中国で最も裕福な一族 栄一家のカナダ移住の噂が注目を集める

2025/01/09
更新: 2025/01/10

2025年の年明け、中国のネット上で「中国最も裕福な一族」や「紅頂商人」と称される元中共国家副主席の栄毅仁(えい きじん)の一族がカナダに移住したとの情報が広まり、注目を集めている。栄一家は中国共産党(中共)の政治界で特別な地位を持つため、この噂は瞬く間に話題となったが、現時点でその真偽は確認されていない。

最近、SNS上では上海の高級一戸建て住宅から骨董品と思われる高級家具を梱包し、運び出している映像が投稿された。この映像について、「栄一家が貴重な家具をカナダに運ぶため輸送会社を雇った」との情報が拡散されている。一部の中国セルフメディアは「栄一家は目立たない形で移住を進めようとしていたが、輸送会社が自己宣伝のため映像を公開し、鋭い観察力を持つネットユーザーが見抜いた可能性がある」と指摘している。

 

紅頂商人

「紅頂」とは、清朝における一品官(最高位の官職)が着用した紅宝石が飾られた頂子(官帽)を指す。「紅頂商人」とは、このような高官と良好な関係を築き、それによって企業が利益を得たり、さらには政策に影響を及ぼすことができる実業家のこと。

「紅頂商人」の最も初期の例として挙げられるのが、100年以上前の新安商人(安徽省出身の商人)である胡雪巌。胡は政治家の左宗棠の支援を受けて巨万の富を築いた。「二品紅頂子(清朝において二品官に与えられる紅頂冠)」を許され、権力者の庇護の下で事業を拡大するとともに、清朝の政策や軍事資金調達にも貢献した。

財閥であり政商でもある人の概念に近い。

栄毅仁とその一族の背景

栄毅仁は、中国民族資本の重要な代表として、中共との強い結びつきを持ちながら中国経済の発展に大きな役割を果たした実業家・政治家である。

1916年に江蘇省無錫市で裕福な商家に生まれた栄毅仁は、繊維業や不動産業で成功を収めた栄一族の中で育った。

民国時代における栄氏の企業は、その名を轟かせた存在だった。息子の栄宗敬と栄徳生の兄弟は、無錫市や上海市を拠点にゼロから事業を築き上げ、二十を超える民間企業を創設した。その功績により、「製粉王」「綿糸王」として工商業界で数十年にわたり名を馳せ、中国民族経済に深い影響を与え、「民族資本家」の代表格として知られていた。

1949年、中共が政権をとった後、栄一族のメンバーは、一部はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ブラジル、ドイツ、そして香港やマカオなど、さまざまな地域に居住したが、栄徳生と栄毅仁親子は中国にとどまった。

1956年、中共建国初期に「公私合営」政策(国有化と民間企業の合同経営)に協力し、家族事業を手放したことで「紅色資本家」として評価した。

しかし文化大革命の間、栄毅仁一家は深刻な迫害を受けた。栄毅仁自身は右手の人差し指を鉄柱で叩き折られ、妻の楊建青も暴行で重傷を負い寝たきりとなった。眼底出血が放置されたために左目を失明し、その後トイレ掃除を命じられるなど、激しい苦難を経験した。

それでも、栄氏一家は中国を離れていなかった。1979年、改革開放の初期段階において、民間企業家の信頼を回復し、経済発展を促進するため、鄧小平の指名を受け、栄毅仁は香港で「中国国際信託投資公司(中信集団)」を設立した。

中信は外国資本の導入と中国経済の国際化を促進する重要な役割を果たし、後に世界500強企業の一つへと成長し、中国本土で初めて総合金融ライセンスを取得した企業となった。
 

栄一家のカナダ移住の背景と影響

6日、中国のセルフメディア「陸暁虎」は、「2025、栄氏一家がカナダへ移住」と題した記事を発表。記事では、栄一家の移住について以下の3つの観点から分析している。

1. 「紅頂商人」の窮地

栄一家の移住は、「紅頂商人」(共産党と密接な関係を持つ企業家)が直面する困難を象徴している。改革の停滞や規制強化によって、政治と経済のバランスが崩れ、これらの企業家が政策変更の犠牲となるリスクが高まっている。

2. 家族の発展戦略

栄氏は国際的な視野を重視する一族として知られており、カナダ移住は、国内リスクへの対応、財産保全、次世代への影響力継承を目的とした戦略的な選択と考えられている。

3. 社会への影響

著名な一族が国外移住を選んだことは、他の企業家や投資家の中共への信頼を揺るがし、さらなる資本流出や人材移動を加速させる恐れがある。

 

李嘉誠氏の事例と栄氏の動きの比較

唐靖遠氏はセルフメディア「遠見快評」の8日の番組で、李嘉誠氏が中国本土から資産を引き上げた時期と習近平政権の開始が一致していると指摘した。李嘉誠氏が香港の重要な資産を売却した2年後には香港民主化デモが発生し、中共が国家安全法を導入して香港の金融センターとしての地位が大きく揺らいだ。

唐氏は、栄一家の移住について「李嘉誠氏の撤退に匹敵する重大なシグナル」であり、さらに切迫した象徴的な意味を持つと分析している。

評論家の見解 栄氏移住の示すもの

元中国メディア関係者の蔡慎坤氏は、「X」で次のように投稿した。

「馬雲氏(アリババ創業者)の失脚が民間経済衰退の始まりだとすれば、李嘉誠氏の撤退はその前兆だった。栄一家のカナダ移住は今年最大のニュースであり、民間企業家に大きな衝撃を与えるだろう」

また蔡氏は、「栄毅仁は国家副主席を務め、一族は中共の政治・経済の恩恵を享受してきた。それにもかかわらず移住を選んだのは、彼らが何か深い危機を察知しているからだ」と指摘した。

李淨