石破茂首相「アジア版NATO」の創設を推進
石破茂首相は、中国共産党(中共)、北朝鮮、ロシアからの脅威に対応するため、多国間安全保障体制として「アジア版NATO」の設立を提案している。この構想を具体化するため、石破首相は自民党内にアジア安全保障のあり方を議論する特命委員会を設置するよう指示し、その実現の可能性を探ることを進めている。専門家はこの構想が現実的意義を持つ一方で、多くの課題を伴うと指摘している。
11月28日、自民党は初めて特命委員会の会合を開催し、「アジア版NATO」の創設に関する議論を行った。自民党政調会長を務める小野寺五典氏は、会合で「この課題は一朝一夕に実現できるものではない。まずは議論を積み上げることが大切だ」と述べた。
同委員会は、小野寺氏の指導のもと、自民党内での議論を深めるとともに、専門家からの意見を聴取し、首相への提言をまとめることを目的としている。
石破茂の長年の構想
石破氏は20年以上にわたり、「アジア版NATO」の創設を提唱してきた。これは日本の安全保障政策の柱の一つであり、今年9月の自民党総裁選でも、アジアに集団的安全保障メカニズムを構築することは喫緊の課題だと強調していた。
しかし、この構想は自民党内でまだ共通認識を得られておらず、反対意見も少なくない。一部の議員からは、「この構想を実現するには、自衛隊が集団的自衛権を十分に行使できるよう憲法改正が必要になる」との声が上がっており、中共を刺激する可能性も指摘している。
台湾・輔仁大学の日本語文学科教授である何思慎氏は、大紀元に応じ、「石破茂首相の構想は、日本とインド太平洋諸国、さらには他の地域の国々との間で安全保障協力を実現し、複数の多国間関係を連結するものだ。これは、インド太平洋地域の安全問題を解決するための理想的な姿だといえる」と述べた。
また、台湾国防安全研究院の戦略・資源研究所所長である蘇紫雲氏は、「石破茂氏が構想する『アジア版NATO』は、中共の脅威に対応するための安全保障枠組みとして理想的だが、実現には多くの困難が伴う」と語った。
「アジア版NATO」構想で新たな安全保障体制を模索
石破氏は11月9日、自衛隊創設70周年の観閲式で訓示を行い、今年中国およびロシアの軍用機による領空侵犯について、「我が国の主権を侵害する行為であり、安全を脅かすものである」としている。さらに、中共の空母が日本領海付近を航行したことや、北朝鮮が前例のない頻度で弾道ミサイルを繰り返し発射したことにも触れた。
「日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」とし、国民の命と暮らしを守り抜くため、外交力と防衛力の両輪をバランスよく強化していくと強調した。また、日米同盟を「日本外交および安全保障の基盤」であり、インド太平洋および国際社会の平和と繁栄の礎石であると位置付けた。
同氏はトランプ氏と電話会談を行い、日米同盟を新たな高みに引き上げ、抑止力と対応力を強化することで合意した。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指し、同盟国や志を同じくする国々との有機的かつ多層的なネットワークを構築することで、地域の安全と安定を確保する方針を示した。
アジア版NATO構想の課題と可能性
台湾国防安全研究院の蘇紫雲氏は、石破氏の提案について「アジア太平洋地域の安全保障の枠組みは、すでに『2・3・4・5』という形で存在している」と指摘する。「2」は日米、米韓、米比といった二国間の防衛協力を指し、「3」は日米韓協力やAUKUS(日米英の安全保障協力)などの三国間協力を指す。「4」は日米豪印の四か国による安全保障対話、「5」は英語圏諸国による情報共有ネットワーク「ファイブ・アイズ」を意味している。
蘇氏は、「こうした多国間協力を活用することで、中共の侵略的行動を効果的に抑止し、平和を維持することが可能だ」と述べた。また、現在の中国は旧ソ連と異なり、強力な市場経済を持つため、東南アジア諸国の一部は経済面で中国と協力しつつも、政治や安全保障では西側に傾倒する傾向があることも指摘。これらの海洋国家を結束させることが、アジア版NATO実現の大きな課題であると述べた。
笹川平和財団の泉裕泰研究員は、「中共、北朝鮮、ロシアといった権威主義国家が連携を強化する中で、民主主義国家は新たな安全保障体制を構築する必要がある」と述べ、日本が主導してアジア版NATOを創設し、民主主義を守るべきだと主張した。
現実的なハードル
NATOは、加盟国が集団的自衛権を行使できる軍事同盟だが、日本の現行憲法では自衛隊による全面的な集団的自衛権行使を禁止している。そのため、石破氏の構想を実現するには、憲法改正や関連条項の解釈変更が必要となる。
また、中共がアジア版NATOに強く反発していることや、東南アジア諸国連合(ASEAN)内の一部の国々が地域の不安定化を懸念していることも課題として挙げられる。
アメリカもアジア版NATOに慎重な姿勢を見せており、石破氏が主張する「軍事地位協定(SOFA)」の改正案にも懐疑的だ。このような状況下で、構想を実現するには相当な時間と政治的な努力が必要だ。
石破氏は、自民党内に設置した特命委員会にこの構想の検討を指示した。初会合では、外務省と防衛省が国際的な安全保障環境と日本の外交政策について説明したが、「アジア版NATO」に関する具体的な提案は出されなかった。次回の会合では専門家の意見を聴取し、来年夏の衆議院選挙に向けた提案をまとめる予定だ。
小野寺委員長は、「特命委員会は石破内閣の安全保障政策を議論する重要な場」とし、国内外の反発を招かないよう慎重に議論を進める方針を示した。
実現への道筋と展望
何思慎氏は、「現在、石破茂氏は党内の機構を通じて問題の議論や検討を行っている段階にあり、それが具体的な日本の安全保障政策に反映されているわけではない」と指摘した。また、「国会での施政演説でも『アジア版NATO』を今後の安全保障政策の具体的な目標として明言しておらず、まだ政策が練られている途中である」と述べた。
日本が「アジア版NATO」を構築する場合、NATOのモデルを基にする形になるとみられる。これに関し、蘇紫雲氏は「地政学的に見ると、ヨーロッパは陸続きであり、戦場も主に陸地が中心だ。一方、インド太平洋地域は海洋を主体とした戦場が特徴だ」と説明した。
蘇氏はさらに、もう一つの課題として政治や経済の状況を挙げた。「現在の中共は旧ソ連とは異なり、比較的強い市場経済を持ち、それが一部の東南アジア諸国を経済的に引き寄せている。しかし、これらの国々は政治的および安全保障の面では主に西側陣営に傾いている。このようなアジアの海洋国家をまとめて中国に対抗させることが大きな課題となる」と述べた。
また蘇氏は、「アジア版NATO」の実現に期待を寄せつつ、その道のりは長く、適切なタイミングが重要だと強調した。さらに、「かつてのインド太平洋戦略のように、日本が引き続き積極的に提案を行えば、より多くの合意を得られるだろう」との見解を示した。
一方、何氏も「アジア版NATO」の実現には多くの課題があるとし、具体的にはアメリカのアジア太平洋安全保障戦略や日本国憲法による制約を挙げた。その上で、「最も重要なのは、関係国が現在および地域の安全に関する認識、さらに安全保障上の脅威に対する認識において、共通の戦略目標を持てるかどうかだ」と指摘した。
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