の将官は軍事委員会の新たな指揮体制を信頼できず、一部の将校は責任を問われることを恐れ、重要文書への署名を避けているという。

「張又俠と劉振立には軍内での人望があった。部隊がどのように動いているのか、現場の将兵が何を考えているのかも理解していた。現在の軍事委員会上層部には、現場から信頼される人物がいない。文書が下りてきても、誰も署名しようとしない。全員が責任を負うことを恐れている。人材がいないのではなく、誰も決断できないのだ」

中共第20回党大会で発足した中央軍事委員会は、当初7人で構成されていた。

現在公の場で職務を続けているのは、習近平と張升民だけとなっている。

張升民はもともと中央軍事委員会委員で、2025年10月に中央軍事委員会副主席に追加選出された。長年、軍の規律検査を担当してきた。

今回、張曙光が上将に昇格したことは、習近平が規律検査部門への依存を強め、軍を統制しようとしていることを示している。

軍人事で退役将官の意見を排除

退役将官の紀さんは記者に対し、かつて軍内部で重大事件が起きた際には、中央軍事委員会が退役将官に事情を説明し、軍の古参幹部から支持を得るのが通例だったと語った。

しかし、張又俠の問題については、「誰も私たちに一切の情報を明かさない。尋ねても何も分からない。軍の主要幹部の昇進についても、古参幹部の意見を聞かなくなった。これは数十年にわたる慣例に反している。すでに調査は終わったと聞いているが、いつ公表するのか決めかねているようだ」と述べた。

紀さんによると、張又俠は軍内での経歴が長く、各戦区や軍種、装備部門の多くの将官とつながりを持っている。

過去に軍上層部の事件を処理した際の慣例に従うのであれば、まず軍の古参幹部に事情を説明し、軍内部からの反発を抑えるのが一般的だった。

しかし今回は、軍事委員会がこうした説明や調整を行っていない。紀さんは、習近平が従来の軍内部における調整の仕組みに頼らなくなったことを示していると指摘した。

中共国防省は1月24日、張又俠と劉振立について、「重大な規律違反と違法行為」の疑いで立件し、調査を開始したと発表した。

その後、中共軍機関紙は社説を掲載し、全軍に対して中共中央軍事委員会と習近平の指揮に「断固として従う」よう要求した。

また、張又俠と劉振立が「軍事委員会主席責任制を著しく踏みにじり、破壊した」と非難した。

中共は現在まで、2人が党籍や軍籍を剝奪されたのか、司法機関に移送されたのかを公表していない。空席となった軍のポストについても、後任を発表していない。

規律検査部門による軍統制を強化

軍上層部に対する度重なる粛清を受け、軍内では将官同士の不信が深まり、重大な決定について誰も責任を引き受けようとしない状況が生じている。

軍内部で「文書に誰も署名しない」という事態が起きていることは、軍事委員会の指揮・意思決定系統に断絶が生じていることを示している。

退役将官は、習近平が古参将官や従来の軍内調整ルートを通さず、規律検査部門によって軍を統制しようとしているため、現役将官の不安がさらに強まっていると指摘する。

張曙光が軍事委員会規律検査委員会を率いていることは、習近平が依然として、軍の指揮体制の再建よりも、粛清と忠誠心の審査を優先していることを示している。

張又俠と劉振立が抜けたことによる指揮系統の空白は、現在も埋められていない。習近平も、2人に代わる新たな指揮体制を、いまだ確立できていない。

吳霆