オピニオン 複雑なメカニズムを紐解くと、本当は所得が減っている?

我々の所得に何が起こっているのか?

2024/07/09
更新: 2024/07/12

論評

昨日、私のお気に入りの地元の食料品店を訪れた。家族経営のブティックで、世界中から素晴らしい商品を取り揃えている。この店は顧客志向と優れた品揃えのおかげで大変な繁盛をしており、それは安定した供給業者との関係によるものである。この事は、この店がこれまでの困難な時期、特にインフレによる顧客層の揺らぎを乗り越えることができた理由だ。

今回はオリーブオイルを補充しに行った。3年前、私の好きなブランドのオリーブオイル1ガロンは20ドルだった。今では40ドルになっており、その値上がりの少なくとも半分はここ数か月の間に起こったのだ。この値段に、ショックと不安を感じたので、そのことを店主に伝えた。店主は、この価格でも以前より儲かっていないと断言した。マークアップ(利益率)は同じで、ただ供給業者の値段が大幅に上昇しただけだという。

店主は「信じてください。私は全然儲かっていない。むしろ逆だ。この値段は我々をも苦しめている」と言った。

興味を持って調べてみると、このオリーブオイル問題は世界規模で起きていることがわかった。この問題は、ヨーロッパの経済にも大きな打撃を与えており、いくつかの国ではオリーブオイルの価格をできるだけ低く保つために、オリーブオイルの全ての売上税を撤廃している。それでも、皆がその痛みを感じている。これは消費者だけでなく、小売業者や供給業者も同様なのだ。

原因は何だろうか? 不作から気候変動、サプライチェーンの崩壊まで様々な説明があるが、どれも決定的なものではない。本当の問題は、単にインフレだ。それは中央銀行による過剰な貨幣供給が既存の貨幣の購買力を侵食していることに起因する。これが問題の核心なのだ。

では、なぜ今インフレがオリーブオイルにこれほど大きな影響を与えているのか。それが謎だが、なぜ特定の商品やサービスが、他のものと異なる影響を受けるのか常に不思議だ。新しい貨幣が経済に流入すると、予測不可能な方法で動き回ることにより、18世紀の経済学者リチャード・カンティロンが言った「カンティロン効果」を生み出す。これがどのような形で現れるかを予測することはできない。カンティロン効果によると、新しいお金が経済に流入すると、資産価格はさまざまな割合で上昇する。

過去3年以上、貨幣増発のウイルスは衝撃的な形で各セクターを襲​​い、そして消え去ったかと思うと、別のセクターに影響を与える。それはまるで、どこにでも出現する「モグラたたき」のゲームのようだ。ガソリン価格に大きな影響を与えたかと思えば、その後ガソリン価格が下がり、次に卵に影響を与え、それが改善されると今度は段ボールや銅に影響を与え、そしてまた他のセクターに移っていく、という具合だ。

これがインフレの計算が難しい理由の一つだ。インフレは決して均一ではない。それは散発的で狂気じみており、予測不可能だ。今や中産階級にとって住宅は完全に手の届かないものとなっている。35万ドルの家を購入するために必死に資金を集めた家族は、すべての契約が現金購入者に負けてしまう。

もう一つ、通常インフレの影響を受けるとは、考えられない分野は金融だ。株価が上がると人々はいつも興奮するが、それは株がより高価になるだけだ。基礎価値が変わっていない場合、これはインフレの別の表れに過ぎない。ただし、この場合、人々はそれが良いニュースだと思っているが、実際には錯覚だ。

さて、核心に迫る。あなたの所得は増えているのか減っているのか?おそらく増えているだろうが、同時にあなたが購入するすべてのものの価格も上がっているだろう。確かに、あなたの個人的な幸福感をインフレ数値で調整すべきだろう。しかし、信頼できる数値がないため、これは難しい。雇用主にインフレ調整を求めても、利用可能なのは労働統計局(BLS)の提供する数値だけだ。

労働統計局(BLS)は推定値を提供しているが、それは奇妙なものである。それは膨大な数の「ヘドニック調整(商品の価格と特性に関する大量のデータから計量的手法を用いて、特性ごとの金額換算値を求め、品質調整を行う手法)」を受けているため、明らかな価格上昇が実際には価格低下として表示されることがある。ウェブサイトShadowStatsのは古い方法でインフレを計算し続けており、政府が公表する数値の2倍のインフレ率を常に出している。

青い線は、ShadowStatsによる1980年基準の代替インフレ率を示し、赤い線は公式の消費者物価指数

 ShadowStatsの数値は高いようだが、実際にはかなり低い可能性もある。消費者物価指数(CPI)には重要な除外項目が多い。CPIには税金、すべての利息、ほとんどの種類の保険、新しい形式の手数料が含まれていない。また、消費者の大規模な代替品購入やシュリンクフレーション(製品サイズの縮小)を考慮することもできない。住宅と家賃については、非常に複雑な統計モデルで計算されており、その信頼性を確認できない。健康保険についても同じだと言える。BLSは過去3年間で健康保険料が下がっていると主張しているが、信じられるだろうか。

これらの大幅な誤算は、人々にとって壊滅的だ。人々は給与の調整を求めているが、実際の価格上昇に追いつかない変動に終わっている。これは供給者や企業にも影響を与えていることを忘れてはならない。私の友人が経営する食料品店は、従業員が賃上げを要求すると、彼も困ってしまう。なぜなら、他のすべてのコストも上昇しているからだ。

例えば、その友人は先週、いくつかの冷凍庫が故障し、何千ドルもの商品が台無しになった。今回の修理費用は前回の修理費用のほぼ2倍になった。新しい冷凍庫を購入するとなると、間違いなく破産してしまう。彼の現在の仕事は、会社が赤字になりすぎないようにすることだ。それは決して容易いことではない。

供給業者は価格をインフレに合わせて引き上げるために購入者に懇願する必要がない。インフレは自然に起こるだけだ。しかし、賃金や給与に関しては話は別だ。賃上げは、コスト削減の真っ只中にあって支払いを増やすことを嫌がる雇用主の裁量で行われる。

個人の所得が、過去3年間のインフレに追いついているはずがない。BLSはこれを悪いインフレ統計を使って計算し、過去3年間で一定の率を示しているが、それでも2020年よりは上昇していると言っている。これが本当だとは全く信じていない。

より正確な傾向は国勢調査局から出ている。これは毎年9月に一度だけ報告される。たとえ悪いCPIデータでも、秋に発表される結果は壊滅的なものになると確信している。このニュースはいつものように埋もれてしまうだろう。

左軸は実質可処分個人所得、右軸は米国の実質中央値世帯所得(2022年CPI-U-RS調整)

だから、所得は確かに大幅に減少している。多くの人がこの3年間のインフレ率を数値化するよう求めてくるが、私が把握しているすべての情報に基づくと、2021年からのインフレ率は35〜50%と推定している。つまり、ドルはその価値の半分を失った可能性がある。これが真実であれば、我々はGDPもそれに応じて調整しなければならず、2020年以降、国として生産量が13%減少したことになる。

これは、みなさんの経験にも、より一致するのではないだろうか。 言い換えれば、私たちは2020年に不況を脱することはできなかった。4年間の厳しい経済衰退の末、インフレによる401K(確定拠出年金)しか成果がない。これが現実的な理解だ。債券取引会社や大手金融会社で働いているなど、大規模な富の移転の反対側にいるという非常に幸運な人でない限り、実質所得が劇的に減少し、生活水準が大幅に低下しているはずだ。

先日、ある友人は「Disgruntled(不満)」と書かれた黒いTシャツを着ていた。これは現在の空気をよく表している。我々はメディア、政府、学界、エリート層全般、そして我々を裏切ったシステムの多くの側面に不満を抱いている。しかし、根底にあるのは、生活水準が低下しているという感覚だ。この部分が謎めいているのは、我々がそれを真実と認識しているにもかかわらず、公式の情報源がそれを否定し続けているからだ。

 

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
ブラウンストーン・インスティテュートの創設者。著書に「右翼の集団主義」(Right-Wing Collectivism: The Other Threat to Liberty)がある。