アメリカ海兵隊は富士演習場で高機動ロケット砲システム(HIMARS:ハイマース)の実弾訓練を実施した。台湾海峡を射程に収める打撃力と高機動性により、第一列島線における対中抑止力の強化が狙いとみられる。日米連携の実戦運用も進む。
5月20日、アメリカ海兵隊第3師団第12連隊第3大隊の隊員は、富士山東側にある富士演習場の統合兵種訓練センター(Combined Arms Training Center Camp、CATC)において、HIMARSの実弾射撃訓練を行った。本訓練は、部隊の戦備態勢と打撃能力を向上させ、地域の安全および日本防衛への関与を強化することを目的としている。
HIMARSは通常、比較的短射程のロケットを運用するが、最新型ミサイルを搭載し、日本や周辺の島嶼に配備した場合、台湾海峡にある目標は容易に攻撃可能となる。これは中国共産党(中共)による台湾侵攻に対する海上抑止力の強化につながる。
HIMARSは軍用トラックに搭載した発射装置であり、小型で、GPSによる精密誘導、高い機動性、迅速な展開能力といった特長を備える。このため、アメリカ軍の作戦運用において重要性が高まっている。今回の試射は、アメリカ海兵隊と自衛隊が協力して実施した。
アメリカ軍は台湾海峡作戦に適した装備を試験
アメリカ陸軍は今年2月24日、初の「沿岸迅速浸透」(Littoral Rapid Infiltration、LORAIN)作戦を実施し、HIMARS一式を簡易な海岸上陸地点へ輸送した。この作戦では初めて、「機動支援艦(軽型)」(Maneuver Support Vessel (Light)、MSV(L))を用いてHIMARSの展開と撤収を行なった。MSV(L)は陸軍の新型水上艦艇であり、インド太平洋地域に多い浅海や岩礁の多い海域での運用を想定して設計している。
こうした浅海・岩礁域は、台湾海峡および第一列島線に典型的な作戦環境であり、台湾周辺、南シナ海諸島、フィリピン北部、琉球列島、バタン諸島、宮古海峡周辺の島嶼などを含む。これらの地域は浅瀬や岩礁が多く、大型港湾も少ないため、大型艦艇の接近が難しい。MSV(L)は喫水が浅く、港湾を必要とせず直接浜に乗り上げる(ビーチング)ことが可能で、水深4フィート未満でも上陸できる。
第11野戦砲兵連隊第2大隊の作戦担当官、アンドレア・スウェット少佐(Maj. Andrea Swett)は当時、「MSV(L)を用いてHIMARSを輸送するのは今回が初めてである」と述べ、「小隊および中隊にとっても初の試みであり、陸軍全体としても前例がないのではないか」と語った。
従来の陸上作戦や航空機による迅速展開とは異なり、海上環境には特有の課題がある。スウェット少佐は、本作戦の主な目的について、HIMARSを海上から陸上へ効率的に輸送し、その後再び海上へ戻すことが可能かを検証する点にあると説明した。
HIMARSの柔軟な運用、すなわち隠蔽位置から迅速に展開し、発射後すぐに別地点へ移動する能力は、敵の対砲兵攻撃を回避するうえで有効である。いわゆる「撃って移動する(Shoot and Scoot)」戦術は、無人機の普及に伴い、その重要性が一層高まっている。固定陣地は現在、発見されやすく、攻撃の対象となりやすいためである。
アメリカ軍はHIMARSで中国のミサイル戦略に対抗
アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)傘下のミサイル研究サイト「Missile Threat」は今年3月、中共が推進する反介入・領域拒否(Anti-access/Area Denial、A2/AD)戦略において、ミサイルの活用が最も顕著であると指摘した。同戦略は、空・陸・海から発射される弾道ミサイルおよび巡航ミサイルを組み合わせて、アジア太平洋地域におけるアメリカおよび同盟国の軍事目標の攻撃を目的としている。
CSISはまた、中共が機動型対艦弾道ミサイル、多目標個別誘導再突入体(Multiple Independently Targetable Reentry Vehicle、MIRV、いわゆる分離型多弾頭)、高超音速滑空体などの先進的能力の開発を進めていると指摘した。これらの動向は、空母や前方展開空軍基地といったアメリカの戦力投射能力の生存性の低下を狙ったものだ。さらに中共は、規模こそ比較的小さいものの、発展を続ける核搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)も保有しており、アメリカ本土を攻撃する能力を有している。
中共のA2/AD戦略を端的に言えば、まずミサイル攻撃によってアメリカ軍の空母や前方基地に大きな損害を与え、接近を困難にすることで、台湾海峡問題への介入を阻止するというものである。中共の「東風26」ミサイルは射程約4千キロとされ、「グアム・キラー」とも呼ばれる。グアムは第二列島線におけるアメリカの中核拠点である。
CSISは2023年9月、「次の戦争の最初の戦い:中国による台湾侵攻のウォーゲーム」(The First Battle of the Next War: Wargaming a Chinese Invasion of Taiwan)と題する報告書を公表し、アメリカ軍基地が中共のミサイル攻撃に対して脆弱である点、およびHIMARSがその対処において果たし得る重要な役割について言及している。
アメリカ軍はすでに昨年、ルソン島と台湾の間に位置するフィリピンの戦略的島嶼列にHIMARSを配備している。その最北端にあるバタン諸島は、台湾南部からわずか160キロの距離にある。近年、アメリカ軍はオーストラリア北部でもHIMARSの運用訓練を進めている。
台湾はすでにアメリカからHIMARS29基を購入しており、最初の引き渡しを2024年末に行なった。さらに昨年5月には、初の実弾射撃を実施している。
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