近年、米欧諸国では、中国共産党に関連する技術安全保障上のリスクについて、バックドア、スパイ活動、データ漏洩などの観点から議論が続いている。しかし、その一方で見過ごされがちなのが、中共の影響下にある企業と電気通信契約を結ぶことが、結果として自国を中共の「技術的衛星国」へと組み込む危険性である。
「新経済戦略東部センター」のアナトリー・モトキン会長は、ワシントン・ポストの最新分析記事の中で、冷戦期の「鉄のカーテン」になぞらえ、この現象を「シリコン・カーテン」と呼んでいる。
中共の「シリコン・カーテン」の誘惑と危険性
モトキン氏によれば、「シリコン・カーテン」は「鉄のカーテン」と異なり、明確な地理的境界を持たない。その境界は、調達や契約に関する意思決定によって形成される。すなわち、国家の5G通信網の構築、政府データのホスティング、デジタル基盤整備のための資金調達などにおいて、どの供給業者を選ぶかによって分断が生じる構造だという。
昨年、欧州各地で警察が20カ所以上を捜索し、欧州議会内の2つの事務所にも捜査が及ぶ事件が発生した。これは、中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)が、サッカー観戦チケット、高級旅行、現金供与などを通じて議員に働きかけ、自社の5Gネットワーク採用を促した疑いによるものである。この事例は、中共政権が世界のデジタルインフラ支配のためには手段を選ばない実態を示したものとみられている。
記事は、「シリコン・カーテン」の両側には明確な対比が存在すると指摘する。一方には透明な統治、開かれた標準、競争的市場があり、他方には国家統制、監視体制、不透明な資金調達、そして腐敗の体系的利用がある。ただし、冷戦時代と異なり、現代では各国がどちらの側に立つかを自ら選択できる点が特徴だとしている。
安価な技術の裏にある依存構造
ファーウェイなど中国系企業が提供する通信インフラは、米欧企業と比べて30〜40%安価とされ、さらに中共政権による資金支援も伴うため、財政制約を抱える国々にとって大きな魅力となっている。しかし、その実態は、価格優位を武器に各国を中核インフラへ依存させる戦略だと批判されている。
また、「一帯一路」構想では契約内容の不透明性も問題視されている。受注企業が決定した後に詳細が公表されるケースも多く、融資条件の開示も限定的である。加えて、海外における贈賄防止制度も十分に機能していないと指摘されており、多くの関連プロジェクトで問題が頻発している。
さらに、多くの中国企業が金融不正を理由に世界銀行の事業から排除されている一方、資金供給の多くは中国国有銀行に依存している。このため、依存関係が生じた国は、設備、技術、資金のすべてを中共側に握られる構造に陥るとされる。
技術依存のコストと制約
中国製設備を導入した場合、その交換にはネットワーク全体の撤去が必要となる。米政府は過去、農村部の通信網からファーウェイや中興通訊(ZTE)の機器を撤去する際、約50億ドルの費用を負担したとされる。
さらに、開発途上国では全面的な置き換えはより困難である。加えて、現地人材への教育は「機器の運用訓練」に限定される場合が多く、高度技術者の育成にはつながっていない。このため、保守・運用面でも中共側への依存が固定化されやすい。
また、技術依存に加えて資金依存も深刻だ。多くの国が巨額の債務を抱えているが、その詳細は非公開とされるケースが多い。貸出金利も高水準であり、機器価格の割引による利益は相殺されるとの指摘もある。
記事では具体例として、ニカラグアが中国資金によるインフラ整備を進めた結果、実質的に50%に及ぶ金利・手数料負担を抱えたケースを挙げている。仮に100億ドル規模のプロジェクトであれば、20年後には総負担額が200〜400億ドルに膨らむ可能性があるとしている。
また、2020年のザンビアの債務不履行では、対中債務の実態が公表額の2倍以上に達していたことが判明した。秘密保持条項により、正確な債務情報の開示が制限されていたためである。
一方で、中共技術への依存を回避した国々が経済的成果を上げている例も紹介されている。インドは2021年、5G分野から中国系サプライヤーを排除し、その後、米欧からの半導体投資を呼び込んだ。ベトナムは貿易の多角化によって技術輸出産業を1000億ドル規模へと成長させた。さらにルワンダも、外資導入を通じて昨年第1四半期に19%の技術産業成長を達成したとされる。
結び
記事は最終的に、これらの事例が示す対照は極めて明白だと結論づけている。すなわち、デジタルインフラ構築において中共へ依存する選択は、長期的には依存と制約の連鎖を招く。一方で、その影響から距離を置く選択は、技術的安全保障と将来の主権的自由を確保する道につながるとしている。
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