北朝鮮のロシア派兵 露朝の利害一致 中共とはズレも

2024/10/30
更新: 2024/10/30

70年前、旧ソ連は武器とパイロットを提供し、北朝鮮が朝鮮戦争に参加することを支援した。しかし今、北朝鮮は遠く離れたもう一つの戦争でロシアを援助している。歴史はまるで皮肉にも逆転しているようである。

2年前から始まったロシア・ウクライナ戦争により、プーチン率いるロシアは国際社会でより一段と孤立状態となった。そして5カ月前、プーチンと北朝鮮の独裁者である金正恩の「共同防衛と協力条約」によって、両国の関係は急速に深化していった。

最近、米政府は北朝鮮軍がすでにロシアに到着し、この長引く戦争に参加していることを確認した。ロシアが北朝鮮に対する態度を劇的に変えた背後には、何があるのか。

韓国の情報機関によれば、すでに数千人の北朝鮮兵士がロシア極東地域に駐留しており、年末までにその数は1万人に達する見通しだ。ウクライナのゼレンスキー大統領も、多数の北朝鮮部隊が戦場に向かっていると述べ、懸念を示した。

2014年のクリミア併合によりロシアと米欧の関係が冷え込んだものの、双方は歩み寄りの姿勢を見せていたが、今回の戦争によって完全に断ち切れたと見える。このように、国際社会からの孤立を深めたロシア。(もちろん、拡大BRICSの首脳会議が先日に開催されるなど、特定諸国との繋がりはある)また、元来核ミサイルの実験を繰り返すことで慢性的な孤立状態にある北朝鮮。似た境遇にある両国が関係を強化し始めたのだ。

露朝両国が軍事面で結束を強めるに至るまでの道のりは、曲折を経てきた。旧ソ連の解体後、ロシアは一度北朝鮮との軍事同盟を中断。2017年には、ロシアは国連の対北経済制裁に加わり、両国の経済関係は冷え込んだ。

しかし、ロシア・ウクライナ戦争の勃発は両国関係に新たな転機をもたらした。北朝鮮はロシアを支援する数少ない国の一つとなったのである。

プーチンと金正恩 (Photo by GAVRIIL GRIGOROV/POOL/AFP via Getty Images)

今年6月、プーチンは25年ぶりに北朝鮮を訪問し、冷戦時代の軍事条約を再開した。プーチンは北朝鮮の核保有国としての地位に対する「暗黙の反対」も緩和。「平壌には自国の防衛能力を強化し、国家の安全と主権を守るための正当な権利がある」とプーチンは述べ、北朝鮮の核保有について後押しした。

狙いは、両国の軍事協力を深め、ウクライナ戦場でロシアにさらなる戦略的な深みをもたらすと同時に、東アジアで北朝鮮を同盟国としてロシアの支持を取り付けるためだ。

喫緊の課題(ロシア・ウクライナ戦争)から見ても、将来的に東アジアにおけるプレゼンスから見ても、ロシアにとって北朝鮮の支持は必須だ。

この長引く戦争で60万人以上のロシア兵士が犠牲になっている。独ベルリンを拠点とするシンクタンク、カーネギー・ロシア・ユーラシア・センターのアレクサンダー・ガブエフ所長はニューヨーク・タイムズにこう語った。

当初短期戦を見込んでいたであろうプーチンにとって、ロシアは弾薬と兵士の不足に直面。(クリミア併合をすんなりと成し遂げたプーチンにとって、ウクライナの反撃能力は想定外であったのだろう)プーチンは軍事面で支援提供できる国を見つけることができない中、北朝鮮が軍事的支援に名乗り意を挙げた。

北朝鮮は簡単な行政命令で兵士をどこにでも送り込むことができる。「そしてロシアは兵士を必要としており、どこにでも探している」とガブエフ氏は言う。

では、北朝鮮目線から見た派兵を含む軍事関係の強化のメリットとは何なのか。

台湾の成功大学の政治学者、王宏仁氏はエポックタイムズに、北朝鮮の派兵は単なる支援としての意味合いだけでなく、巧妙に計画された戦略的な動きであると指摘。ロシアとの連携を通じて、北朝鮮は将来の朝鮮半島での紛争においてロシアの支持を確保し、特別部隊の実戦能力を高めることを目論んでいる。

米政府が運営するラジオ放送局・ボイスオブアメリカ(VOA)も、北朝鮮の参加は単にロシアを支援するだけでなく、実戦経験を得るための重要な一歩であると指摘している。

北朝鮮軍、外貨獲得や外交手段

金正恩は27歳で北朝鮮の最高指導者に就任した。総人口の5%近くが現役の軍人であるなど先軍政治を実施する北朝鮮において、軍の実権を握ることは政権掌握の上で先決条件である。そのため、就任後、まず軍を掌握し、多くの将軍を粛清し、自身に忠実な将官らを引き上げた。

北朝鮮軍の任務として武器の売却や海産物の販売のほか、ダムやアパートなどのインフラ建設、ネットワークを通じて外貨獲得も挙げられる。とりわけ、重要なのが金体制を

金正恩と軍隊 (Photo by GAVRIIL GRIGOROV/POOL/AFP via Getty Images)

また、軍は日米を交渉の場に引き出すための最も強力な外交手段ともなっている。金正恩は定期的に行う軍事パレードやミサイル実験を視察したりして称賛している。「北朝鮮軍は金正恩政権の存続に必要不可欠な存在である」とウッドロウ・ウィルソン国際学者センターの研究員である李晟允氏はニューヨーク・タイムズに語った。

「それはまた、国家による人民に対する強奪を担う手段であり、過去30年間平壌は脅威を輸出し、非核化交渉で二枚舌を使うことによって数百億ドルの現金と食料、燃料、肥料などの物質的援助を得てきたのである」と指摘した。

しかし、この国自体と同様に、北朝鮮の軍隊とその戦闘能力は謎に包まれている。70年前の朝鮮戦争以来、北朝鮮軍は大きな戦争を経験していない。北朝鮮軍が国外に出兵するのはこれが初めてであり、大規模な武力衝突に参加することになるが、北朝鮮の官営メディアは軍の派兵について何も報道していない。

露朝と中共の微妙なズレと不信感 

英紙フィナンシャル・タイムズが報じた、2008年〜14年に作成された29件のロシアの軍事機密文書には、机上演習のシナリオや海軍将校への訓練プレゼンテーションが含まれており、文書の中では核兵器の運用原則について議論されている。機密文書に記載されている演習の一つには、中共によるロシアへの奇襲が想定されている。

演習では、ロシアを「北方連邦」、中共軍を「南方」と呼び、「南方」の第二波部隊の前進を阻止するために戦術核で攻撃する可能性があると想定。文書には「敵が第二梯隊を展開し、主要な方向への進攻が強まる可能性がある場合、総司令は核兵器使用許可の命令を下した」と記載されていた。

表舞台では、両国は友好ムードを演出してきただけに、この流出文書の内容は驚かされる。

1950年に中共と旧ソ連が友好条約を結んだときは、20年も経たないうちにウスリー川の珍宝島(ダマンスキー島)で両国軍が衝突した事件が起きた。現在、中ロで火種となりそうなのが、中央アジアをめぐる両国の覇権である。

中央アジアはロシアの伝統的な勢力圏であり、ロシアの「裏庭」と見なされている。近年、中共による中央アジアでのプレゼンス拡大に対して、ロシア側は警戒心を強めている。

2022年9月、習近平は中央アジアのウズベキスタンで開催された中露主導の地域協力組織「上海協力機構(SCO)」に出席した。当時、ウクライナ危機で忙しいにもかかわらず、プーチン氏も出席していた。中露は対米政策では一致しているものの、カザフスタンやウズベキスタンなどロシアの伝統的な勢力圏内では競争があるとの見方も出ている。

「戦略国際問題研究所」(CSIS)チャイナパワー・プロジェクトの研究員、ブライアン・ハート氏が、X(旧Twitter)で中露関係について、「共通の価値観」や尊重よりも、主に利益に基づいており、「状況が変われば利害も急速に変化する」との見方を示した。

プーチンと習近平(Photo by PAVEL BYRKIN/SPUTNIK/AFP via Getty Images)

また、中朝関係についても、北朝鮮は中共に対して深い不信感を抱いており、一枚岩ではないとみられる。米ポンペオ前国務長官の回顧録によれば、ポンペオ氏は「中国は一貫して米国に対し、あなたは米軍が韓国から撤退するのを望んでいると言っている」と伝えると、金正恩氏は「中国人は噓つきだ」と述べたとされる。

金正恩氏は「中国共産党は半島をチベットや新疆ウイグルのように扱えるように米軍を追い出す必要がある」と述べ、中国がチベットや新疆に対して行ったように、朝鮮半島に対しても同じことをするかもしれないと懸念しているという。

桜美林大学の地政学専門家である菅沼雲龍氏によると、金正恩の父・金正日は亡くなる前、正恩に「誰を信じてもいいが、中共だけは決して信じるな」と告げていたとされる。

このような根深い不信感は、表面的には親密である中朝関係の背後に多くの亀裂をもたらしている。

飛天大学の章天亮教授は、もしロシアと北朝鮮の間で一方が攻撃を受けた場合に他方が支援するという合意がなされたならば、北朝鮮の中共への依存は減少し、逆に中共の東アジア地域での影響力が弱まる可能性があると指摘している。これは明らかに北京が望んでいる状況ではない。

徐天睿
エポックタイムズ記者。日米中関係 、アジア情勢、中国政治に詳しい。大学では国際教養を専攻。中国古典文化と旅行が好き。世界の真実の姿を伝えます!
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