「難しい話題」
強制臓器摘出の深刻さに対する認識が国際的および地方レベルで高まっているにもかかわらず、医療コミュニティからの反応は遅れている。
2022年、臓器移植分野で世界最大の研究機関である国際心肺移植学会(ISHLT)は強制臓器摘出への共謀の可能性があるとして、中国外科医の論文に対して学術的なボイコットを開始した。
1年後、アリゾナ州に拠点を置く米国医師外科医協会(AAPS)もこの運動に加わり、「あらゆる形態の強制臓器摘出を非難し、中国の医療専門家にスキルを教えたり、教育したりすることをやめる」ようアメリカの医師に呼びかけた。
相手は中国共産党だ。 中国共産党はもう何十年も、自国民やその他の国々に対して権力とプロパガンダを行使してきた。
——ユタ大学の消化器がん専門医、ウェルドン・ギルクリーズ博士
ユタ大学の消化器がん専門医であるウェルドン・ギルクリーズ博士は大紀元に次のように語った。「私が知る限り、政府が医療システムを操って無実の人々を殺害することが正当であると言う医師や外科医はいない。しかし、対立が生じるのは、世界で最も強力な国の一つである中国共産党と向き合わなければならないからだ。中共は、自国の人々や世界に対して数十年にわたり権力とプロパガンダを行使してきた」
ギルクリーズ博士によると、この問題を「難しいテーマ」とするのは、単に中共に対する発言や報復への恐怖だけではない。他の医師や外科医、医療団体の支援がなく、独りで立ち向かわなければならないことへの恐怖も原因の一つである。
移植分野ではトップに立つ人々は互いに知り合いであることが多く、狭い世界だ。中国の臓器移植分野の急速な発展は目立ち、アメリカと中国の外科医の間での交流や協力も一般的だ。
強制臓器摘出に関与している可能性のあるリストに載っている医師の一人、元中国保健相の黄潔夫(Huang Jiefu)は、2015年に政権が設立した臓器の出所に関する疑問が高まる中、臓器提供プログラムを例に挙げて、中共政権の立場を擁護してきた。
2019年に科学雑誌「BMC Medical Ethics」で発表された研究は、中国の臓器提供データは 「あまりにもきちんとしすぎている 」とされている。
研究共著者のジェイコブ・ラビー氏は、統計的鑑識によって調査した結果、数字は「ほぼ正確に数式に一致」し、「他のどの国とも1桁から2桁ほど異なっている」と述べ、組織的な改ざんの可能性が高いことを示唆している。
「中国が嘘をついていることを証明せよ」
それでも、臓器移植の実践を改善するという中共政権の約束は、米国の著名な外科医たちを満足させたようだ。
ハーバード大学で3月に開催された強制臓器摘出に関するパネルディスカッションの数日前、フランシス・デルモニコ博士は同僚にイベントの重要性を無視するような内容のメールを送った。
フランシス・デルモニコ博士は臓器移植の専門家で、ハーバード付属マサチューセッツ総合病院の非常勤外科教授である。頻繁に中国を訪れ、黄潔夫と共に講演を行っていた。
同氏は影響力のある国際移植学会の元会長でもある。この学会は100か国以上のメンバーを持ち、倫理的な実践に関するガイドラインを提供している。
デルモニコ博士は、「ハーバード全体への配信を求める」と題したメールで次のように書いている。
「このような非倫理的な実践が10年前に中国の移植可能な臓器の供給源であったことを認識しているが、その後、中国(共産党)政府はそれを禁止すると宣言した。私たちは北京で中国衛生部長と会い、国際社会の監視を維持し、中国がその約束を果たすようにしている。これらの議論で騙される可能性について、幻想を抱いていない」
ギルクリーズ博士はハーバード大学での集会で講演し、「中国の数字をそのまま信じてはいけない」と発言した。
彼は中国の医師らが2023年に「Journal of Hepatology」で発表した論文を取り上げた。この2年間の臨床試験では、60人以上の患者が、通常の肝移植を受けるか、「無虚血」肝移植を受けるか、無作為に振り分けられた。無虚血」とは、臓器が「温かい体からそのまま別の体に移された」ということだ。
論文の最後にはには「いずれも囚人からのものではない」という免責事項が記されていた。
ギルクリーズ氏は、それがどうして真実であり得るのか疑問を呈した。「どうやってそれをランダム化するのか? どうやって30件も行うのか?」
同氏は「死にかけている、脳死状態にある人がいて、それからそのドナーがすぐ隣にいる必要があるのだ」と述べ、さらに、医師たちが単一の病院のリソースを用いて短期間でこの「偉業」を成し遂げたと指摘した。
中国には適切に行動していることを示す責任がある。
—— 人権弁護士デービッド・マタス氏
ギルクリーズ氏は、「それは事実上不可能だ」と語った。
中国は「質問できない場所」なので、今のところ答えはない。
この研究について尋ねられたデルモニコ博士は「肝臓の体内保存および対外保存の方法は、アメリカや世界中で定期的に行われている」と答えた。
同氏は、自分の電子メールが効果的にイベントへの参加を思いとどまらせたかどうかはわからないとしながらも、大紀元に最近Transplantation Journal(国際移植学会の月刊誌)に発表した論説を紹介した。
その論文は「最後の大騒ぎ」と題されており、中国が2015年に立ち上げた臓器提供制度と2023年12月に中共国務院が署名した人体臓器提供および移植に関する規制に言及し、それが「世界保健機関のガイドラインを満たしている」と述べている。
デルモニコ博士は「これらの進展は、透明性と倫理的な移植への前進として称賛されるべきだ」と書いた。
しかし、人権弁護士デービッド・マタス氏は規制が何の違いも生まないと反論している。
マタス氏は「それはただの見せかけの対応に過ぎないが、彼らが何かするたびに懸念が表明されるが、それは意見を変えることにはならない」と述べた。
好むと好まざるとにかかわらず、デルモニコ博士がメールで名指ししたボストンのイベントの発言者の一人であるマタス氏は、デルモニコ博士の見解は「多かれ少なかれ、移植指導者の総意だ」と述べた。
マタス氏は大紀元に対し、「彼は、中国が嘘をついていることを証明せよ、と言っている。しかし、そのようなシステムは想定されていない。中国には適切に行動していることを示す責任がある。彼らが不適切なことをしていることを示す責任は我々にはない」と語った。
マタス氏や他の研究者は、詳細な報告書で数百の中国の病院の移植プログラムを分析し、メディア報道やアーカイブされた記録も調査した。彼らは病院の収益、ベッド数、ベッド使用率、外科医の人数、国家資金を調べることで、中国政府が移植件数を大幅に過少報告していると考えている。
研究者らは説得力のある状況証拠を集めた。たとえば、香港の肝臓移植登録で示された合計数は法輪功迫害と平行して急増し、オンラインの臓器移植広告、そして多くの中国の病院が記録破りの移植件数を誇っている。こうしたデータや記録の多くは今では消え去っている。
マタス氏は「私たちが何かを証明するたびに、彼らは証拠を取り除き、データを消し、『証拠が古い』と言った」。中国の刑務所記録や中国の病院記録を調べることができる独立した外部の観察者はいない。中国の拘束システムは完全にロックされている」と指摘した。
ハーバードでのイベントを準備していた大学院生のアン・カオ氏は、さまざまな妨害のシナリオに備えて準備していた。法輪功は中国ではタブーとされているため、学生センターのスタッフによると、そこで働いている一部の中国人学生は「法輪大法を修煉することで、最終的な中国への帰国に影響が出る」として非常に断固とした態度を示していたという。エポックタイムズに共有されたメールからもそれが分かる。
カオ氏は、デルモニコ博士からのメールについて「非常に失望した」と述べた。これを「真剣な議論を封じ込め、冷たい事実を葬り去る」という中共の指示に従っていると見ている。
同氏は大紀元に対し、「中国共産党がこの問題に関するいかなる議論も抑圧する理由は、事実や証拠に基づいて、何の根拠もないからだ」と語った。
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