【プレミアム報道】中国共産党が強制臓器摘出に関する西側諸国の議論を封じ込める(1)

2024/06/10
更新: 2024/06/12

人権弁護士デービッド・マタス氏が、中国共産党(中共)政府の良心の囚人に対する臓器摘出というシステム的殺害行為を調査し始めた際、周囲で不審な事件が頻発した。

マタス氏が臓器摘出問題について講演する予定だった主催者たちは、直前になってイベントをキャンセルした。予約していたフォーラムの会場は、理由をほとんど説明せずに契約解除した。

あるフォーラムを開催する前日、その会場は車から銃撃を受け、窓に弾痕が残っていた。

別のライブの質疑応答セッションでは、中国の警察と自称する男性が電話をかけてきた。

男性は通訳を介して「死ぬのは怖くないのか? あなたは我々の党の内政に干渉している。あなたに報復する。怖くないのか?」と述べた。

しかし、マタス氏は堅く立ち向かった。当時を振り返りながら「私の発言が気に入らないのであれば、中国での臓器移植の濫用を止める努力をしてください。私を脅すのはやめてください」と述べた。

同氏は中共当局が自分を脅迫するというよりも、「彼らはただ自分たちの立場を主張したいだけであり、その立場を正当化するための何の根拠も持っていない」と指摘した。

それは2008年、中共政権による利益のための大量殺人計画が初めて明るみに出てから2年後のことだった。

この計画は「極めて短い待ち時間で臓器を移植できる」という約束で動く、数十億ドル規模の産業だが、その臓器供給は、臓器提供を望んでいない囚人から強制的に臓器を摘出することで成り立っている。

2024年までに、中国共産党には新たな巧妙さの表層以外、あまり変化がないように見える。

国際人権弁護士のデイビッド・マタス氏。2024年3月8日、ボストンのハーバード大学で行われた強制臓器摘出に関するイベントの前(Samira Bouaou/The Epoch Times)

中共政権は、表立った衝突を避け、経済的・外交的な手段を用いて批判を抑える方向に移行している。 政治的および医療分野のエリートを取り込み、政権の代弁をさせる戦略を取っている。

ある意味ではそれは成功している。政治界からエンターテインメント、学界に至るまで、恐怖のネットワークが広がり、実態を暴こうとする者たちを妨げている。

「見え透いた大嘘 」

2023年3月27日、米国国会はクリス・スミス下院議員(共和党)の「強制臓器摘出防止法案」をほぼ全会一致で可決した。

その翌晩の午後10時頃、中国共産党大使館はスミス議員のオフィスに激怒の書簡を送付した。

周征(Zhou Zheng)という官僚は書簡で、「中国はこの不合理な法案を断固として拒否する」と書いて、中共のプロパガンダを繰り返し、「アメリカ側は根拠のない誇大宣伝と反中国の行動を直ちに停止するよう求める」と主張した。

加害者を最高20年の懲役で罰するという法案を提出したスミス氏は、これを 「見え透いた大ウソ 」と呼んだ。

同議員は大紀元に「完全に健康な人々がストレッチャーに乗せられ、麻薬を投与され、2~3つの臓器を無理やり摘出されて殺される――それは人殺しだ。それは人道に対する罪だ」と語った。

法案はまだ上院での審議を待っている。

一方、スミス氏は打開策を模索し続けている。アントニー・ブリンケン国務長官に宛てた最近の書簡では、臓器収奪について告発する内部告発者を奨励するため、国務省に現金報酬を提供するよう要請した。

「沈黙は許されない」と、スミス議員は3月の議会公聴会で述べた。臓器摘出の虐待を抑止する方法を探るために、「特に医療団体や企業にとって、沈黙は許されない。彼らが沈黙することで、この凶悪な人道に対する罪に加担するリスクが最も高くなる」と指摘した。

(左から右)2024年3月20日、ワシントンで開かれた中共による臓器強制摘出に関する公聴会に出席した中国議会執行委員会委員長のクリス・スミス下院議員、ジェフ・バークレー上院議員、ミシェル・スティール下院議員(Madalina Vasiliu/The Epoch Times)

沈黙の協力者ら

それにもかかわらず、多くの人々は沈黙を保っている。

2017年、カリフォルニア州議会上院議員のジョエル・アンダーソン氏は、強制臓器摘出を非難する決議案を可決すべく同僚らの支持を集めていたところ、中国共産党が介入した。

アンダーソン氏の周囲の州上院議員たちは次々と、サンフランシスコの中国領事館から決議を支持しないよう警告する書簡を受け取った。その後、中共当局者から書簡を受け取ったかどうかを確認する電話までかかってきた。

書簡はこの決議案を「反中国」および「反人道的」と表現し、「カリフォルニア州と中国の協力関係に深刻な損害を与える可能性がある」と指摘した。

アンダーソン議員は、この戦術が「萎縮効果」をもたらしたと述べた。上院会期の最終週、彼は決議案を議会で審議するために18回試みた。ある時には、他の議員に対して、中国の迫害から逃れた被害者の顔を見て考えるように訴えたが、徒労に終わった。議員らは「その問題について話すことを望まなかった」のだ。

アンダーソン議員にとって、中共当局からの書簡がアメリカでこれほどの影響を持つことは、深くがっかりした。

大紀元のインタビューで、同氏は「カリフォルニア州やアメリカの議員が、中共政権に影響され、脅されることがあるなんて、怖いことだ。自分の国で見た虐待行為を非難する自信を持つべきだ」と述べた。

同議員は、スミス議員やデービッド・マタス氏と同様に、人権擁護活動を理由に北京のブラックリストに載っている。

中共政権は虐待についての議論を抑えるための活動を、カリフォルニア州だけでなくアメリカ全土や政治以外の分野でも成功させている。

2019年、ロンドンを拠点とする独立民衆法廷は、「合理的な疑いを超えて」、中国で国家による強制臓器摘出が大規模に行われていると結論づけた。ユタ大学の消化器がん専門医であるウェルドン・ギルクリーズ博士は、この結論を受けて、学校に対して何か行動を起こす必要を感した。

ユタ大学はユタ州内唯一の包括的な移植センターを持ち、腎臓、膵臓、肝臓、心臓、肺の移植手術をカバーしている。2017年には、肝臓移植と腎臓移植のプログラムが全米トップ10にランクインした。

ドキュメンタリー「国有臓器」では、法輪功学習者が瞑想を行うシーン。(Rooyee Films 提供)

ギルクリーズ博士は、ロンドンの民衆法廷の調査結果をまとめた3ページ半の要約を手にして、大学の最高医療責任者に接触し、大学の医療センターの法律および移植チームと協議することを提案した。しかし、最高医療責任者は臓器摘出の実態を認識していたにもかかわらず、中国が学生をユタ州ではなくテキサス州に送るかもしれないという懸念から、行動を控えた。

中共政権を怒らせることへの恐怖が、この問題に関する声を何度も封じ込めてきた。

2023年、カナダの映画監督シンディ・ソン氏は、『国有臓器(State Organs)』というドキュメンタリーを完成させた。これは、中国で20代の2人の若者が説明のつかない形で失踪した事例について、6年間にわたる調査の成果に関するものだ。

失踪者2人は法輪功の修煉者だった。1人はあるDVDを配布したために、警察から逃走中に行方不明になった。そのDVDは彼の信仰を標的とした中共の全面的な迫害の実態を明らかにしていた。

もう1人は夫が中国の労働収容所で拷問で亡くなってから1年後に行方不明になっていた。

法輪功は、「真・善・忍」を原則とする中国古来の伝統修煉法で、当時、中国で7千万人から1億人の学習者がいた。しかし過去25年間、中共はこのグループを排除しようとしてきた。規模が大きく、その信者の健康状態が良好なため、中共は彼らを主要な臓器の供給源にした。

2023年10月、イタリアの配給会社がシンディ・ソン監督のドキュメンタリー『国有臓器』に興味を示したが、翌日には謝罪して撤退した。

配給会社の女性は、映画が良くテンポよく進行していると称賛しつつも、「残念ながら、私の同僚たちは、法輪功迫害に関するドキュメンタリーはすべてイタリアの放送局から追い出されている」と述べた。

「中国からお金を稼ぎたいのであれば、中国のルールに従わざるを得ない。

      ——シンディ・ソン監督

シンディ・ソン監督はその後間もなく、カリフォルニア州サンタモニカで開催されたアメリカン・フィルム・マーケットでも同様の対応を受けた。

彼女が興奮したスタッフによって映画を紹介された大手アメリカ配給会社の幹部は、「止めろ、止めろ、止めろ。だめ、だめ、だめ」と言い、困惑したスタッフに対して、「法輪功に関する映画を取り扱うと他の映画を中国に売れなくなる」と説明した。

2023年11月、カナダの著作権保険会社が彼女の映画との提携を拒否した。「このテーマは我々にはあまりにも論争的だ」と説明した。

『国有臓器』に関して、カナダの著作権保険会社からのメールには、「中国には多くの資源があり、その評判を守るためには恐れずに行動するだろう」と書かれていた。ソン監督は、中共が経済的影響力を巧みに利用して自己検閲を強要していると述べている。

「中国からお金を稼ぎたいのであれば、中国のルールに従わざるを得ない。人々は中国国外でも言動をチェックし、中共を怒らせないようにしている。それによって少しずつ、私たちは皆、彼らの犯罪の黙認者になってしまう」

クリス・スミス議員も、中国の経済的影響力を認識している。

「彼らは一部の人々を萎縮させる能力を持っている」と述べた。

スミス議員はかえってこれは目を覚ますきっかけとなるはずだと言う。

「中共がこのような残虐行為を犯しているのであれば、それを非難し、立法や政策を通じてあらゆる手段尽くさないのであれば、それは我々の恥だ」

Eva Fu
エポックタイムズのライター。ニューヨークを拠点に、米国政治、米中関係、信教の自由、人権問題について執筆を行う。