中共国策企業「国家電網」の実態 政策決定における「外国干渉」排除が急務

2024/03/26
更新: 2024/03/28

内閣府の資料に中国の国営企業「国家電網公司」のロゴが入っていた問題を受けて、岸田文雄首相は25日、再エネ政策は「他国から干渉されない体制を確保しなければならない」と答弁した。野党議員は政府に対し、国家安全保障会議(NSS)による厳格な対応を求めている。

「エネルギーセキュリティ、これは我が国の安全保障の中核的な課題の一つだ」。25日の衆院予算委員会で、維新の会・音喜多駿議員の質疑に対し、岸田首相はこう強調した。インターネット上では国家電網公司が日本政府の政策決定に影響力を及ぼしたのではないかと疑問視する声があり、首相は「不適切な内容が判明した場合には、厳正な対応を講ずる」と述べた。

急拡張する国家電網

では、中国国営企業の国家電網公司とは一体、どのような企業なのか。

国家電網公司は中国国営の電力配送会社だ。中国国有資産監督管理委員会が100%出資し、中国国内の送電網の9割以上を保有・運営する、世界最大級の送電会社である。同社は「習近平思想を深く学び、政治性、思想性、芸術性、大衆性の統一を堅持」するという企業理念を説いている。

同社の配電エリアは中国26の省、自治区、直轄市をカバーし、国土の88%以上を占める。海外展開にも積極的で、同社の公式サイトによると、「ブラジル、フィリピン、ポルトガル、オーストラリア、イタリア、ギリシャ、オマーン、チリ、パキスタン、香港など10か国・地域でエネルギー・グリッド・プロジェクトへの投資と運営参画に成功している」という。

中国メディア「界面新聞」が報じたところ、過去18年間、国家電網の年間外資投資規模は1000億元を超え、近年は加速度的な拡大傾向を示している。2020年には外資投資額が6018億元となった。 2003~2020年と2021年第1四半期、国家電網の累計外資導入額は6666億元に達した。

一帯一路プロジェクトとの関係

中国共産党は2017年から一帯一路プロジェクトを打ち出し、ユーラシア・アフリカ大陸に跨る広域経済圏を構築し始めた。多国間協力は貿易、経済、エネルギー、医療など様々な面に及んでいる。

同年、北京で設立されたのが、電力の共有を推進する中国共産党のプロジェクト「GEIDCO(全球能源互聯網発展合作組織、Global Energy Interconnection Development and Cooperation Organization)」だ。GEIDCOの会長には国家電網の劉振亜(Liu Zhenya)会長が就任し、副会長には自然エネルギー財団設立者・会長の孫正義氏(ソフトバンクグループ株式会社代表取締役社長)が、元米国エネルギー庁長官のスティーブン・チュー氏とともに就任した。

一帯一路プロジェクトについて広報する中国当局の公式サイト「一帯一路能源合作網(仮邦訳:一帯一路エネルギー協力ネットワーク)」によると、GEIDCOの目的はグローバルなエネルギー供給網を作ることだ。理事には、日本の「自然エネルギー財団」が名を連ねる。

中国石油広報センターも、一帯一路エネルギー・パートナーシップやGEIDCOに代表される一連の新しい国際メカニズムの構築を通じて、中国は世界のエネルギー・ガバナンスのための「チャイナ・ソリューション」にも積極的に貢献しているとしている。

中国のエネルギー・電力分野の総合学術誌「中国能源互連網」が2018年位掲載した論文によれば、「一帯一路」沿線の国境を越えた送電網相互接続はすでに具体化しており、2015年末の時点で、「一帯一路」沿線の中核64か国のうち、50か国が国境を越えた送電線を建設し、近隣諸国との国境を越えた電力貿易を実施している。

フィリピン送電網、中共影響力に懸念の声

中国系電力会社が現地の電力供給網に参入したフィリピンでは、国家安全保障に対する懸念の声が高まっている。

2007年、フィリピン国家送電会社(NGCP)はフィリピンの国営送電公社の設備を25年間運営・管理する権利を取得した。しかし、フィリピン国家送電会社の株式の4割は中国国家電網が保有している。当初から、国家電網の出資が問題視されていたが、親中路線のアロヨ政権は懸念を一蹴した。2009年1月、フィリピン国家送電会社は送電事業を開始した。

2019年、フィリピン上院のエネルギー委員会で、同社に関する安全保障上の懸念は指摘された。野党から「中国はボタン一つでフィリピンの経済活動を麻痺することができる」という声が上がった。

メディアが報じたNGCPの内部報告書によると、同社のシステムは海外にいる中国人技術者が遠隔操作できる仕組みだ。中国人が幹部となり、フィリピン人従業員は簡単な作業にしかできないという。

他国から干渉されない体制づくり

「国家電網公司」のロゴ問題をきっかけに、他国から干渉されない体制を構築することの大切さが改めて浮き彫りになった。

高市早苗経済安全保障担当相は26日の記者会見で、「エネルギー安全保障は国民の生活や経済活動に大きな影響を及ぼす安全保障の中核的な課題だ」と指摘。「関連政策の検討にあたっては、他国から干渉されるようなことがあってはならない」と述べた。

国民民主党の玉木雄一郎代表は公式Xに投稿し、「我が国の電力の安定供給のあり方を決める重要な審議会に外国勢力の関与があってはならない。内閣府のみならず経産省など他府省でも徹底的に調べるべきだ」と指摘した。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
清川茜
エポックタイムズ記者。経済、金融と社会問題について執筆している。大学では日本語と経営学を専攻。