女子サッカー、能登地震お見舞い…北朝鮮が日本に秋風 米韓を裂くくさび

2024/03/02
更新: 2024/03/04

岸田文雄首相は2月の衆院予算委員会で、北朝鮮政策で自らが主導する「ハイレベル協議」実施を宣言し、訪朝はやぶさかではないとの報道もある。こうした軟化姿勢をうかがう北朝鮮も、経済支援を見据えて日本に水を向ける。

「両国が会えない理由はない」とする外務次官談話や、能登半島地震の犠牲者へのお見舞い、さらには妹の与正・朝鮮労働党副部長からの岸田首相訪朝への言及などが続いている。

加えて、サッカー女子だ。28日に国立競技場で行われたパリ五輪アジア最終予選で、日本女子代表「なでしこジャパン」は北朝鮮チームを2-1で下した。試合には約3000人の在日朝鮮人が駆けつけ、なでしこにも声援を送るといった様子がみられた。プロパガンダの一環であり、スポーツを通じた「両国間の関係改善を模索する動き」との指摘もある。

北朝鮮の「急接近」に対し、超党派の国会議員からなる「日朝国交正常化推進議連」(会長・衛藤征士郎元衆院副議長)は前傾姿勢だ。27日の総会で採択予定だった岸田首相の訪朝要請決議は、原文の3分の2を北朝鮮側の主張で占めた。

玉木雄一郎・国民民主代表ら複数の出席議員が反対し、修文することとなった。玉木氏は「全然ダメ」との但し書きをXで公表し、「朝鮮総連が起案したかと思うような文案」と批判した。産経新聞によれば、日本維新の会の馬場信之代表や、共産党の笹井亮衆院議員も不備を指摘したという。

北朝鮮拉致問題に詳しい言論人・加藤健氏も「完全に北朝鮮の代理人じゃないか。こんな草案が出されたこと自体が驚異的。アメリカなら即座にFBIが操作を始めるだろう」と怒りを露わにした。

日朝議連の総会では、衛藤氏は25日に朝鮮総連幹部と面会したことを明らかにした。

なぜ北朝鮮は日本に接近するのか

韓国を「第一の敵」と宣言して以降、北朝鮮の日本接近はさらに顕著になっている。軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹氏はエポックタイムズの取材に対し、日韓関係を分断する狙いがあると分析した。

「北朝鮮の後ろにいるのはロシアだ。両国は互いに支援しており、西側陣営の切り崩しを狙っている。いまはまさに関ケ原の戦いのように、天下分け目の大戦の直前のような様相。相手陣営を切り崩し、寝返らせたい思惑がある」

中露の脅威に対抗するため、日米韓は北東アジアでの対処力・抑止力を高めている。昨夏に開催された米キャンプ・デービッドでの3か国首脳会談では、安全保障協力を新たな高みに引き上げるため、首脳や閣僚級の会談を定例化や、緊急時の情報共有の仕組みを強化することなどで合意した。北朝鮮はそこに楔を打ち込みたい、というのだ。

日本にも「弱み」はあると鍛冶氏は指摘する。

「岸田政権は支持率が非常に低い。解散前に実績を積むべく、藁にもすがる思いだ。そこで北朝鮮が手を差し伸べると、日朝交渉のために飛びつくかもしれない。ここで北朝鮮の要請に応じれば、『西軍』は動揺してしまう」

ウクライナ戦争勃発後、世界では自由主義国と独裁国家の対立がより鮮明となっている。鍛冶氏は、習近平やプーチンなどの独裁者は戦略的に動いているとし、日本は彼らの思惑を見抜く必要があると指摘した。

さらなる制裁を

武装組織ハマスやロシアに対する武器供与が指摘され、国際情勢の不安定化に関与している北朝鮮。日本は態度を引き締めるべきだと声を上げるのは、松原仁衆院議員だ。

「日本は制裁を世界で最も強く実施しているといわれるが、制裁余地はまだあるか」ーー。松原議員は28日の衆院予算委員会で述べた。

日本には北朝鮮との関連が強い「朝鮮総連」が存在し、金正恩政権の政策や立場を日本国内で代弁する。政権の指針に基づき在日朝鮮人への制御も行なっていると言われている。

政府は朝鮮総連に対する破産宣告について「可能」だと答えた。松井官房審議官は、朝鮮総連が権利・能力なき社団に当たるかの前提でいえば、破産法に基づき、破産手続き開始の申し立てはできると説いた。

松原議員はさらに、資産凍結についても質問した。外務省の門脇次官は「今後の対応は拉致、ミサイル問題の解決に向けて効果的な手段を検討していく」と応じるにとどめた。

林芳正官房長官は、拉致問題に関する全面解決には、被害者の安全確保及び即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引き渡しが必要だと強調・政府はこれらを目指して全力を尽くすとした。

拉致被害者の家族は高齢となり、対北政策を遅らせる余裕はなくなっている。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。